裸の付き合い
ロイたちが利用している風呂は、本来、ロイたちが泊まる予定の部屋についている風呂だった。
他にもこの宿舎に務めている兵士たちの風呂もあるのだが、万が一兵士たちともめ事を起こされると困るというのと、兵士たちも気が休まらないから、風呂だけは本来泊まるはずだったものを使ってくれと言われていた。
風呂はのんびりと入りたい。その気持ちはロイも痛いほどよくわかるので、彼等の願いを受けるのはやぶさかではなかった。
「えっ……と、確かこっちだったな」
この二日ですっかり慣れた廊下を歩きながらロイは目的の場所へと向かう。
今から向かう風呂は、ロイが使用するいつもの風呂ではない。
「……ここだな」
目的の部屋の前、セシルが泊まる予定だった部屋で足を止めたロイは、念のために周りに人がいないことを確認する。
別に疚しいことをするわけではないので、見られても構わないのだが、他に人がいた場合、色々とめんどくさいことになる。
「…………」
息を殺してドアに手をかけると、幸いにも鍵はかかっていない。
鍵を開ける手間が省けたことに感謝しながら、ロイは室内へと入った。
部屋の中は、道場からリラクゼーションスペース、川の流れる庭まで、ロイが泊まる予定だった部屋とほぼ同じ間取りだった。
これなら迷うことはない。ロイは肩の力を抜くと、早足で風呂場へと足を向ける。
そのまま勢いよく風呂場に続く脱衣所の扉を開けると、
「だ、誰ですかっ!?」
風呂場から鬼気迫るセシルの声が聞こえた。
「ここが何処だかわかっての狼藉ですか? まさか私が丸腰でいると思っているとでも?」
「ま、待ってくれ!」
中の緊張感が脱衣所まで届き、ロイは慌てて取り繕う。
「俺だ、ロイだ」
「ロイ!? ロイがどうしてここにいるのですか?」
「その……セシルと話がしたいと思ったんだ」
「話……ですか。それは、急ぎの用ですか?」
「いや、そうじゃないけど……」
「そうですか……」
相手がロイと分かり、少し落ち着いた様子のセシルが静かに話し始める。
「でしたら申し訳ありませんが、後にしてくれませんか? 風呂を出た後でよろしければ、いつでもお相手しますから」
「う~ん、そうしたいんだけど。俺、風呂に入る準備して来たんだよ」
「で、でしたら、自分用の風呂に行って下さい。わざわざ私のところに来なくてもいいでしょう」
「え~、知ってるだろ。俺の部屋、ここから遠いんだよ」
そう言いながら、ロイは手早く服を脱いでいく。
「別にいいじゃないか。俺たち、二日も同じ部屋で寝泊まりしてんだ。今更恥ずかしがることなんかないだろ?」
「そ、そういうことを言ってるんじゃないです!」
セシルが悲鳴のような叫び声を上げるが、ロイは全く意に介せず風呂場への扉を開ける。
「まあ、文句なら後で聞くし、寒いから入るぞ」
「――なっ!?」
瞬間、時間が止まったような気がした。
ロイが入ってくる気配を察したのか、扉の鍵に手を伸ばそうとした姿勢で硬直しているセシルがそこにはいた。
丸腰ではないことをアピールしていたが、その手には武器らしきものは握られていない。
しかし、注目すべき点はそこではなかった。
「セシル、お前……」
セシルの肢体をまじまじと眺めながら、ロイはなんでもないように口を開く。
「女だったのか?」
「――っ!?」
その言葉で正気に戻ったのか、セシルは顔を真っ赤にさせながら逃げるように奥の湯船へと身を投げる。
高い水しぶきを上げながら湯船に潜るセシルを見て、ロイは……
「まあ、いいか」
風呂場の扉を閉めると、体を洗う準備を始めた。




