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脱出

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 デュランダルを振りきった姿勢のまま、ロイは荒々しく息を吐く。

 天地断乖斬の光が過ぎ去った後には、魔法によって照らされている洞窟のゴツゴツした岩肌があるだけで、凶悪な四肢を持つマレクの姿はそこにはなかった。

 デュランダルに内包していた魔力がそれほどでもなかったので、前回のフィナンシェ王国の時より威力はだいぶ落ちていたが、それでも異形の者となったマレクを完全に消滅させるには十分だったようだ。


「勝った……」


 紙一重の勝利ではあったが、どうにか生き延びられたことにロイが安堵の溜息を吐いた。


 それと同時に、無数のヒビが入っていたデュランダルの刀身がガラスの砕けるような音と共に粉々に砕け散る。

 どうやら先程の攻撃で、とうとう限界を迎えてしまったようだ。

 まるで冬の日に見られる細氷のように、キラキラと光るデュランダルの欠片を見ても、ロイの顔は晴れやかだった。


「……またな相棒」


 ロイは柄だけとなったデュランダルに別れの言葉を告げると、背中に背負った鞘にそっと柄をしまう。


「終わったな」


 デュランダルの欠片を見ながら感傷に浸っていると、やや疲れた様子のカインがやって来て、肩を竦める。


「結局、美味しいところを持っていくのは勇者の役目ってわけだな」

「悪いな。だが、あの状態のマレクに勝つには、これしか方法がなかったからな」

「わかってるよ。今のはただのひがみだよ。だから真に受けないでくれ」


 真面目に受け答えしてくるロイに、カインは思わず苦笑する。

 その様子を見て、ロイもカインの言ったことが冗談だったとようやく理解したようで、赤面した顔を隠すように顔を背ける。


「フッ……」

「ククッ……」


 そんな様子が面白かったのか、二人はどちらともなく笑い始めるが……


「おわっ!?」


 突如として地面が大きく揺れ、ロイたちはバランスを崩しそうになる。

 それでも、どうにか足を踏ん張ってどうにか耐えたロイは、いまだに揺れ続ける地面と、天井が崩れて来ないかどうかを注意しながら口を開く。


「始まったか……」

「始まったって何がだ?」

「研究所の崩壊だよ。ここの主であるマレクを殺してしまったら、この研究所は証拠隠滅のため跡形もなく崩れるだろうってエーデルが言ってたから、それだと思う」

「それって……ヤバいんじゃないのか?」

「ああ、ヤバい」

「だったら、早く逃げないと……」


 どんどん大きくなる揺れにカインは顔を青ざめると、足踏みをしてロイを急かす。


「それじゃあ、とっとと行くぞ」

「ああ……」


 そうは言うものの、ロイは動こうとしない。


「おい、どうしたんだ?」


 一刻を争う事態なのに、腕を組んだまま落ち着き払った様子でいるロイに、カインは苛立ちを露わにする。


「このままでは生き埋めになってしまうんだろう? そんな悠長に構えている暇なんてないぞ」

「ああ、わかってる」

「だったら……」


 そこまで言ったところで、カインはあることに気付く。

 落ち着き払っているように見えるロイだが、顔色は血の気が全くなく、目の焦点も虚ろでまっすぐ前を見ているかどうかも怪しいことに。


「勇者、お前……」


 カインは、慌てた様子でロイに駆け寄ると、ロイの組んでいる腕をどけさせる。


 するとそこにはいつもの鮮やかな青色の服、ではなく実に服の半分が血で赤黒く染まり、今も次々と溢れてくる血によってその面積を広げていく痛々しい姿があった。

 明らかに重傷のロイを見て青ざめているカインに、ロイは苦笑しながらカインの肩を優しく叩く。


「見ての通り、俺は思うように動けない。だから、カインは一刻も早く脱出してくれ」

「脱出してくれって……勇者、お前はどうするつもりだ」

「どうもこうもないさ。俺も脱出するよ」


 ロイは今にも倒れてしまいそうな青白い顔のままだが、それでも気丈に力強く頷いて笑ってみせる。


「俺は何一つとして諦めていない。確かにまともに動くこともできないが、あのマレクのことだ。こんな状況を予期して、何処かに地上に出られるような仕掛けを残しているんじゃないかと思っている。俺はそっちを探すから、カインは万が一のことを考えて、一刻も早く正規の方法で脱出するんだ」

「何を言っているんだ! そんなあるかどうかもわからない方法に頼っている奴を放っておけるわけないだろう!」


 そう言うと、カインは腕を伸ばしてロイに肩を貸してやる。


「馬鹿なこと言っていないでとっとと行くぞ」

「おいっ!」

「…………」


 抗議の声を上げるロイを無視して、カインはゆっくりとだが、確実に出口を目指して歩きはじめる。


「やれやれ……」


 人のことが言えた口ではないが、ロイはカインの強引さに呆れながらも、彼の好意を無駄にしないように体を預けることにした。



 そうやって出口を目指して歩きはじめたロイたちだったが、それを嘲笑うかのように、大きな揺れと共に天井が大きく崩れ、出口へと続く通路を塞いでしまう。


「そ、そんな……」


 唯一の出口を塞がれ、カインは絶望的な声を上げるが、


「こりゃ、本格的に外に出る仕掛けを探す必要がありそうだな」


 一方、ロイはこんな状況でも落ち着き払った様子で、出られる場所はないかと首を巡らせていた。

 そんなロイを見て、カインは焦ったように捲し立てる。


「勇者、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ? わかっているのか? 俺たち、ここに閉じ込められてしまったんだぞ?」

「勿論、わかっているよ。だから別の出口を探すんだろう?」


 それに、


「こういう時、慌てることが一番駄目なんだよ。冷静に状況を見極めれば、生き残れる確率は段違いに上がる。カインも落ちてくる岩にだけ気を付けなて、何処かに出口はないか探してくれ」

「あ、ああ……わかった」

「任せたぞ。何よりも大切なことは、絶対に諦めないことだ」


 カインを励ますように、ロイが力強く言い切ると同時に、


「そう、諦めない心が何よりも大事だ!」


 何処からともなく、張りのある威勢のいい声が聞こえ、出口を塞いでいた岩が轟音と共に一瞬にして吹き飛ばされる。


「なっ!?」

「な、何だ……」


 突然の事態に、ロイとカインが目を丸くして固まっていると、


「若人たちよ。助けにきたぞ!」


 砂煙の向こうに、巨大なシルエットが浮かび上がった。

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