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身もふたもない話

「そうか、あの貴族の男がアベルだったのか……」


 インからアベルの正体を聞かされたロイは、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 まさかセシリアの探していた人物と、自分が接触していたなんて……しかも、剣士であることを辞め、八百長試合を行う組織に所属しているとは思ってもみなかった。


 しかも、どうやらセシリアが攫われた理由が、アベルの身辺調査をしたのが原因だと聞かされ、ロイとしては自分の愚かさに忸怩たる思いだった。

 せめてセシリアからアベルの身体的特徴を聞いておけば、カインと間違うこともなく、セシリアが攫われる要因を消すことができたのではないだろうか……などとロイが考えていると、


「ああ、ちなみにその八百長試合を行っていた組織だけど、国王の介入で壊滅させられたよ」


 オニキスが新たに得た情報を教えてくれる。


「どうやら勇者様が自分の思い通りに動かなくて、大損をしたアベルが文句言いに行ったら、不審人物として捕らえられたてしまったなんて、何て情けない話だろうね」

「ああ、そういえば……」


 思い返してみれば、そんな話もあったことをロイは思い出す。


「じゃあ、アベルはおとなしく取り調べに従ったのか?」

「ああ、司法取引で全部吐いたら釈放してやるって条件を突き付けられたら、あっさりと洗いざらい白状したみたいでね。そこから組織の壊滅までは、あっという間の出来事だったよ」

「それじゃあ……アベルは?」

「組織が壊滅したと同時に釈放されたらしいね……まあ、それからどうしてお嬢ちゃんを攫うような展開になるかはわからないけどね」


 そう言ってオニキスは、期待に満ちた目でインの方を見やる。

 インならば何か情報を掴んでいるという信頼が伺えた。


「…………」


 オニキスの視線を受けたインは、ゆっくりと頷いて自分が得た情報を話す。


「実は、その八百長の組織は、奴の本業を隠すカモフラージュの一つに過ぎない」


 インが得た情報によると、アベルは何処からか得た膨大な資金を使って、いくつもの裏の顔を持っているという。

 八百長試合を行わせるというのは、依頼者が賭けに勝つように仕組んだり、望みの対戦カードが実現するように、不必要な人間を排除したりするなど、武道大会を盛り上げる為に一部の貴族たちの要望で出来た組織だという。

 他にも、盗みや恐喝、薬や人身売買といったありとあらゆる組織の一端に、アベルの名前があるという。

 だが、それらの裏の組織は、不思議なことに一定期間が経つと、ガトーショコラ王国軍の手によって摘発され、壊滅させられるという。

 しかし、暫く経つとまた同じような組織が生まれ、壊滅させられるという、所謂いたちごっこのような状態が続いているという。


「んん? ちょ、ちょっと待ってくれ」


 インの話についていけず、ロイが思わず待ったをかける。


「その全ての組織にアベルが関与してるって、一体何のために? それに、それだけの組織に関与していて、所属していた組織の連中は、司法をつかさどる者は不審に思わないのか?」

「そんなのは知らん。ただ、一つ言えるのは、人間という存在の殆どは、金さえ手に入れば何でもするということだ。それに関わる連中も、アベルが過去に何をやっていたかを考えるだけの頭があれば、裏の組織に世話になるようなことにはなるまい」

「さ、さいですか……」


 インの辛辣すぎる言葉の数々に、ロイは何も言い返すことができなかった。


「でも、こうなるとますますわからないわね?」


 冷や汗を流して固まるロイに代わって、エーデルがインに質問をする。


「ここまで聞いた話だと、そのアベルって奴が自分の過去を知っている小娘を攫う理由はあるかもしれない。でも、街のチンピラの大将レベルでしかないはずのその男が、どうやって城の中の人間を攫うことができるのかしら?」

「単純な話だ。城の中に協力者……というより、アベルの飼い主がいるんだ」

「ということは、その人物の目星もついているのね?」


 その質問に、インは小さく頷いた。

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