論破!そして……
「残念だけど、そんな馬鹿な話、あるわけないじゃない」
すると、白熱するロイたちに水を差すような声が聞こえた。
目を向けると、呆れた様子のエーデルがいた。
「悪いけど、途中から話を聞かせてもらったけど、そんな陰謀めいた話、あるわけないじゃない」
「ど、どうしてそんなことが言えるんだ」
「簡単よ」
エーデルは指を立てると、得意げに話し始める。
「第一、武器に細工されたとしても、戦う前に自分で武器の状態ぐらい確認するでしょ。それともあなたは、自分の武器を誰かに預けたりした後、ロクに確認もしないような三流の戦士なのかしら?」
「うくっ……」
「第二に、ライジェルの攻撃は、武器だけじゃなく、セシリア……だっけ? あの娘が着ていた鎧も綺麗に切り裂いていたわ。ということを考えると、武器だけじゃなく、鎧にまで細工をする必要があるのだけれど?」
「だ、だったら、相手の武器や鎧を簡単に破壊してしまうような、特別な武器を使用していたんだ!」
「ハッ、語るに落ちるとはこのことね」
エーデルはやれやれと盛大に溜息を吐くと、ズビシッ、とカインに指を突き付ける。
「この武道大会は、そういう大会でしょう? 技術を競うのは当然、そこに武器の性能ありきで戦うのだから、ライジェルがそんな武器を用意していたとしても、ルール違反にはならないわ。むしろ、実力も伴わないのに、不殺の武器で戦おうとした己の未熟さを恥じるべきじゃないかしら?」
「エーデル、その辺にしておいてやれ」
容赦ない言葉を浴びせ続けるエーデルに、ロイが待ったをかける。
「確かに、エーデルの言うことはもっともだ。俺たちが早計だったかもしれない」
「おいっ!?」
「カインも落ち着くんだ」
顔を真っ赤にさせて怒りを露わにするカインをロイが手で制す。
「とりあえず、今からセシリアを迎えに行ってこようと思ってる。それだけ酷い怪我を負ったのであれば、高度な回復魔法を受けたとしても、何かしら体を動かすのに支障が出るはずだからな。そこで、彼女から話を聞いてみるというのはどうだ?」
「……わかった」
ロイの提案に、カインはしぶしぶながら頷くと、がっくりと項垂れる。
「僕が間違っていたというのか……」
「…………」
その余りの痛々しい姿に、ロイは何て声をかけようが迷うが、
「それじゃあ、ちょっと行ってくる」
そうとだけ告げると、カインの部屋を後にした。
(待ってろ、カイン。セシリアと会えば、何が真実かわかるはずだ)
今は下手に言葉を尽くすより、確固たる証拠を探すべきだ。そう考えたロイは、急ぎ足でガトーショコラ城へと向かった。
「えっ、まだ城内にいる?」
武道大会の会場であるガトーショコラ城へと戻ったロイがセシリアの容体について見張りの兵士に質問すると、意外な答えが帰って来た。
「ど、どうしてですか。負けた選手は、城から出ないといけないんですよね?」
「はい、原則としてはそうなのですが……」
応対してくれた兵士は申し訳なさそうな顔をすると、ロイの要望に応えられない理由を話す。
「実は……その、ライジェル選手に負けたセシル選手の容体が芳しくないらしいのです。一刻も争う状況で、今も医療班が全力で治療にあたっているということです」
「か、彼女は助かるんですよね?」
「それは任せて下さい。我が国の回復魔法の技術は世界一であると自負しています。必ずや、勇者様の下へ元気になった彼女とお会いできるようにしてみせます」
「……わかりました。彼女をお願いいたします」
回復魔法に心得がないロイとしては、そう告げるだけで精一杯だった。
しかし、こうなると慌ててこの場に来た意味すらなくなってしまう。
せめてセシリアの安否だけでも確認しないと、帰るに帰れない。
そう思ったロイは、見張りの兵士にさらに食い下がってみることにする。
「あの……セシルが出て来れないなら、こっちから会いに行くのは駄目ですか?」
「勇者様が……ですか?」
「はい、その……俺のかつての仲間に、回復魔法に長けた奴がいるんです。セシルの詳しい容体がわかれば、何か力になれるかもしれません」
かつて回復魔法に長けた僧侶と旅をしていたのだから、厳密に嘘を吐いている訳ではないが、それでも人を騙すという行為は、ロイにとってはかなりの苦痛を伴うものだった。
「ですからお願いします。遠目から確認するだけでも構いませんので……」
「わ、わかりました。勇者様がそこまで仰るのであれば」
見張りの兵士は神妙な顔で頷くと、隣にいた同僚にこの場を離れる旨を告げ、ロイを伴って城内へと移動を開始した。




