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次の対戦相手

 あれからロイに介抱されたセシリアは、どうにか大事に至らずに済んだ。


 セシリアはまだ立って歩くのは無理のようだったので、今はロイの背におぶられて自室へと戻るところだった。


「うう……裸を見られるどころか、あちこち触られてしまった」


 ロイの背中にしがみつきながら、顔を真っ赤にしたセシリアが呟く。


「こんなことが父上に知られたら、きっと勘当されてしまう……」

「ハハハッ、大袈裟だな」

「わ、笑い事じゃないです! 私の父上は、本当に厳しい方なのです」

「じゃあさ、もし、本当に勘当されたら俺のところに来なよ?」

「はへっ!?」


 突然の提案に、セシリアは百面相をする。


「い、いいのですか?」

「ああ、とんでもなく田舎で、何にもない家だけどさ。普通に暮らす分には困らないと思うからさ……あっ、でも仕事は探すのに苦労するかもな」

「そう……ですか」


 ロイの様子から、自分が想像していた意味とは違うということを察し、セシリアは小さく嘆息する。


「わかりました。いざという時はお願いしますね」

「ああ、任せてくれ」


 ロイが頷くのを背中越しに見て、セシリアは自然と口角が上がるのを自覚する。

 つい先程、死ぬほど恥ずかしい目に遭ったばかりなのに、その元凶となったロイに全幅の信頼を寄せている自分がいることに気付いたのだ。

 これが、ロイが実直勇者と呼ばれる所以なのだろう。


 セシリアは、ロイの広い背中から伝わる熱を心地よく思いながら、彼に身を預けようとした。

 しかし、


「ロイ……」


 廊下の向こうから声が聞こえ、セシリアは慌てて身を離す。


 その人物は、ロイの昔の仲間で武道家のキリンだった。

 キリンはロイたちの様子を見て、思わず眉根を寄せる。


「部屋にいなかったから何処に行ったと思えば……お前たち、何をしているんだ?」

「ああ、俺はセシリ……じゃなくてセシルと話がしたくて一緒に風呂に入ってた」

「ちょっ、ロイ……」


 セシリアが赤面しながらロイを窘めようとするが、


「しっ、大丈夫。俺に任せてくれ」

「う、うん……」


 ロイの力強い瞳を見て、セシリアはおとなしく引き下がる。


「……お前等、何だか怪しいな」


 コソコソと話すロイたちを見て、キリンが訝しむように三白眼で睨む。


「俺に内緒で、何か楽しいことをしていたんじゃないだろうな?」

「そんなわけないだろう。ただ、親睦を深めるために風呂で話していただけだ。なあ、セシル?」

「え? あっ、はい。そ、その通りです」


 セシリアが同調するように何度も頷く。

 しかし、その程度ではキリンの疑いは晴れない。


「…………怪しいな。そっちの兄ちゃんは何だかどもってるし」

「まあ、そう言うな。風呂で少し長話をしてしまったから、セシルが湯あたりになってしまったんだ。彼はそうなった自分が恥ずかしくて仕方ないそうだ」

「何だよそれ。俺なんかしょっちゅうだったぜ」

「……そういやそうだったな」


 ロイは過去の出来事を思い出し、思わず苦笑する。


「まあ、その経験があったから、今回こうしてセシルを難なく助けることができたんだがな」

「ふ~ん、そっか。まあ、それじゃあ仕方ないな」


 ロイの説明で納得いったのか、キリンはようやく引き下がる。


 どうやら上手く説明できたようだ。ロイは顔に出さないようにして安堵の溜息を吐くと、キリンに尋ねる。


「それで、俺に何か用があったんじゃないのか?」

「おおっ、そうだった」


 キリンは、ポン、と手を打つと本題を切り出す。


「俺様の次の対戦相手が決まったみたいだから知らせにきたぜ」

「へ~、誰なんだ?」

「フッフッフッ……」


 キリンは不敵に笑うと、人差し指をロイへと突き付ける。


「お前だよ。明日の第一試合、俺様とお前が戦うんだよ」


 そう言うキリンの顔は、今までにないぐらい楽しそうだった。

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