勇者VS武道家①
試合開始の合図と同時に、二人の戦士は同時に動き出す。
ロイが大上段の構えから振り下ろしによる攻撃を繰り出すと、キリンが鉄板の仕込まれた足で迎え撃つ。
「はああああああああっ!」
「おりゃあっ!」
次の瞬間、両者の攻撃が舞台の中央で激突する。
「うおっ!?」
衝突の余波で生まれた衝撃波に、審判の男性が舞台の上から転がり落ちる。
しかし、審判の男性がそんな悲惨な目に遭っているとは、会場にいる誰も気付くことはなかった。
その理由は、言うまでもなかった。
最初の衝突の後、ロイは力任せにキリンを吹き飛ばすと、間を置かずに連続攻撃に移っていた。
「せいっ、やあっ、はあああっ!」
素手のキリン相手に、ロイは容赦なく次々と攻撃を繰り出していく。
斬撃と刺突による攻撃を上段、中段、下段と巧みに振り分け、キリンに反撃する隙間を与えないほどのラッシュを仕掛ける。
ロイが一撃、一撃振るう度に、思わず背筋が凍るほどの空気を切り裂く音が響く。
一撃でも喰らえば、意識は吹き飛ばされ、例えガードしても、ガードの上からダメージを受けてしまう攻撃を前にキリンは、
「いやぁ、ハッハッハ、相変わらずの馬鹿力だな……っと!」
笑いながら紙一重で回避し続けていた。
攻撃を避ける度、金色の髪の毛が舞い、斬撃がかすって道着が破れ、体に赤い痕をつけていくが、キリンは犬歯を剥き出して笑っていた。
「……チッ、このっ!」
息つく暇もないほど攻撃を繰り出しているのに、余裕の表情を浮かべているキリンを見て、ロイは苛立ちを露わにする。
(……落ち着け、ここで冷静さを失ったらキリンの思う壺だ)
キリンが防戦一方でいるのは、素手なのでロイの剣檄を受けられないというのもあるが、ロイに攻撃をさせ続けることで、自分が責められる隙を作ろうとしているのだろう。
派手な戦いを好む傾向にあるキリンだが、最も得意とするのはカウンターだ。
ロイはキリンの誘いには乗らないと決めると、一度体制を立て直すために距離を取ろうとする。
しかし、
「逃がすと思うか?」
大きく後ろに飛んだロイに合わせて、キリンが前へ出てくる。
「大方、俺様がカウンターを狙っていると思ったのだろうが、そんな古い手に固執する俺様じゃないぜ!」
キリンは地面を強く蹴って飛び上がると、激しく回転しながらロイへと浴びせ蹴りを浴びせる。
「いくぜ! ローリング・エクストリーム!」
「――っ!?」
回避が不可能と判断したロイは、咄嗟に剣を掲げて、剣の腹でキリンの蹴りを受ける。
瞬間、蹴りを受けたとは思えない轟音が武道場内に響き渡る。
攻撃を受け止めたロイの体が沈み、舞台にいくつもの亀裂が生まれる。
「うぎぎぎ……」
放たれた攻撃は凄まじいものだったが、それでもロイはどうにか耐えきった。
さらに、手にしたカイン特製の剣も、剣の腹で受けたにも拘わらず、ヒビ一つ入っていなかった。
(この好機、逃さない!)
大技を放ったキリンは、必殺の蹴りを放ったせいで致命的な隙を晒している。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!」
裂帛の気合を上げてロイは無理矢理キリンの足を払い上げると、体制を立て直そうとするキリンに食い下がった。




