思わぬ評価
その後、余り遠くに行ってしまうとコープに悪いということで、ロイたちは医務室の入り口が見える廊下で話をすることにした。
時折通る人が何事かと目を向けてくるが、キリンがいるお蔭か、この場にロイがいても咎められることはなかった。
「それで、ロイは知っていたのか?」
「セシル……というよりセシリアの正体をか?」
「ということは知っていたんだな」
「ああ、彼女と話をするために風呂に押しかけた時に知った」
「…………今の話がロイの口以外から出ていたら、俺はこの拳を迷いなく降り抜いていたぜ」
キリンは涙を流しながらわなわなと震えると、今にも暴れそうな拳を必死に抑え込むような仕草をする。
それを見たロイは、すっかりいつも通りになっているキリンに呆れながらも、キリンの目から見たライジェルの評価を聞いてみることにする。
「それで、率直に言ってどう思った?」
「そうだな。一言で言うと、弱くはない……かな?」
「……意外だな」
思ったより低い評価に、ロイは驚きが隠せないでいた。
ロイが見た限り、ライジェルの体は完全に一流の戦士として仕上がっており、その体に刻まれた努力の証が、彼の実力が決して作られたものではないと証明していた。
「そうだな、その点については俺様も否定はしないさ……ただな?」
「ただ?」
「奴は綺麗すぎるんだよ。これまで何人の相手と戦ってきたか知らないが、怪我らしい怪我が一つもない。今回の大会も、驚くほどあっさりと勝ち抜いてきて、まるで奴の試合だけ勝負というより演劇を見ているみたいだったぜ」
「演劇……」
「だが、今日の試合は一転して違うものだった。圧倒的な速さと、鉄をも切り裂く桁違いの膂力……実力を隠していたと言えばその通りなんだけど、あれはどう見ても……」
「キリンの血涙華と似た性質の技か?」
「もしくは何かしらの補助魔法の援護を受けているかだけど……これは明確なルール違反に当たるし、これだけ魔法が発展した国でそれを見抜けないなんてことはないだろう」
「じゃあ、やっぱりセシリアを圧倒したのが本当の実力?」
「おそらくな……まあ、それでも俺様は負けるつもりはないけどな」
キリンは犬歯を剥き出しにして獰猛な笑みを見せる。
「あんな試合を見せられたら……例え知らなかったとしても、女の子に傷を負わせるような男は許しておけないからな。残り二つのどっちかで対戦することになるだろうから俺様が全力で叩き潰してやるさ」
「そう言っておいて、戦う前に負けるようなことはやめてくれよ?」
「フッ、心配ねぇよ。これから先、油断も隙も見せるような真似はしないさ。まあ、大船に乗ったつもりで俺様の活躍に酔いしれな」
「……わかった。期待しているよ」
竜王討伐以来ではないかと思われるやる気を見せるキリンに、ロイは今の彼なら大丈夫だろうという確信を得た。
それからしばらくして、城内で聞き込みを行っていたコープからセシリアは城の中にいないという報告を聞いたロイは、彼に礼を言ってガトーショコラ城を後にした。
それからロイは、念のために周りにいた人からセシルの行方を聞いてみたが、誰もその姿を見た者はいなかった。




