一夜明けて
「いや~、この国は本当に天国みたいなところだな」
翌日、朝食を食べ終えて武道大会の本戦会場へ向かう途中で合流したキリンが開口一番、昨夜の待遇について話し出す。
「飯は美味いし、部屋は広い。ベッドも今まで寝ていたものが煎餅か何かと紛うほどの寝心地の良さで、朝までぐっすりだったよ」
先程から同じような話を繰り返し行っているのだが、ロイは飽きもせずに付き合ってやる。
「そうか、嬉しそうで何よりだよ」
「まあな、だが一つだけ、非常に残念なことがあるんだ。それが何だかわかるか? ロイよ」
「ああ、わかってるよ。キリンの面倒をみてくれる人が、全員男だってことだろ?」
これも何度目になるかわからない質問に、ロイは同じ回答をする。
「そうなんだよ。世界最高峰といっても過言ではないサービスの数々を受けているにも拘わらず、それをしてくれるのが全員、筋肉隆々のむっさい男たちなんだよ。それさえクリアできれば、この国に永住してもいいと思うんだけどなぁ……」
「はいはい」
自分の世話をしてくれる予定だった人物は、全員女性だったなんて言おうものなら、キリンが全力で暴れ出しかねないので、ロイは黙っておくことにした。
いつまでも愚痴を言い続けるキリンをどうにか宥め、ロイたちは武道大会の会場となる城内広場へと向かった。
「ああ、ロイ。おはよう」
その途中で、いつの間にか部屋からいなくなっていたセシルが声をかけてきた。
「私が起きた時に声をかけようか迷ったのですが、まだ気持ちよさそうに寝ていたので、遠慮させてもらいました」
「え? あ、ああ……ありがとう」
昨日の様子とは打って変わり、いつも通りの柔和な笑みを浮かべるセシルに、ロイは若干の戸惑いをみせながらもどうにか受け答えする。
昨日の夜は、一体何だったんだろうか。疑問は尽きなかったが、セシルの調子が戻っている以上、余計な詮索はせずに普通に対応しようと心に決める。
「それで、セシルはそんなに早く起きて何をしていたんだ?」
「いえ、そんなたいしたことはしていませんよ。今日から試合ですから、ちょっと体を動かしておこうと思ったんです」
「そう……だったのか」
セシルの話を聞いて、ロイは余計な詮索をしていたことを恥じる。
「なんだか、色々と気を使ってもらったみたいで悪かったな。明日からは、俺も一緒に起きてトレーニングするから、遠慮せずにたたき起こしてくれ」
「ハハハ、わかりました。でも、その前に今日の試合に勝たなければ、城から追い出されてしまいますから、今日の試合、頑張りましょうね」
「ああ、そうだな」
ロイとセシルは頷き合うと、互いの健闘を祈るように拳を合わせる。
「……はっ? 何、お前たち、一緒の部屋なの?」
ただ一人、事情を知らないキリンだけが話についてこられず、頭に疑問を浮かべていた。




