共闘戦線
「というわけだ。彼女たちは無事、インが地上へと送り届けてくれるそうだ」
「そうか……よかった」
カインから事のあらまし聞いたロイは、自分の置かれた状況も忘れて、思わず安堵の溜息を吐く。
「おいおい、安心するのはまだ早いだろ?」
「……ああ、そうだな」
エーデルたちの無事を聞いて元気が出たのか、ロイはしっかりとした足取りで前へ出ると、マレクへと語りかける。
「どうやらお前の期待する援軍はやって来ないみたいだな」
「ついでに言うと、既にガトーショコラ王にもお前の研究所については報告済みだ。ここに兵たちが大挙して押し寄せてくるのも時間の問題だ」
「…………」
ロイとカイン、二人に凄まれてもマレクは微動だにしない。
それどころか、
「クックック……それがどうしタ?」
これから起こることは些末なことに過ぎない。そう謂わんばかりの態度で大袈裟に肩を竦めてみせる。
「ワタシは既に人の領域を超えた存在となったのダ。ライジェルなどにモウ用はない。誰が攻めて来ようとも、ワタシを止めること敵わヌ!」
声高々に宣言すると、マレクは六本の腕をそれぞれ前へ突き出すと、三種類の魔法をそれぞれ撃ち出す。
「……無駄だ!」
火、氷、風といったそれぞれ違う属性の魔法に対し、カインは手にした剣を振るい、次々と相殺していく。
全ての魔法をかき消してみせたカインは、剣をクルクルと回しながら鞘へと納めると、ニヤリと口の端を上げて笑う。
「この剣は斬魔刀。魔力を籠めて振るうことで刀身にかけられたディスペルの魔法が発動し、魔法を切り裂くことができる剣だ。あんたがどれだけ魔法を撃とうとも、この剣の前では無意味だ」
「そうか、だからさっき……」
ロイはカインが現れた時、マレクが放った魔法を切り裂いたことを思い出す。
マレクが放った魔法、ボルガインフェルノは広域殲滅を目的とした魔法で、個人に使うより集団、それも小隊クラスの相手に使うようなこんな地下では使うようでない大規模魔法だ。
そんな広域魔法をたった一本の剣で切り裂くのは、達人級の実力の持ち主でも千回に一回成功するような神業だ。例え魔法を切り裂くことに成功したとしても、剣の斬撃の範囲外は甚大な被害が出ることは避けられない。
だが、カインはそんな魔法をたった一振りで、まるで最初から無かったかのように掻き消しみせた。それはつまり、カインが剣を振るう時にディスペルの魔法を使ったか、剣の方にそれと同じ効果があると考えることは難しくない。
そして、そんな剣をカインから与えられながらその効果を発揮するどころか、気付くことすらなかったのも、ロイに魔力が全くないからだった。
(全く……本当に未熟だな)
わかっていたことだが、ロイは自分がいかに周りの仲間と、優秀な武具に支えられていたかを痛感させられた。
(だけど……)
反省や後悔は後でいくらでもできる。今はカインという最高の助っ人の参戦を素直に喜び、何としてもこの場を切り抜け、エーデルたちの下へ帰って見せるとロイは思った。
「オノレ、次から次へと忌々しい……」
マレクは悪態を吐くと、地団太を踏んで苛立ちを露わにすると、腰を落として六つの拳を構える。
「ダガ、この肉体がアレバ、魔法などいらぬワ!」
どうやら魔法を早々に諦め、徒手空拳で戦うようだ。
「……勇者」
それを見たカインは、小さく息を吐くとロイへと話しかける。
「ここは僕が時間を稼ぐ。君は奴に止めを刺すことだけを考えてくれ」
「しかし……」
「悪いが足手まといだ」
ロイが反論しようとすると、カインが厳しい声で断じる。
「わかっているだろう? 今の君の体では、まともに戦えない。かといって僕の斬魔刀ではあいつを殺すことはできない。だったら、どうするか? 答えは単純だ。時間を稼げる奴が稼ぎ、奴を殺せる奴が殺す。それだけだ」
「…………わかった」
カインの言葉に、反論の使用もないと思ったロイはおとなしく従うことにする。
それにすぐさまカインも頷き返すが、小さく嘆息する。
「だが、それでも僕が稼げる時間は多くはない。できるだけ早く奴を倒せる隙をみつけてくれ」
「わかった。任せろ」
「任せる」
そう言うとカインは、今にも襲いかかってきそうだったマレクに対し、先制攻撃を仕掛けるべく、一気に距離を詰めた。




