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それぞれの思惑

「それで、あそこで馬鹿みたいにはしゃいでいる間に、国中の魔法研究所に一斉立ち入り検査を行うってことなのね」


 相変わらず続くガトーショコラ王の暑苦しい演説にうんざりしながら、辟易した様子のエーデルが大袈裟に嘆息する。


「まあ、実際何処まで踏み込むのかわからないけど、これで少しはこの国のアホ共もおとなしくなるでしょう。それに、下手に大事にして、世間の魔法使いの評判が落ちたら真っ当な魔法使いも迷惑を被るしね」

「それって、エーデルさんもですか?」

「私? 私は関係ないわよ」


 エーデルは「フン」と鼻を鳴らすと、得意げに豊かな胸を張る。


「だって私はそんじょそこらの凡人と違って真の天才だもの。そんな些細な風評被害で揺らぐような小物じゃないわよ」

「さ、さいですか……」


 呆気に取られているリリィを放っておいて、エーデルはつまらなさそうに頬杖をつきながら武道場の中央を睨む。


「そんなことより問題はあいつでしょう」



 目を細めたエーデルが鋭くにらみつけるその視線の先には……


「お聞きくださいこの大歓声! まず登場してきたのは、前回大会覇者にして最強の名をほしいままにしている剣士、今大会も圧倒的な強さで怒涛の勢いで勝ちあがり、その強さは天井知らず。一体、不敗記録をどこまで伸ばすのでしょうか。言わずと知れた絶対王者、ライジェル・エレロ選手の入場です!」


 マシューが声高々にライジェルの紹介を行うと、爽やかな笑みを浮かべたライジェルが手を振って応える。

 すると、再び武道場内は割れんばかりの大歓声に包まれた。


 どうやら入場セレモニーでもやるのか、武道場内をゆっくりと回りながら愛想よく手を振り続けるライジェルをロイたちが複雑な心境で眺めていると、


「…………全く、あそこまで堂々とした態度を取れるんだから、ムカつきを通り越して呆れかえるしかないな」


 吐き捨てるような声がロイの頭上から聞こえてきた。

 その声にロイは顔を上げると、声の主を見て微笑を浮かべる。


「カイン、来たのか?」

「まあな。本当は来るつもりなんてなかったんだが、こいつがどうしても来いとしつこくてな」


 カインが辟易した様子で後ろを指差すと、そこにはもう女性であることを隠す必要がないからか、ゆったりとしたドレスに身を包み、胸の前で指をモジモジさせているセシリアがいた。


「そ、その……これはアレです。命を助けてもらった礼として、事件の関係者として最後まで見届ける義務があると思って声をかけさせていただいたまでです。そ、それ以上の深い意味は特にないです……決してカイン殿の力を目の当たりにして、心をへし折られた私としては、逆に彼を取り込むことで我が家の増強に務めようとかそんなことは一切考えていないです……はいっ、決して!」

「……なんか僕の家に来た時からずっとこんな感じで、要領を得ないんだ。彼女は一体何がしたいんだ?」

「さあ、俺に聞かれてもな?」


 ロイとカインは、訳が分からないといった様子で揃って首を傾げた。



 そんな男性陣を見て、エーデルとリリィの二人は眉をひそめると、互いに頷き合う。


「ちょっとそこのあなた。こっちに来なさい」

「大事な話があります」


 エーデルとリリィは、セシリアの腕を取ってロイたちから少し距離を取ると、顔を寄せ合って小声で話しだす。


「……もしかして、あのカインって人。ロイと同じぐらい鈍感な人?」

「かもしれないわね。相当な彼も実力者のようだし、そういう才能がある人って皆揃って朴念仁なのかしら? あなたも苦労するわね」

「わ、私がですか!? そ、そんな私は……」


 突如として話を振られたセシリアは、顔を真っ赤にして顔をの前で手を振りながら言い訳を募る。


「私はただ、あの人の強さに感服した者として彼の力をあのまましておくのは勿体ないと思っただけで……その……別にそれ以上の深い意味は……」

「でも、彼のことが気になるんですよね?」

「それは…………………………はい」


 リリィからの問いかけに、セシリアは囁くような小さな声で呟くと、赤い顔をさらに赤くさせて恥ずかしそうに伏せてしまう。

 そんな愛らしい姿を見せられては、恋の話が何よりも好きな年頃の女の子が黙っているはずがない。


 しかも、その内の一人、エーデル・ワイス・リベルテは、十年以上も幼馴染に猛アタックを続けてきた超肉食系女子だった。


「あ~もう、まどろっこしいわね!」


 エーデルはセシリアの両肩を掴むと、目をギラギラさせながら熱く語りかける。


「いい? 男って言うのは、大体こっちからガッと押し倒して跨って腰の一つでも振ってやれば、普通は本性を現すものよ。あの男を落としたいのなら、それくらいの気概見せなさいよ!」

「え、ええっ!? そ、そんな私には無理です」

「そうですよ。それじゃあ、ただの変態じゃないですか? 大体、エーデルさんは、自分で言っておきながらロイに試したんですか?」

「……………………………………………………試したけど?」

「「――っ!?」」


 まさかの告白に、リリィとセシリアは戦慄の表情を浮かべる。

 だが、一方のエーデルの表情は全く晴れない。


「少しは考えてみなさい。相手はロイなのよ? 例え裸で迫って覆いかぶさったところで、重いの一言であっさりとどけられ、部屋から追い出されたわ」


 その時の情景を思い出したのか、エーデルは額に手を当てて重く溜息を吐くと、やれやれとかぶりを振る。


「でも、これだけは言っておくわ。これは相手がロイだったからといだけで、世の殆どの男は、女性から迫られて悪い気はしないはずだわ。だからあなたの覚悟、見せて頂戴」

「エーデル……さん。わかりました」


 赤裸々に自分の体験を話してくれたことに感動したのか、セシリアはエーデルの手を取ると力強く頷く。


「私なりの方法で頑張ってみます。だから、どうか応援してください」

「ええ、期待しているわ」


 エーデルはセシリアの手を握り返しながら「これでロイを狙う邪魔者が一人減ったわね」と小さな声で呟く。


 そんな面の皮が厚いエーデルにとってもう一人の邪魔もであるリリィは、


「で、でも、考えてみれば、既成事実だけ作ってしまえばロイだって流石に……いや、でもそれで嫌われでもしたら、さらに行為に至っても結果が……」


 エーデルの話がよほど衝撃的だったのか、何やら物騒な企みをブツブツと呟いていた。



 そんな女性陣たちの密かな企みなど露知らず、いまだに続く入場セレモニーを眺めながらカインがに疑問に思ったことを口にする。


「ところで、ライジェルはどうしてあんなに堂々としているのだろうか?」

「というと?」

「彼がマレクに加担していたことは自明の理だ。だったら、今すぐにでもガトーショコラ王の命令で彼を取り押さえることもできるはずだ。おそらくライジェルは武道大会の優勝賞品の一つであるガトーショコラ王の謁見の際に、今回の件を不問にしろと言ってくるはずだ。そして、ガトーショコラ王はその願いを断ることができないだろう」

「そうなのか?」

「ああ、この謁見は試合の後、観客たちの前で行われる。そこでライジェルが願い出たことをガトーショコラ王が断ったら……」

「王の沽券に関わるということか?」


 その質問に、カインは無言で頷く。

 どうやらカインによると、武闘大会には賞金の他にガトーショコラ王の謁見があるのだが、この謁見の場で優勝者は、ある程度自由に願いを叶えてもらえるという。本来はそんな習慣はなかったのだが、いつの間にか慣例化してしまい、ガトーショコラ王が断った場合、観客たちがどういう行動にでるか読めないという。


「ふ~ん、でも心配ないだろう」


 焦りを見せるカインに、ロイは自身を持って告げる。


「心配しなくても、ライジェルの優勝はあり得ないよ」

「……それは、ライジェルの相手が自分の仲間だからか? 仲間を信じるのはいいが、ライジェルの力だって相当なものだぞ? それに、マレクが遺した剣もある。勇者の仲間の実力を疑うわけではないが、そう簡単に勝てるとは思えないよ」

「いや、キリンは勝つよ……絶対にね」


 ロイは不敵な笑みを浮かべると、その理由を述べる。


「そもそも今日の試合が行われるのも、キリンがガトーショコラ王に直談判したから行われるらしい。キリンがそれだけ真剣に試合に挑むのは竜王討伐以来だ。キリンが全力で戦うなら、どうやってもライジェルに勝つ目はないさ」

「……そいつの実力はそこまでなのか?」

「ああ、普段はふざけた奴だけど、その強さは群を抜いてるよ」

「…………」


 ロイの絶対の自信を持って告げられた言葉に、カインはゴクリと唾を飲んだ。

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