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重戦士の過去

 暫く黙考した後、セシルは大きく頷いて結論を出す。


「ロイ……すみませんでした。そうですね、ロイの言う通りです」

「セシル?」

「ロイは私を男とか女ではなく、一人の人間として見てくれていたのですね。ロイが私をそういう風に見てくれるのであれば、私もそれに倣おうと思います」

「じゃあ……」

「ええ、一緒にお風呂に入りながら話でもしましょう。それと、私の本名はセシリア、セシリア・マグノリアと言います。外ではセシルと呼んで頂きたいですが、二人の時はセシリアと呼んでいただいて結構です」

「わかった。セシリアだな。改めてよろしく、セシリア」」

「はい、それでお話しとは? ロイがここを選んだということは、何か理由があるのでしょう?」

「あ、ああ……そうだった。忘れるところだった」


 つい熱くなってしまい、本来の目的を忘れるところだった。ロイは咳払いを一つすると「実は……」と前置きして本題を切り出す。


 この宿舎に戻ってくる前に、セシル改め、セシリアが怪しげな人物と会話していたのを目撃したこと。

 その人物に、セシリアが何やら金品を渡しているのを見たこと。

 そして、今日の試合でリア・ガードナーが突然、意味不明の行動に出たこと。そして、ロイが八百長に巻き込まれそうになったことなど、気になることを一気に話した。


「セシリア、答えてくれ。君はあの人物と何を話していたんだ? 君は、八百長なんてしていないよな?」

「ロイ……そうですか、見てしまったのですね」


 セシリアは小さく嘆息すると、体にタオルを巻き、浴槽の縁へと腰かけると、ロイの目を真っ直ぐ見据えて口を開く。


「先ず、これだけは言っておきますが、私は八百長には一切加担していません。確かにリア選手の行動には疑問がありますが、私が裏から手をまわしたとかそういうのは一切ないです……ただ、それを証明する術はありませんが……」

「いや、信じるよ」


 セシリアの言葉に、ロイはあっさりと頷く。


「俺はエーデルほど人の本質を見抜く力があるわけではないが、今のセシリアが嘘をついていないことだけは、ハッキリとわかる。だから、信じるよ」

「ロイ……ありがとうございます。ロイの期待に、次の試合で応えてみせますよ」


 ロイの真っ直ぐな言葉に、セシリアは思わず流れてきた涙を拭うと、微笑を浮かべた。


 八百長の疑いを晴らしたセシリアは、続いてもう一つの疑問に答える。


「それで、ロイが見た私が話していた人物ですが、あの人はこの街で情報屋をやっている人なのです」

「情報屋?」

「ええ、そもそも私がこの街に来たのは、ある人物を捜すためになのです」


 セシルことセシリア・マグノリアは、カリントウ地方にある名門貴族の家の出で、女であるにも拘わらず、小さい頃から剣の鍛錬が趣味という変わった性格をしていた。

 マグノリア家は、ここら辺りでは右に出る者はいないと言われるほどの剣の名門で、その教えを乞おうと、周辺に住む貴族はもちろん、遠方の貴族から、果ては王族の子弟まで訪れるほどだった。

 セシリアは、そんな家を誇りに思いながら、数々の門下生と一緒に日々の鍛錬を積んでいた。


 そんな中、セシリアの兄弟子に一際、突出した才能を持った門下生が現れる。

 その門下生、名をアベルという少年の実力にセシリアの父親も舌を巻き、将来は救世の勇者のパーティーメンバーに選ばれるのは間違いないと言われるほどだった。

 順調に力をつけていったアベルは、十八になって免許皆伝の腕前と認められると、その力を試すためにガトーショコラ王国の武道大会に参加すると言って、旅立っていった。

 しかし、それから二年、アベルからの音沙汰はなく、セシリアはあらゆる手を使ってアベルを捜した。しかしこれといった成果もなく、また、武道大会の情報、特に選手の情報は入手が難しく、外から出は限界があった。


「ですから私は、兄弟子であるアベル様が大会に参加したのか、勝ったのか敗れたのか……その足跡を知りたくて、この大会に参加する決意をしました」

「なるほど……」


 セシリアの話に、ロイは得心がいったと頷く。


「そういえば……」


 それと同時に、ロイは自分が剣を手にした経緯を思い出す。

 ロイに剣を貸与してくれた人物、カインもまた同じような境遇に遭っていた。

 もしかしたら、セシリアが捜していた人物はカインのことかもしれなかった。

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