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(ククク……馬鹿め。まだこんな剣を使っていたのか)


 カインから受け取った剣は、刃の潰れた模造刀だった。


 そこでアベルは、カインがどういった剣士だったのかを思い出す。


 才能はあるものの、人を斬ることができないという剣士としてはどうしようもない出来損ない。

 どうやらその欠陥は、ここに至ってもまだ治っていないようだ。

 武器を構えた時の気迫には肝を冷やしたが、どうやら神はまだ自分を見放したわけではなさそうだ。アベルは自分の胸にしまってある、マレクから受け取ったあるモノの感触を確かめる。

 そこには、薬のカプセルのような小指ほどのサイズの金で出来た小瓶があった。

 これは、マレクの開発品の一つで、魔法を使えない人間でもこの小瓶を相手に投げつけることで、中に詰められた魔法を発動できるというものだった。

 金と魔法の親和性は昔から言われていたが、こうして金の中に魔法を閉じ込めることができるということはあまり知られていない。

 現在、この小瓶の中には、エクスプロージョンの魔法が入っている。

 正規の方法で発動させたエクスプロージョンとでは、威力は比べるまでもないが、それでも至近距離で爆発させれば、人一人を再起不能にするくらいは容易いはずだった。

 後は、どうやってこれをカインにぶつけるか。アベルはこれまで幾度となく死地を乗り越えて来た自分の経験を総動員してカインに打ち勝つ方法を模索した。


「どうした? まだ、何かあるのか?」


 剣を手にしたまま中々動き出そうとしないアベルに、痺れを切らしたカインが声をかける。


「悪いが時間がないんだ。これ以上は待つつもりはないぞ」

「ま、待った! 悪かったって。ちょっと剣の型をおさらいしてただけだからさ。そう怒るなって」


 アベルは悪びれもせずに飄々とそう言ってのけると、剣を小脇に抱えて腰を落とす。


「それじゃあ、殺し合いを始めようか!」


 そう言うと、アベルは一気に駆け出す。


「…………」


 カインはアベルの戯言には耳を貸さず、無言のまま腰を落として構える。


 それを見たアベルは「勝った」と思わず口の端を吊り上げて笑う。

 おそらく、あそこからカイン得意の居合切りを繰り出してくるのだろう。

 カインの間合いに入るのは危険だ。

 だから、


「おらあっ!」


 アベルは腰の剣を引き抜くことなく、カインに向かって投げつける。

 この模造刀をカインが処理をしている間に、小瓶をカインにぶつけることができれば勝てる。


 そう思うアベルだったが、


「あん?」


 模造刀を投げつけた先には既にカインの姿はなかった。


「君ならまともに勝負に来ないと思っていたよ」


 代わりに、自分のすぐ後ろからカインの声が聞こえた。


「――っ!? このっ」


 アベルは驚きながらも、振り返りながら小瓶を投げつけようとするが、


「終わりだ」


 それより早く、カインの右手が閃いた。


「……はへっ?」


 何が起きたのか理解できず、アベルは間抜けな声を出す。

 目の前に移るのは……呆けたように立つ自分だった。

 どうして自分の体がここにあるのだろうか


「…………」


 ああ、そうか。

 呆然と立ち尽くす自分の体を見て、アベルは全てを理解した。

 その体には本来あるべきもの。右手の手首と首から上が無くなり、噴水のように血が噴き出していた。

 自分はまたしても宿敵相手に成す術もなくやられてしまったということだ。


 ……………………ざまあないな。


 そんなことを思いながら、アベルの意識はそこで途絶えた。


 一方、問答無用でアベルを切り殺したカインは、


「……やっぱり君は最悪で、最低の敵だったよ」


 どこか物悲しそうな声でそう告げると、剣についた血を振り払って鞘へと納めた。

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