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予選大会

 多少時間に遅れてしまったが、特に咎められることなくロイは武道大会の会場へと入ることが出来た。

 遅れたら失格になると言われていたのに、何も言われずにすんなりと中に入れたのは意外だったが、遅刻した身としては、非常にありがたかった。


 予選会場の場は、城門をくぐった先にある石畳が敷かれた広場だった。


 ロイが済むトルテ村入ってすぐの広場など、すっぽりと入ってしまうのでは? と錯覚せずにはいられないほどの広大な広場に、世界各地から集まった猛者たちが集う様は、中々に壮観であった。


「お~い、こっちだこっち」


 ロイが人の多さに圧倒されていると、キリンが声をかけて来た。

 見知った顔に安堵の溜息をついたロイは、出場者の為に用意されたであろう、飲み物や食べ物が置かれた簡易休憩所でくつろぐキリンの下へと歩く。


「鐘が鳴っても来ないから、間に合わないんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ。それで、目当ての武器は見つかったのか?」

「ああ、見てのとおりだ」


 そう言ってロイは背中を向くと、剣を誇らしげに見せる。


「この大会の間は、こいつが俺の相棒だ」

「ほう……その自信に満ちた顔を見てると、簡単には勝たせてもらえそうにないな」

「それより、この予選を突破出来るかどうかが問題だな」

「それなら、問題ないだろ。ほら……」


 そう言うと、キリンは自分の前方を指差す。

 言葉に従ってそちらを見やると、一段高くなっているいくつかの舞台と、舞台を取り囲むように群がる人々が見えた。


 舞台の上では、何人もの男たちが己の得物を手に死闘を繰り広げている様が見て取れる。

 どうやら出場者は、あの舞台の上で戦うようだ。


 すると、数ある舞台の一つから一際大きな歓声が上がる。


 声に反応してそちらを見ると、何やら宙を舞う人が見えた。

 宙を待っていた人がそのまま地面に叩きつけられると、更に大きな歓声が沸く。

 歓声の向こう側では、舞台の上で二メートル以上はある槍を軽やかに回し、油断なく構えるセシルがいた。

 その周りには、セシルに倒されたのか、何人もの男たちが倒れていた。

 倒れている男たちが誰一人として立ち上がらないでいると、


「勝者、セシル・マグノリア!」


 舞台の下からセシルの勝利を告げる声が聞こえた。

 次の瞬間、勝者であるセシルを称える歓声が響く。

 その声を聞いてセシルは構えを解くと、槍を軽やかに回して歓声に応えていた。


「見てのとおり、予選は複数の人間と同時に戦って、最後まで立っていた奴が予選突破というわけだ」


 キリンは予選の仕組みについて説明すると、セシルを見やりながら頭の後ろで手を組んで唇の端を上げて笑う。


「それにしても、あいつ。思ったよりずっと強いぞ」

「そんなにか?」

「ああ、ここに来るまでに、あいつが女どもにちやほやされているのを見たんだろうな。試合開始と共に、醜い男どもが恨み声を上げながら一斉にあいつに襲い掛かったんだ」

「そいつは……災難だな」

「だな。だが、あいつはそんな男どもを、子供をあしらうように次々と意識を奪っていったんだ。決着までものの数分の見事な技前だったよ」


 賞賛の言葉を次々と並べるキリンに、ロイは目を丸くする。


「……キリンが他人をそこまで褒めるなんて、余程なんだな」

「なんだよ。俺だって認める時は認めるんだぜ……まあ、俺様ならもっとあっさりと勝利してみせるがな」

「そうですか。ならば、期待させてもらいますよ」


 余裕の表情を浮かべるキリンに、試合を終えたセシルが話しかけてくる。


「どうやら次はあなたの出番の様です。救世の勇者のパーティーメンバーの力、期待していますよ」

「おうよ、任せておきな!」


 キリンは犬歯を剥き出しにして獰猛に笑うと、大股で揚々と歩いて行った。


「ふぅ……」


 キリンを見送ったセシルは、大きく息を吐いて近くにあった椅子に腰を下ろす。

 ロイは、そんなセシルに水を差し出してやりながら話しかける。


「大丈夫か?」

「あ、はい、ありがとうございます。まさか全員から狙われるとは思わなかったので……九人全員を倒すのは、流石に少し疲れました」

「少し、か。他の出場者が聞いたら顔を真っ赤にして怒りそうだな」

「そ、そう言う意味ではないですよ。ただ、噂に聞いていたどおりで、戦う前から僕の勝利は既に決まっていたというか……ああっ!? い、いや、その……す、すみません」


 自分で言って訳が分からなくなってきたのか、セシルはしどろもどろになりながら言葉を紡ぐ。


「と、とにかく、キリンさんの試合を見てもらえばわかりますから、先ずはそちらを見ましょう」

「あ、ああ……」


 セシルの迫力に押されながら、ロイはキリンが向かった舞台の方を見やった。


 そこには、余裕しゃくしゃくといった様子で体をほぐしているキリンと、手にした得物の調子を確かめている男たちがいた。

 全員が何かしらの得物で武装している中、一人だけ素手でいるキリンを見て周りの男たちが何やら目配せをする。

 どうやら、最初に誰を倒すのかの算段をつけているようだ。


「私の時も、ああやって誰を倒すのかを会話もなしに決めていたんです」

「でも、予選を突破出来るは一人だけなんだろう?」

「確かにそうですね。ただ、全員を倒すのは。非常に骨が折れます。ですから、人数が少なくなるまでは出来るだけ体力を温存しておきたいというのが彼等の思惑なのでしょう」

「なるほど、そういう作戦もあるのか……」


 男たちの作戦を聞いて、ロイは感心したように頷く。

 正面から戦うことしか頭にないロイにとって、一見すると姑息な男たちの作戦は、目から鱗が落ちる思いだった。


 しかし、そんな男たちの作戦は、無残な結果を迎えることになる。


 審判が試合開始の合図をすると同時に、


「オラァッ!」


 矢のような勢いで飛び出したキリンが、一番近くにいた斧を持った男の顔に、飛び蹴りを繰り出したのだ。

 まだ碌に構えも取っていなかった男は、キリンの攻撃に反応することも出来ず、まともに蹴りをくらってしまい、後ろにいた一人巻き込みながら場外まで吹き飛ばされていった。


「オラオラ、まだまだいくぞ!」


 二人まとめて敵を処理したキリンは、突然のことに唖然としている出場者たちへと次々と襲い掛かっていく。

 男たちは、慌てた様子で迫りくるキリンに対処しようとするが、振るった武器はむなしく空を切り、その隙をついてキリンに強烈な一撃を返され、あっさりとやられてしまう。

 男たちの中には体を鎧で覆っている者もいたが、キリンはまるで鎧など最初から存在しないかのように遠慮なく鎧の上へと拳を当て、一撃のもとで意識を奪っていく。

 そして、予選開始からものの数秒で、キリン以外の九人全員を打ちのめしてしまった。


「よっしゃあ、見たかコラッ、俺様の勝ちだ!」


 全員を倒したキリンは、拳を高々と突き上げて勝ち名乗りを上げる。


「…………」


 しかし、いつまで待ってもキリンの勝ちを告げるアナウンスは響かない。

 どうやら、キリンの圧倒的な実力を見て、脳の処理が追いついていないようだった。


「…………コホン」


 拳を突き上げた姿勢で固まっていたキリンは、顔を赤くしながら咳払いを一つすると、未だに固まったままの審判へと声をかける。


「おい、この勝負。俺の勝ちでいいんだよな?」

「えっ? あ、はい。しょ、勝者、キリン・サイフウガ!」


 ようやく正気を取り戻した審判が、キリンの勝利宣言をする。

 すると、その言葉で周りにいた者たちも正気を取り戻し、キリンを称える歓声を上げた。

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