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一撃必殺

 その後も予選は滞りなく進み、空があかね色に染まる頃になってようやくロイの出番が回って来た。


「はぁ、ようやく俺の番か……」


 名前を呼ばれたロイは、長い間集中を維持し続けていた所為で余計な体力を使ってしまったことを後悔しながら舞台へと上がる。

 運営側としては、予選開始時にいなかったロイに対する温情なのかもしれないが、ここまで遅くなるのならば、早く伝えて欲しかった。


 体をほぐしながら舞台へ上がると、そこにはロイと同じように待ち時間が長過ぎた所為で、うんざりした様子の男たちがいた。


「武闘覇王祭への本戦出場者を決める予選も、これが最後の試合となります。各々、死力を尽くすように」


 気合を入れ直そうと審判が威勢のいい掛け声をかけてくるが、舞台の周りにはそれを盛り上げてくれる観客は既にまばらだった。

 予選敗退者の殆どがここにいないのは勿論、キリンとセシルをはじめ、既に予選突破を決めた者たちも、今日はこれ以上試合がないので宿舎となる城内へと移動していた。

 明日から本戦が始まることを考えれば、今の内からコンディションを整えておくのは当然なので、ここに仲間がいないことを薄情だとは思わなかった。


「よし、やるぞ!」


 ロイは己を鼓舞するように声を上げると、背中から剣を引き抜いて正眼に構える。

 すると、ロイの声に呼応するように、視界に映る男たちからピリピリとした殺気を放ち始める

 その殺気は、決して強くないものの、対戦相手が本気であることは十分伺えた。


 十人の男たちの闘気が舞台に十分に満ちたのを確認した審判は、


「試合、はじめ!」


 上げていた手を勢いよく振り下ろして試合開始を告げた。


 開始と同時に、十人の男たちが一斉に動き出す。

 以前、キリンが不意打ちで勝利したという事例があるので、ここで呆然と立ち尽くす者などいない。


「うおおおおおおおっ!」

「でりゃあああああああああああっ!」

「参る!」


 しかも、全員が示し合わせたかのように、一斉にロイに向かって駆け出す。

 ここでもやはり、一番の難敵であるロイから倒してしまおうという作戦なのだろう。


「やはり、そう来たか」


 これまでと同じ作戦を取る男たちを見て、ロイは唇の端を吊り上げて笑う。

 この方法が彼等にとって最も効率よく勝つ方法なのだろうが、何度も同じ戦法を見せられては、もはや効果的な結果は望めない。


「悪いが、あんたたちに付き合うつもりはない」


 そう言うと、ロイは大きく後ろに飛んで舞台の端ギリギリへと移動する。

 着地と同時に剣を逆手に持ちかえると、背中に隠すように構える。


 自分から逃げ場のない端へと移動したロイを見て、男たちが嘲笑したように叫ぶ。


「へっ、バカが。自分から端へ行ってどうする」

「皆で囲め! そうしたらいくら勇者だからって……」


 男たちが、ロイを逃がすまいと扇状に取り囲むと、一斉に襲い掛かってくる。


 しかし、この包囲網を敷かれることこそがロイの狙いだった。


 男たちが間合いに入ると同時に、ロイは溜めていた力を一気に解放させ、右手に持った剣を前の空間を切り裂くように一文字に薙ぐ。


「烈風斬・円!」


 次の瞬間、剣先から生まれた衝撃波が放射状に広がり、ロイへと迫っていた男たちへと襲い掛かる。


「ぐわあああっ!」

「ぐへっ!?」

「ごふぅ……」


 衝撃波をまともにくらった男たちは、まるで紙風船のように上空へと吹き飛ばされ、揃って地べたに強かに体を打ち付けられた。


 ――シュヴァルベ式刀剣術、遠当て一式亜種・烈風斬・円。

 真空刃を生み出して遠く離れた相手を攻撃できる烈風斬を、距離を短くする代わりに広範囲を攻撃できるようにした改変した技だ。

 その威力は中々のもので、技を受けた男たちは、揃ってうめき声をあげるだけで、立ち上がってくる者はいなかった。


「まあ、こんなものだろう」


 全員が生きているのを確認して、ロイは安堵の溜息を吐く。

 剣の方を見てみても、何処かに傷がついた様子もない。

 どうやらカインの鍛冶職人としての仕事ぶりは、十分信頼に値するもののようだ。


「しょ、勝者、ロイ・オネット!」


 ほどなくして、ロイの勝利を告げるアナウンスがされた。

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