晴れやかな気持ち
アベルの行方に当てが見つかったロイは、セシリアに質問してみる。
「なあ、セシリア……」
「はい、なんでしょう」
「もしかしたらだけど、俺、アベルって人に心当たりがあるんだ」
「ほ、本当ですか?」
その言葉に、セシリアの表情がぱあっと明るくなる。
「ああ、多分だけど……」
そう言うと、ロイは自身に剣を貸してくれたカインのことを説明した。
「どうだろう? 絶対とは言い切れないけど、セシリアの話を聞いた限りだと、カインがアベルって可能性はあると思わないか?」
「そう……ですね。確かにアベル様であれば、そういう剣で出場するかもしれないですね……彼は、何よりも真っ直ぐな人でしたから」
「だろ? だからさ。この大会が終わったら、カインに会いに行ってみないか?」
「でも……いいのですか?」
逡巡するセシリアに、ロイが力強く頷いて力説する。
「もちろんさ。確かに愛想の悪い奴だったが、嫌な奴ってわけじゃなかったからな。セシリアが会いに来たなら、きっと喜んで会ってくれるだろうさ」
「……わかりました。では、大会が終わったら案内お願いできますか?」
「ああ、任せろ」
ロイは白い歯を見せて笑うと、自分の胸を力強く叩いた。
色々とあったが、ロイは自分の中にあったもやもやが完全に晴れて、スッキリした気持ちになった。
「さて、随分と長く話してしまったな。明日も試合があるし、もうそろそろあがらないか?」
「そうですね。流石に長湯し過ぎました……ね」
ロイからの提案に、セシリアは頷いて立ち上がろうとするが、
「……あれ?」
体に力が入らず、その場に崩れそうになる。
「おっと」
倒れるより早く、ロイが手を伸ばしてくれてどうにか怪我はせずにすんだが、体が思うように動かず、セシリアは困惑した表情になる。
「す、すみません……今、立ちますから……」
しかし、セシリアの体はいうことを聞いてくれず、ぴくりとも動かない。
「ふむ……」
赤い顔でふらふらしているセシリアを見て、ロイは得心がいったように頷く。
「どうやらのぼせてしまったようだな。すまない、どうやら無理をさせてしまったみたいだな」
「い、いえ……気に……しないでください」
「いや、気にするよ。とりあえず、今すぐ介抱しなきゃ……」
そう言うと、ロイはセシリアの体に手を回し、一気に抱き上げる。
「きゃあっ!?」
お姫様だっこの要領で抱き上げられたセシリアは、顔を真っ赤にして抗議の声を上げる。
「ロ、ロイ……その、大丈夫ですから。下ろして下さい!」
「そういうわけにはいかない。湯あたりだからって侮ると、後で後悔する事態に発展するかもしれないからな。安心しろ。介抱なら、キリンで何度かやったことあるから、問題なくできるはずだ」
「い、いえ……そういう問題ではなく……」
「いいからいいから」
ロイは必死に逃げようとするセシリアの体をしっかりとホールドすると、そのまま風呂の外へと連れだした。




