男とか女とか
更新が遅れてしまったことをお詫び申し上げます。
ここ最近、発熱と激しい腹痛で昨日までベッドの上から起き上がることもできない状況でした。
病院で診てもらったところ、幸いにもインフルエンザとかそういう類のものではないだろうということで、ひとまず安心しました。
今までの作品と比べ、随分とまちまちな更新となっている今作ですが、一人でも読んでくださる方がいる限り、必ず完結まで書きあげる所存でございますので、どうか末永く待っていただければと思っております。
「な、なな、ななな、なな何をしているんだ。ロイ!」
平然と体を洗い始めるロイを見て、湯船から顔を半分だけ出した状態だったセシルが顔だけ出して叫ぶ。
「そこは普通、出て行くところじゃないのか!?」
「えっ、何で?」
「ちょっ……」
既に髪の毛を泡だらけにしているロイを見て、セシルは絶句する。
信じられない。そう思うのだが、上手く言葉が出て来なかった。
もしかして、自分の正体に気付いていない? そう考えるセシルだが、その考えは一瞬にして捨てる。
ロイはさっき、自分の体を見て、女だと確認した。
じゃあ、どうして全くといってもいいほど狼狽えない。もしかして、そういう状況に慣れているのか? ロイの仲間は二人とも女性だし、特にエーデルという女性は、ただの幼馴染とは思えないくらい体を密着させていた。
それとも、自分に全く魅力がないからだろうか。
セシルはロイに注意を払いながら、自分の体を見下ろす。
そこには、腕で押さえつけているが、エーデルには劣るものの、リリィよりは、はるかに豊かな二つの双丘が手から零れ落ちそうになっていた。
確かに体は女性にしては筋肉質で骨ばっているし、厳しい鍛錬の所為で生傷は絶えない。女性らしい魅力は皆無なのかもしれない。
だが、この扱いは何なのだ。
ロイは先程からこちらをちらりとも見ようとしないし、気にしている素振りすら見せない。話をしたいと言っていたが、それより今は体を洗う方が先決のようだった。
この男は何をしに来たんだ。
セシルは自分が置かれている状況を忘れ、怒りすら覚えていた。
「このっ!?」
セシルは怒りに任せて思わず立ち上がると、感情のままにロイへと話しかける。
「ロイ……何を考えているのですか!?」
「何……とは?」
「言葉通りの意味です。話なら別に部屋で話せばいいでしょう。それを、わざわざこんな不意打ちまがいのことまで……私を辱めてまで……」
話している最中で自分が一糸まとわぬ姿であることを思い出し、セシルは再び湯船に身を隠す。
「え? 何、聞こえないよ?」
セシルの心情など全く知らないロイが呑気に声を上げるが、湯船に沈んでいるセシルが応えることはなかった。
「…………ふぅ」
そうこうしている間に、ロイは体を洗い終えてゆっくりと立ち上がる。
「んなっ、ロイ。まさか、湯船にまで入ってくるつもりですか?」
「えっ? そうしないと風邪ひいちゃうだろ?」
当然の権利ように湯船に浸かろうとするロイを、セシルは全力で止めにかかる。
「ダメです。絶対にダメです。どうしてロイはそんなにデリカシーがないのですか!? 私は女で、ロイは男なのですよ?」
「それは、ついさっき知ったよ。だからどうしたんだ?」
「ええーっ!? ってそれより前を隠して下さい!」
素っ頓狂な声を上げるセシルに、ロイは耳を押さえながら話しかける。
当然ながら、前は隠さない。
「どうして皆、男だとか女だとかそんなことに拘るんだ? セシルはセシルだろう。別に俺が男だからといって、何か変わるのか?」
「ロ、ロイ……それ、本気で言っているのですか? それと、前を隠して下さい」
セシルは目を手で必死に隠しながら、堂々と仁王立ちしているロイの疑問に答える。
「男性と女性は、体の構造から根本的に違うのです。そんな男女が一緒に……一糸まとわぬ姿で風呂に入るなど、あってはならないことなのです」
「あってはならないって、誰が決めたんだ? 小さい頃、俺はエーデルと一緒に風呂に入ったことが何度もあるが、それもあってはならないことなのか?」
「え? 誰がって……それは……ええっ、エーデルさんと? で、でも……小さい頃の話ならば、いいのかな? どうでしょう……」
「答えられないだろう? 誰もが偉そうに男女の違いについて高説垂れるくせに、その理由については誰も明確な答えを教えてくれないんだ。それが普通と言うが、普通って一体何だ? 普通じゃないことがそんなにいけないのか?」
ロイは長年堪った不満をぶちまけるように一気に捲し立てると、
「…………すまない。セシルに言っても仕方ない話だな」
意気消沈したように肩を落とし、そのまま湯船の中に身を沈める。
「あ……」
その様子に、セシルはロイに注意することも忘れてしまう。
それどころか、ロイの苦悩する姿を目の当たりにして、ロイがどうして実直勇者と呼ばれているのかを思い出した。
ロイの前では、男とか女とか、そんなことは関係ないのだ。
男でも女でもなく、セシル・マグノリア、一人の人間として向き合っていたのだ。
「…………」
そんなロイに、自分ができることは何かとセシルは考える。




