9歩目:ワイルドイケメンもやってきました…。
ぐっどあふたぬーん、えぶりばでぃ?ゲーオタ女子高生、杭瀬未央ちゃんです。『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』の世界で冒険者見習いやってます。現在パーティーメンバー集めの真っ最中。総勢六名のパーティーが、現実世界の知人で埋まっていくというあり得ない状況です。カオスですか。理解不能です。
んでもって、ラストワンが、埋まって、しまい、まし、た…。
「何で、何で、増えてんの…???」
「何故、何故だ…。何故、増えている…」
学生寮の自室の扉を開けたあたしは、室内の様子を見て愕然とした。隣で、こーちゃんも同じようにうなだれた。二人して、部屋の入り口前で膝をついてくずおれるという、実に情けない格好ですが、どうか気にしないでください。あたしたちを哀れむのならば、どうかそっとしておいてください。
そんなあたしたちの背後では、ピンク頭の竜娘、朱梨ちゃんが不思議そうに首をかしげています。良いの。黙ってて。ド素人は大人しくだまらっしゃい。この状況も知らぬ貴方の発言など、あたしもこーちゃんも求めてなどいないのだ!
室内にいるのは、おさげ髪の眼鏡悪魔娘・清音と、ふわふわ笑ってる仕草が女っぽい妖精少年・真琴君と、ラストワン。見知らぬエルフがそこに座ってました。黒髪のエルフってクールで素敵ねー。イケメンー。ワイルドー。でも今までいなかった他人がそこにいることと、清音と真琴君と普通に喋ってることで、色々と嫌な予感がひしひしとするんです。するんですよ!!!
「おー、未央たん、浩介たん、お帰り☆トイレ行ったら、面白いの拾ったぞ♪」
「二人ともお帰りなさい。あら、そちらは誰かしら?」
「おい、野々宮、貴様人を面白いの扱いするんじゃねぇ」
「えー、面白いじゃん。黒髪ワイルド美形エルフとか、超面白い。ちょうど良いから、もっと真琴たんと近寄ってくれ。目の保養する」
「誰がするか。死ね、この腐れ腐女子」
賑やかでした。仲良しでした。そしてあたしとこーちゃんには、この会話が見慣れた会話なのです。すごい見慣れてるんです。現実世界で何度も見てるんです。主に漫研の部室で。
特に、清音に対する態度が。すごい見慣れた感じです。その罵声。淡々と、怒鳴るほどでは無いにせよ、口調が荒く、普通なら女子に向けるようでは無い発言を、平然とする感じ。もう一度、黒髪エルフをよく見てみましょう。短髪で、毛先がちょと外ハネ癖毛。つり目+三白眼でガラは悪そうですが、顔立ちはイケメン。知ってる。あたし、このパーツ知ってる。すごく知ってる。
「…ごめん。一個だけ確認させて。伊集院悠人君で、おkですか?」
「おぉ、杭瀬か。正解だ。お前は外見殆ど変わってねぇな。おかげでわかりやすい。後ろのピンク頭、もしかして安藤か?」
「正解ー。やっほー☆伊集院くんもいたの~?」
「朱梨、話進まないから黙ってて」
「安藤、お前喋ると脱線するから黙ってろ」
「…その息ぴったり具合、話は聞いてたが三浦だな」
答え合わせをするあたしに、悠人君は平然と答えてくれた。ありがとう。ありがとう。でも実は、その答えは外れでも良かったんです。何で、知人が五人もログインしてるんですか。気づいたらパーティー、知人で埋まったじゃ無いですか。どういうことですか。嫌がらせですか、神様!
こーちゃんと二人で再び脱力。神様、勘弁してください。何であたしたちにはこんな試練が舞い込んでくるんですか。ただでさえ、このよくわからない状況から脱出するために、必死に頑張ろうとしているのに…。何故、現実世界の知人オンリーでパーティー編成やらにゃならんのですか!
せめてあたし好みのワイルドイケメン(竜もしくは悪魔)を仲間に加えたかった!!!
あと、こーちゃん好みの巨乳美少女(エルフもしくは天使)も仲間に加えてあげたかった。あたしはこーちゃんだけならまだ許せましたよ。同じダン学ユーザーとして、この『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』の世界を知り尽くしている彼ならば、パートナーとして申し分ないです。でも他の面々はアウトだ!
いやまぁ、悠人君は比較的マトモだけどね?このメンバーの中で唯一ゲーオタじゃない、少年漫画が好きな普通の男子高校生だ。ちょっとオタクだけど、熱血系が好きなので、巷で想像される美少女に以下略タイプのオタクではない。目つきは悪いけどイケメンの部類に入るので、漫研では珍しく女子にモテるタイプの人種でした。…まぁ、致命的なまでに口が悪いのと、女子嫌いだけど。
女子嫌いというか、悠人君はギャルが嫌いっていうタイプだな。なので、キャピキャピっぽい(中身はただの脳筋だけど、口調がギャルっぽい)朱梨は苦手なタイプらしい。ちなみに、脳髄まで完全に腐ってる清音には、イケメン=萌えのネタという意味でロックオンされてるので、常に怒ってました。あぁ、懐かしき漫研の日常。
「みーちゃん、帰ってこい。俺一人では軌道修正不可能だ」
「こーちゃん、あたしもう泣きたい」
「俺も泣きたい。が、諦めろ」
諭すようなこーちゃんの発言に、渋々頷いた。確かにその通りだった。ここであたしが拗ねたところで、状況は何も変わらない。もう六人揃っちゃったんだから、仕方ない。諦めよう。むしろ、別の意味で良かったと思っておこう。だって、身内ばかりだったら、色々な事情もメタ発言も、大丈夫じゃないか!
とりあえず、どこで知り合って何でここにいるのか、はもう良い。どうせ廊下で普通にエンカウントしたんだろうし。きっと、清音がイケメンウォッチングしてて、そこに通りかかったのが悠人君だったんだろうと思っておく。たぶん間違ってない。
気を取り直して、こーちゃんと二人で生徒手帳をチェックする。悠人君もパーティー編成したし、朱梨の分と併せてパラメーターを確認しておきましょう。大丈夫。あたしもう慣れた。きっとこの二人もチートスキル持ってるだろうけど、もう気にしないことにする。気にしたら負ける。
朱梨は、種族が竜で、学科が格闘家。なるほど。ド素人だから、格闘家のくせに武器持ってたんだ。拳系武器を手に入れるまでは、格闘家は素手の方が強いんだよね。あとで武器没収して売り払おう。大事な軍資金にしておきたい。
で、スキル。確認しましょうか、チートスキル。もうチートだってわかってるんだよ。だって、朱梨一人でダンジョン探索してたみたいだから!それも、飽きてきたとか言ってたから!どんなスキルがきても、あたしは気にしない!
でも神様、《速度2倍》と《特殊格闘技》ってどういうコンボですか?
いや、《速度2倍》は意味がわかるから大丈夫です。大丈夫。つまり、朱梨だけ2回行動してるとか、そういうことでしょ?別にそれはわかるんだけど、《特殊格闘技》てナニソレ???
「朱梨、このスキル《特殊格闘技》ってナニ?使ってみた?」
「使ってるよ~。すっごい便利というか、私の夢が叶っちゃいました!」
「夢が叶った?」
「うん。このスキルすごいんだよ!昇○拳とか百○脚とかが使えるの!」
「「何でだよ!!」」
超有名な格ゲーの技を口にした朱梨に、あたしとこーちゃん思わずツッコミ。ハモったけど細かいことは気にしない。いやいやいや、それ使えるとかどういうことですか。いやまぁ、それが事実なら、確かに朱梨の夢は叶ったね。格ゲーとかアクションRPGの技が現実でも出来ないか試行錯誤してたもんね。
…そうか。初心者の格闘家が一人でダンジョン探索できたのは、2回行動でその格ゲー技をたたき込んでたからか…。魔物もまさか、一人でやってきた新入生冒険者が、いきなりそんな荒技やらかすとか思わないよね。うん。
よし。朱梨は放置しよう。前衛がとても強力だってわかっただけ、良いじゃ無い。ねぇ、こーちゃん?疲れた顔してるけど、あたしもしてるだろうけど、そうしとこうよ。二人で目で会話をして、生徒手帳をめくった。次は悠人君のパラメーターの確認だい。
悠人君は、種族はエルフで、職業はナイトか。エルフは若干体力とか低いけど、前衛出来ないわけじゃないしね。ナイトは速さ下がりがちだけど、エルフなら素早さ高いし、大丈夫でしょう。うん。しかし、黒髪のワイルドイケメンのエルフでナイトとか、すごい色々盛りすぎじゃ無いかな、悠人君。主に清音の餌食になりそうな方向で。
さて、そんな彼のスキルは何だろうか。チートスキルだろうけど、ゲーオタじゃ無い悠人君のスキルは、そこまでぶっ飛んでないと良いなぁ、と個人的に思う。主に、彼の中でゲームのバランスがおかしくならないためにも。
で、《回避率2倍》と《かばう時ダメージ無効》って何ですか、それ。
もはや盾になるために生まれてきたみたいなスペックじゃないですか。しかもひっそりとしすぎだろ。でも地味にチートスキルじゃ無いですか!これ、ナイト系というか、かばうが使える盾装備の可能な学科以外だったら意味の無いスキル!でも悠人君ちゃんとナイトだった!
「悠人君。その素晴らしいスキルを利用して、万が一の時はあたしをかばってください、お願いします」
「は?」
「みーちゃん、プライドも何も存在しない」
「煩い、こーちゃん。あたしが生き残り、かつ仲間も無事なら、それにこしたことはないの!」
「…あー、まぁ。敵ぶん殴るより仲間護る方が性に合ってそうだから、良いけどな」
「ありがとう!悠人君優しい!あたし、初めて身内がログインしてて良かったと思った!」
「おい待て、みーちゃん!俺は違うのか!?」
「こーちゃんのログイン事実はあたしを絶望にたたき落としたから知らない」
ひどいと叫ぶこーちゃんに、あたしは素直に言い返しておいた。だってそうだもん。こーちゃんがログインしてた瞬間、あたしはこの世界を夢だと思い込むことを放棄しちゃったんだもん。というか、放棄せざるを得なくなったんだもん。だからこーちゃんが悪い。
とりあえず、うちのパーティーはこんな感じに身内で固まってしまいました。マル!
と、いうわけで、パーティーメンバーが六人揃いました。見事に身内固めです。
未央ちゃん以外はチートスキル保持なので、序盤はたぶん楽勝だと思います。
ゲーオタ×5+オタクという変なパーティーですが、これギャグなんで良いと思います。はい。