目が覚めたら……
「……イ…………ロイってば!」
(…………何だ?)
耳元から聞こえてくる声に、深いまどろみの中にいたロイの意識が目覚める。
「ねえ、ロイ。早く起きてよ」
(……誰だかわからないが、少し静かにしてくれないか。まだ眠り足りないんだ)
昨日の疲れがまだ体に残っているロイとしては、まだこの暖かいベッドのぬくもりに包まれていたかった。
(……………………ん?)
そこでロイは、あることに気付く。
自分は昨晩どこに寝ただろうか。果たしてこんなぬくもりに包まれるような環境で寝ただろうか。
「…………ハッ!」
そこで昨晩のことを思い出したロイは、一気に覚醒する。
「わっ!?」
「び、びっくりした……」
ロイが目を開けると、覆いかぶさるようにこちらを見ているエーデルと、そのすぐ後ろで驚きに目を見開いているリリィがいた。
「…………」
どうしてここに二人がいるのか気になるが、ロイはとりあえず起きて自分の周りを確認してみる。
そこは、間違いなく昨日寝たカインの部屋だった。
だが、家主であるカインの姿は既になく、床に寝ていたはずの自分の体がどういうわけか、カインのベッドに収まっていた。
「俺は、どうして…………って、いぎっ!?」
きょろきょろと辺りを見渡していると、いきなり顔を掴まれ、無理矢理エーデルと目を合わせられる。
「おはよう、ロイ。目が覚めた?」
「あ、ああ……目が覚めたけど……どうしてエーデルがここに……それより二人ともカインを……この家の家主が何処に行ったか知らないか?」
その質問に、エーデルとリリィは揃って顔を見合わせる。
その反応を見たロイは、もしかしてカインに何かあったのかと思うが、出て来た答えは予想とはかなり違っていた。
「何処に行ったかって、そりゃ仕事に決まっているでしょ」
「……えっ?」
「えっ、じゃないわよ。ロイ、あなた今、何時だと思ってるの?」
「何時って、そりゃあ……」
そう言いながら表を見たロイは、思わず絶句する。
窓から見える空は、赤く、燃えるような真っ赤な色に包まれていた。
ということは、つまり……、
「も、もしかして、俺、夕方まで寝てた?」
「もしかしなくても、その通りよ」
エーデルは大袈裟に肩を竦めると、やれやれと呆れたようにかぶりを振る。
しかし、すぐに真顔になると、声を落としてロイに話しかける。
「そんなことよりロイ、あなたに報告があるの……落ち着いて聞いて頂戴」
「な、何だよ。改まって……」
ただならぬ雰囲気に、ロイは息を飲む。
「実は、今日、彼女の試合があったんだけど……」
「彼女?」
「セシル……だっけ? ロイはあの槍使いが女だって知ってたんでしょ?」
「え? あっ、そ、そうだけど……どうしてエーデルが知ってるんだ。まさか……」
まさかという顔をするロイに、エーデルが頷きながら答える。
「ええ、今日の試合で負けて正体がバレたのよ」




