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とにかく凄い必殺技

 ――勝負は正に一瞬だった。


 試合開始の合図と共に舞台全体が砂煙に包まれ、一瞬の後に砂煙の中から人影のようなものが空高く打ち上げられ、そのまま地面へと墜落していくのが見えた。


 その後、砂煙が晴れた後には、


「見たか、これが奥義、鳴竜昇天拳……じゃなくて、ウルトラグレートミラクル……はダサいな…………あ、その…………とにかく凄い俺様の必殺技だっ!」


 右拳を高々と突き上げ、勝ち名乗りを上げるキリンがいた。

 その横には、地面に叩き付けられ、手足が変な方向に折れ曲がった姿勢で気絶しているライジェルがいた。


「…………」

「…………」


 突然のことに、観客たちは理解が追いつかず、誰もが口を開いたまま呆けていた。


 すると、ライジェルが装備していたティルフィングが遅れて落下して、着地の衝撃に耐えきれず甲高い音を立てて真っ二つに折れた。


「あ……あ………………ああっ!」


 ティルフィングが折れた音で正気に戻ったマシューは、慌てた様子で自分に課せられた仕事をこなす。


「な、なんと、あっという間の出来事。すみません、何が起きたか全く理解できませんでしたが、どうやらキリン選手の勝利のようです! 正に電光石火の出来事でした!」

「見たか! これが俺様の真の実力だ!」


 ようやく勝利を認められたキリンが、意気揚々と観客たちに自分の勝利を自慢するが、


「ふ、ふざけるな!」

「そうだ。俺たちは熱い戦いを見に来たのに、こんな結末認められるか!」

「決勝のチケット、いくらしたと思ってる。いくら一瞬で勝負をつける約束だとしても、砂煙で何も見えなかったじゃないか!」

「ついでに言うと、お前みたいな奴がボコボコにされるのを見に来たんだよ!」

「そうだ! ふざんけんじゃねぇ! 何勝っているんだよ!」


 あっという間に勝負がついてしまったことと、その展望がキリンの巻き起こした砂煙のせいで全く見えなかったこと、そして、キリンという人間性。ありとあらゆる不満が爆発し、観客たちがキリンに一斉に罵声を浴びせる。


「お、落ち着いて下さい! 皆さん、気持ちはわかりますが、どうか落ち着いてください!」


 マシューが声の限りを尽くして観客たちを制止しようとするが、怒りの頂点に達した観客たちは、次々と舞台へとなだれ込み始める。

 その後、暴徒と化した観客たちによって今年の武闘覇王祭は、開催以来、史上最低の終わりを迎えるのであった。



 ――そして、翌日、


「あ~クソッ! やっぱ納得いかねえ!」


 まだ陽も登りきらない早朝、小鳥たちのさえずる声を吹き飛ばすかのようにキリンの叫び声がこだまする。

 場所は、ガトーショコラ王国の入り口となる城門の前、突然叫び出したキリンに、見張りの兵士が煩わしそうに顔をしかめるが、声をかけてくることはなかった。

 他にも決して多くない人々が朝早く喚き散らすツートーン禿に不満そうな顔をしていたが、キリンはそんな不満を無視して自分の不満をぶちまける。


「せっかく優勝したのに、品位を貶めたとか言われて王への謁見を中止にされ、さらには壊れた施設の修理とかで優勝賞金の殆どを没収されたんだぜ。せっかくライジェルの野望を阻止してやったのに、この扱いはあんまりじゃないか?」


 ライジェルは、キリンによって四肢の骨を全て砕かれたが、幸いにも命に別条はなかったらしく、動けないうちにガトーショコラ王の命令で拿捕された。

 これからライジェルに待っているのは、今までの闘技大会で行われた不正に関しての厳しい取調べと、マレク、アベルと共謀して行った数々の罪に問われるという。

 ガトーショコラ王主導のもとで行われた魔法研究所の査察も無事に終わり、幾人もの処分者が出たものの、これからは王の監視の下で人道に反しない真っ当な方法でやっていくらしい。

 全てがスッキリと解決できたわけではなかったが、ガトーショコラ王国を揺るがしたマレクの事件は、こうして幕を閉じた。

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