一時の休息
「ああ、ロイ。おかえりなさい」
宿舎へ戻ると、鎧を脱いでくつろいだ様子のセシルが迎えてくれた。
既に風呂に入って来たのか、ゆったりとした寝間着で塗れた髪を乾かしている姿は、ファンの女性からしたら堪らない姿だろう。
「この部屋に戻ってきたということは、無事、一回戦を突破したのですね?」
「ああ、どうにかね」
「フフッ、謙遜することないですよ。ロイならば、そこら辺の有象無象に負けるなんて到底考えられないですからね」
「だといいんだけどな……俺は、俺にできることを全力でやっているだけさ」
「それは私も同じですよ。今日だって、人が多過ぎて試合前に手が震えて大変でした」
「ああ、俺も同じだった。あんなに緊張したのは、竜王と対峙する直前以来だったな」
「ええっ、そんなにですか!?」
「ああ、本当さ。だって……」
その後も、ロイたちは他愛のない話で盛り上がり、寝るのはかなり遅い時間になってしまった。
翌日は、試合がないので体を休めるついでに、城内にエーデルたちを招いてキリンの部屋でゆっくりとくつろいだ。
キリンから事前に聞いていたとはいえ、部屋の中に何人もの筋骨逞しい男たちがいる光景は異常だったが、彼等は皆、人をもてなす為の教育をしっかりと受けていたので、その汗臭い見た目ほど邪魔になることはなかった。
しかし、至れり尽くせりの環境を気に行ったエーデルとリリィが遅くまで長居した為、事あるごとに二人に絡まれたロイは、じっくりと体を休めなかった。




