金髪の槍使い
全速力で駆けた甲斐があったのか、武道大会の受付会場まで、ものの数分で辿り着くことが出来た。
「はぁ……はぁ……間に合ったか?」
「どうやらそのようだな」
武道大会の受付会場は、石で積み上げた堅牢なガトーショコラの城門前に設けられた小さなテントだった。
そこには、もう間もなく受付を締め切る旨を伝える禿頭の偉丈夫がおり、まだ受付を終えていない戦士たちが長蛇の列を作っていた。
「まさか、ここにいる人たち、全員が武道大会に参加するつもりなのか?」
「そのようだな。それより、俺たちもとっとと列に並んじまおうぜ」
「あ、ああ……そうだな」
キリンに急かされ、ロイたちは慌てて列の最後尾に並んだ。
「ふぅ……すまない。先程は助かったよ」
列に並ぶと同時に、ロイが助けた剣士がにこやかな笑みを浮かべて手を差し伸べてくる。
「私はカリントウ出身の者で、セシル・マグノリアという者だ。どうぞセシルと呼んで下さい」
「あっ、俺はロイ・オネットだ。ロイでいいよ。よろしく」
ロイは剣士、セシルの手を握り返して自己紹介をする。
すると、ロイの名前を聞いたセシルが驚きに目を見開く。
「ロイって……まさか、あの実直勇者のロイか?」
「あ、ああ……一応、世間ではそう言われている」
「そうか、君が……」
そう言うと、セシルはロイの顔をまじまじと見つめ始める。
「あ、あの……何か?」
端正な顔のセシルに至近距離で見つめられ、ロイは視線を右往左往させる。
赤面するというよりも、困惑した様子のロイを無視して、セシルはロイの顔だけでなく、腕や足、胸や腹を何度も見たり、時には触ったりを繰り返す。
そして、十二分にロイの体を触りまくったセシルは、不思議そうに首を傾げる。
「ふむ……世界を救った勇者というからどれほどの豪傑かと思ったが……決して未熟とは言わないが、思ったより華奢なんですね?」
「あ、ああ……まあ、ね」
そう言うと、ロイは背中の剣を顎で示す。
「俺の強さの大半は、こういった優秀な武具と、頼りになる仲間があってこそだ。俺一人では、とてもじゃないが魔王討伐なんて成せなかっただろう」
「も、もしかして、それが噂に聞く聖剣デュランダルなのですか?」
「ああ、そうだよ」
ロイが頷いて肯定すると、セシルの目がキラキラと輝き出す。
「す、すすす、すまないが、デュランダルをこの目で見させてもらえないだろうか?」
「構わないよ。ただ……」
ロイは一気にデュランダルを引き抜くと、悲しそうに刀身を撫でる。
「この前の戦いで、少し無茶をさせ過ぎた所為で、この通り刃が濁って、切れ味も皆無になってしまっているんだ」
ロイの言葉通り、蒼穹を思わせるデュランダルの刀身は薄暗く濁り、刃には細かい傷がいくつも見受けられる。そこには決して折れず、刃こぼれもしない奇跡の聖剣と謳われた輝かしさは微塵も残っていなかった。
今にも朽ちてしまいそうなデュランダルを見て、セシルが顔を青くさせる。
「こ、こんなになって……直るのですか?」
「当然だ」
ロイは決意に満ちた眼差しで告げると、大事そうにデュランダルを鞘へと戻す。
「こいつは俺のかけがえのない相棒なんだ。こいつを直す為だったら、何だってやってやるさ」
「そうですか、無粋でしたね」
自信に満ちたロイの表情を見て、セシルは素直に自分の非を詫びる。
「私なんかが気軽に立ち入っていい話ではなかったですね」
「気にしないでくれ。全ては俺が未熟だっただけさ」
「お~い、そろそろ俺たちの番みたいだぜ」
話が一段落つくタイミングで、キリンが受付の番が回って来たことを告げてくる。
どうやら結構な時間、話し込んでいたようだ。
ロイたちはそこで話を切り上げると、受付へと足を向けた。