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武道場

 武道場は、黒い瓦屋根に、朱色に塗られた木で造られた超巨大な建物だった。


 釘を一切使わずに、木を組み合わせただけで建てられたという武道場は、天まで届くほど高さがあるのに、ドラゴンが全力でぶつかってもビクともしない堅牢さを持っているという。

 それだけ重厚な見た目をしているにも拘わらず、随所には目を引く細かな彫刻が施され、人の手が届く全ての場所の角が取られているという、訪れる人に優しい造りになっていた。


「ということらしいけど、入ろうとする人には優しくなかったね」


 パンフレットを片手に、武道場の説明をしてくれたリリィが呆れたように嘆息する。

 武道場へたどり着いたロイたちを待っていたのは、まだ開場前だというのに溢れかえっている観客の渦だった。

 余りの人の多さに少し酔ってしまったが、それでもそれだけの数の人間を軽々と収容してしまう武道場の広さは、ただただ驚くばかりだった。


「凄い! こんなところでロイは戦うんだね」


 観客席に腰を落ち着けたところで、リリィが興奮したように叫ぶ。


「一体、この中に何人の人がいるんだろう。何千? それとも何万? 凄いよ、まるで世界中の人々がこの中に全部入っちゃってるみたいだね」

「ハハハッ、流石にそんなわけないけど、そう思っても不思議じゃないよな」


 無邪気な様子のリリィを見て、ロイは微笑を浮かべながら辺りを見渡す。


 天が拝めたフィナンシェ王国の闘技場とは違い、ガトーショコラ王国の武道場には、天井がついていた。

 高さにして軽く二十メートルはあるのではないだろうか。それだけの高さがあっても視界が利くのは、あちこちに光魔法、イルミネイトの光の玉がいくつも浮かんでいるからだった。


「松明ではなくイルミネイトを使用しているのは、やはりこの建物が木造だからでしょうね」


 ロイと同じく天井を眺めていたエーデルが感心したように話す。


「こんな数万人規模を収容できる建物の隅々まで照らすとなると、魔法を発動するのはもちろん、それを維持するだけでも相当な人数が必要なの。この大会の間中、ずっとそれを維持するとしたらそれは凄いことなのよ」

「へ~、でもそんな人、何処にいるんだろう?」

「……そりゃあ、目に見えないところで頑張っているじゃないかしら?」


 流石のエーデルでも、そこまではわからないようだった。


 とにかく話を聞く限り、ガトーショコラ王国という国は、かなりの技術力と、優秀な魔法使いを大勢抱えているようだった。



 ガトーショコラの底知れない国力に、ロイたちが暫し呆然としていると、突如として歓声が武道場内を包み込む。


「な、何だ?」


 驚いたロイが辺りを見渡すと、


「ガトーショコラ王のおな~り~~~!」


 よく通るかけ声が辺り一帯に響き、武道場の正面にある大きな櫓の御簾が開く。

 中から出て来たのは、筋肉ダルマという言葉が似合う偉丈夫だった。

 鍛え抜かれた肢体を惜しげもなく晒し、体中に刻まれた数々の傷痕は、いかにも歴戦の猛者と思わせる迫力があった。体を隠すものは腰巻一枚という風体にも拘わらず、その余りにも超然とした態度に、誰もそのことを咎めることをしない、いや、できるはずもなかった。

 正に王と呼ぶに相応しい威厳を持ち合わせているガトーショコラ王は、周りから浴びせられる賞賛の声に手を上げて応えながら、鷹揚とした態度を崩すことなく話し始める。


「皆の者、今年も世界中の戦士が覇を競う季節がやって来た。猛者たちが繰り広げる狂演の宴を心より楽しもうではないか!」


 ガトーショコラ王が声高々に宣言すると、闘技場全体が震えんばかりの声援が響き渡る。

 それらの声援に、ガトーショコラ王は暫しの間酔いしれていたが、拳を天に突き上げると、声高々に宣言する。


「うむ、では第十六回、武闘覇王祭の開会をここに宣言する!」


 その言葉が告げられると、武道場全体が震えんばかりの声援が響き渡った。

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