寝床の同居人
ロイの世話をすることになっていた女性たちからかなり白い目で見られたが、ロイの希望が叶えられることになった。
今度の部屋は、城の入り口からほど近い場所にある、いくつもの同じような部屋が並んだ一角にある一部屋だった。
「今から案内する部屋は、普段は兵士見習いの宿泊所として利用している部屋です。ですので、必要最低限の家具しかありませんので、どうかご了承ください」
「大丈夫です。むしろ、それくらいがちょうどいいです」
「そうですか。それと、お食事はわたくしたちが使っている施設を自由に使ってくださって構いませんが、お風呂だけは最初にご案内した部屋の浴槽を使っていただくことになりますので、ご協力、よろしくお願い致します」
「わかりました。ここまで案内してくれてありがとうございます」
ロイは白い歯を見せて笑うと、ここまで案内してくれた女性にお礼を言って別れる。
「さて、お腹も空いたし、荷物だけおいて食事にでも行こうかな」
そう言いながらロイが扉を開けると、
「あれ? ロイ……」
部屋の中から、驚きの声が上がる。
その声の人物を見て、ロイも驚きで目を見開く。
「あれ? セシル。どうして君がここにいるんだ?」
そこには、今日知り合ったばかりの金髪の重戦士、セシルが驚いた顔でこちらを見ていた。
「そ、それはこっちも同じですよ……出場選手には、ちゃんと部屋が割り当てられているじゃないですか」
「そう言うセシルこそ、どうして?」
「どうしてって私は……あっ」
そこまで行ったところで、セシルはあることに気付き、ロイを指で刺す。
「もしかして、ロイも部屋を変えてくれって頼んだのですか?」
「ということは、セシルもなのか?」
「はい、至れり尽くせりなのは魅力的ですが……」
セシルは恥ずかしそうに顔を伏せると、観念したように話す。
「恥ずかしながら、私にはあのような豪華な部屋は性に合わないといいますか、とにかく気が休まらなくて……このままでは明日からの本戦に支障をきたす恐れがあったので、無理を言って変えてもらいました」
「そうか。それじゃあ、俺と同じだな」
「え? ということはロイも?」
「ああ……」
ロイが頷くと、セシルの顔に喜色が浮かぶ。
「よかった。こういう要請をされるのは初めてのようで、かなり変な顔をされてしまったんです」
「ああ、俺も全く同じ反応をされたよ。大体、ただの庶民があんな部屋に通されて、のんびりしろという方が無理あるんだよ」
「ええ、まったくその通りです」
意見が合った二人は、用意された部屋の文句について大いに盛り上がった。
ロイたちの部屋は、木で囲まれた部屋に小さな窓と、ベッドとサイドチェストが二つずつあるだけの本当に簡素な部屋だった。
しかも、二つのベッドで部屋の三分の二以上のスペースを使ってしまっているので、この部屋は本当に寝泊まりするだけの部屋の様だった。
ロイたちはそれぞれのベッドに腰かけ、互いの膝がくっつきそうな距離で話していた。
「ふぅ……何だかどうでもいい話で盛り上がってしまったな」
「そうですね。いつの間にか陽が完全に沈んでしまっていますね」
セシルが窓の外を見やりながらロイに質問する。
「そういえば、ロイはどの部屋で休むのですか?」
「えっ?」
「えっ?」
ロイが聞き返すと、セシルの目が点になる。
「えっ…………え?」
何やら理解していないようなので、ロイはセシルに答えを教える。
「係の人からは、他の部屋は空いていないから、この部屋で寝泊まりするようにって言われたよ。まあ、ベッドは二つあるから、別に問題はないだろう」
「そ、そうですね。ハハッ……そうか、ロイと一緒か……」
「んんっ?」
どういうわけか、セシルは何やら独り言をぶつぶつと話しながら考え出す。
その後も、食事を摂ってベッドに入るまで、セシルはどこか上の空といった風でロイとの会話もままならなかった。




