光の中で
振り返ったマレクの目に飛び込んできたのは、視界を埋め尽くすような青白い閃光だった。
「クッ……」
回避は不可能だと判断したマレクは、六本ある腕を広げて迫りくる天地断乖斬を待ち受ける。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
渾身の雄叫びを上げながら突き出した腕と青い閃光が衝突すると、凄まじい衝撃波が生まれ、マレクを中心に亀裂が生まれる。
「グヌヌヌ…………負けヌ。負けヌゾ!」
今にもバラバラになってしまいそうな衝撃に耐えながら、マレクの脳裏には、今日までの辛い日々が走馬灯のように駆けていた。
ガトーショコラ王の弟であったマレクの父親は、兄とは違い、政治力もなければ力も持たない典型的な能無しだった。その癖、自尊心だけは一人前で、マレクの顔を見る度に唾をまき散らしながら激昂する様は、幼いマレクの目には、自分の顔以上に醜く見えた。
母親は病弱で、マレクの顔を見る度に「ちゃんとした子に産んであげられなくてごめんね」と謝罪の言葉を口にした。そんなことは気にしていないと何度マレクが訴えても聞き入れてもらえず、いつも涙を流していた。
そんなマレクと母親を、父親は早々に見切りをつけ、自分は外に別の女を作って出て行った。
だが、そんな弟の不義を兄は許さず、国外追放処分となった。
その後、どこかの山賊に襲われて死んだという噂を聞いたが、自分を捨てた父親がどうなろうが知ったことではなかった。
一方、元々病弱だった母親は、父親に捨てられたことが原因でますます床に伏せることが多くなった。
そんな母親をせめて笑顔にしようと、マレクはガトーショコラ王に頼み込んで、自分でも何かこの国のためにできることはないかと相談した。
自分の醜い顔では表立った仕事はできないから、裏方の仕事、それもまだ誰もが踏み入れていない領域の仕事ということで、マレクは魔法の勉強を選択した。
その後、死ぬ気で勉強した甲斐もあってみるみる才能を伸ばしたマレクは、魔法陣を使った魔力の充填と、任意の魔法の発動という研究で魔法研究所の最高位にまで上り詰めてみせた。
しかし、その成果の裏には、人には言えない様な禁忌の実験の数々があった。
果たして母親はマレクの出世を祝福し、笑ってくれたのだろうか?
成果を出したものの、その過程のうしろめたさから母親に会いに行っていない。
だけど、もうそろそろ母親の顔をも忘れてしまいそうだ。
「そう……ダ。ダカラ…………」
この戦いが終わったらたまには母親の顔でも見に行ってみよう。
自分はあの救世の勇者を圧倒するほどの、自分を笑う奴は片っ端から殺せるほどの力を手に入れたのだ。これからは、もう誰かの目に怯えて暮らす必要はないのだ。
マレクはもう殆ど忘れてかけている母親の顔を思い浮かべながら笑みを浮かべる。
「カアサマ……待ってイテ……今…………」
しかし、その言葉が最後まで紡がれることはなく、マレクの体は青白い閃光の渦に飲み込まれた。




