8歩目:おいでませ、巨乳美少女☆
皆様ご機嫌いかがでしょうか、あたしはちっともご機嫌よろしくないです。ゲーオタ女子高生、杭瀬未央、愉快に『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』の世界で冒険者見習いライフを突っ走ってます。
増える仲間がことごとくチートスキル保持してるんですが、どういうことですか???
ただいま、あたしたちはあたしの部屋で、作戦会議という名のおしゃべり中です。
とはいえ正直、作戦会議はあたしとこーちゃんの二人の間でさくっと終わっちゃうんですよね。あたしたち、ダン学のヘビーユーザーなので。特にあたしは、『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』のヘビーユーザーの自覚はあるんで。歩く攻略本とか言われたことは懐かしいです。ダン学好きなんだから、良いじゃないですか。
とりあえず、あたしとこーちゃんの間で決定したのは、《前衛学科の生徒を探し出す》ということになりました。何しろ、現状四人でパーティー組んでるとはいえ、あたし(人間、普通科)、こーちゃん(獣人(獅子)、戦士)、清音(悪魔、死霊使い)、真琴君(妖精、賢者)という編成ですよ。圧倒的なまでに前衛不足ですね、わかります。
あたしに前衛やれとか言わないだけ、こーちゃんは現実をよくわかっています。ちなみに、それを言ってくれた清音の頭を殴りました。不思議そうに聞いてきた真琴君のほっぺたはつねっておきました。これだから、ダン学やってない奴らは…!
チートスキルもない、へっぽこパラメーターのあたしに、前衛が出来るわけないでしょうが!雑魚の攻撃数発で死にますよ!
とはいえ、暢気に萌え語りをしてる清音と真琴君には悪いけど、現状は全然良くないですよ。前衛が必要です。六人パーティーなので、あと二人、仲間を探さないと駄目ですよ。なのに、現時点のメンバーがコレ…。正直、腐女子の清音と、百合好き男子の真琴君の中へ、一般的感性を持つモブキャラを放り込むのが不憫でならない…。
「みーちゃん、気持ちはわかるけど、とりあえず誰か探さないと俺たち先に進めないぞ」
「わかってるけどさ、こーちゃん。あの二人がいるのに…」
「そうだな…」
二人で遠い目をしてみた。常に妄想の餌食にされる危険性を、一般生徒に味合わせるなんて可哀想すぎる。可哀想すぎる。大事な大事なダン学の生徒達を、こんな危険物体達と近づけるなんて…。
視線を向けた先では、おさげ髪の眼鏡悪魔娘が、キヒヒと不気味な笑い声をあげながら、どこでゲットしたのかイケメンの写真をファイリングしていました。その隣では、うふふと楽しそうに微笑みながら、妙に仕草が女っぽい妖精少年が、同じくどこでゲットしたのか美少女、美女の写真をファイリングしていました。その並びが、どちらも己の趣向を意図しているようで、右左がきっちりしているのが気になりましたが、スルーしましょう。良いですか?皆さん、スルーですよ?スルーしないと駄目ですよ?
でないと、奴らの妄想を延々と聞かされる、とても不憫なポジションになりますからね?
楽しそうにファイリングしてる二人を放置して、あたしとこーちゃんは立ち上がる。よし、こいつら置いといて、二人で仲間を探しに行こう。どうせ、この二人にはダン学に必要な要素がわかってないし。
「清音、真琴君、あたしとこーちゃんちょっと出かけてくるから」
「俺らで残りのメンバー探してくるから、大人しくしてろよ」
「っていうかむしろ、自室でやってて良いよ、それ。あたしの部屋じゃなくて」
「あら、それじゃあ、二人が帰ってきた時にわからないでしょ?ここで待たせてもらうわ」
「そうだぞ、未央たん。すれ違いは面倒だ。安心しろ。俺と真琴たんは、ファイリングで忙しいから、未央たんの部屋を弄ったりしない」
「そんなことしたら二度と入れない」
へらへら笑う清音に、思わず真顔で突っ込んだ。なんてことを言うんだ、この女は。相変わらず本当に、色々と困った人間だ。真琴君のことは、心配してない。彼はオネェ言葉と仕草が女っぽいところをのぞいたら、百合が好きっていう以外に欠点は無い良い人だ。あぁ、うん。その欠点が致命的っていうのはわかってます。でも、その欠点以外も駄目すぎる清音に比べたら、真琴君はずっとマトモです!
でもまぁ、大人しくしててくれるらしいので、二人を残して廊下へ。学生寮にちらほらと生徒達が戻ってきてるのは、もうじき夕方になるからだろうか。初級ダンジョンに挑む新入生組は、入っては戻り、入っては戻りの繰り返しになるので。正直、へっぽこ冒険者達が野宿なんてしたら、全滅します。うん。
学生寮の入り口付近の談話スペースに座り込み、こーちゃんと二人で生徒達を物色。複数で戻ってくる子達は、既にパーティーを組んでるのがわかるので、除外です。あたし達が探しているのは、仲間になってくれるような前衛学科の子です。ゆえに、フリーでぶらぶらしてる生徒を探さないと。
「巨乳美少女いないかなー」
「ワイルドイケメンいないかなー」
二人揃って、自分の願望ダダ漏れですが。良いじゃないですか。清音とか真琴君みたいに、薔薇とか百合とかの世界にしないで、普通に愛でるだけなんですから。ゲーオタ女子高生、男子高校生としては、実に真っ当な楽しみ方をしているだけです。だから、せめて好みのキャラを仲間にしたい。
だって、他のメンバーが既に二人、全然心休まらない状況だから。
とはいえ、そんな煩悩ダダ漏れのあたしたちに、好みのキャラは現れません。ニアピン的なのはいるんだけど、複数で行動してるので、仲間には引き込めないようです。
「あー、あのエルフ娘、可愛いな~。巨乳じゃ無いけど、美乳少女だ」
「でもあの子、弓兵っぽいよ」
「そうだな。残念」
「あ、あの竜少年、典型的ワイルドイケメン。フルアーマー着てるから、ナイトかな~?」
「みーちゃん、どう見てもあれ、パーティーのリーダーだぞ?」
「知ってる。目の保養にしてるだけ」
「だよな」
うんうんと、二人でお互いにツッコミ入れつつも遠い目をする。なかなか、目当ての仲間はゲット出来ないようです。前衛が欲しいです。というか、前衛が居てくれないと、あたしとこーちゃんの望みは叶わないです。既に魔法系は二人いるので、前衛が欲しい。この際、外見上の好みとか細かいことを言ってはいけないと思う。
「お、みーちゃん。あの子はどうだ?見るからに前衛の装備してる。ついでに一人」
「うん?…おー、確かに。こーちゃん好みの巨乳美少女」
「悪い、みーちゃん。俺、ロリ巨乳は射程範囲外。あと、竜だから俺の好みじゃない」
「真顔で言うな。失礼だ」
ピンク頭の竜娘ちゃんは、一人で入ってきた。軽鎧を装備してるのと、腰にダガーを差してる辺り、たぶん前衛だと思う。何より、身のこなしに隙が無い。戦闘してます!みたいなオーラが漂ってる。…正直、元々あたしは武術とかさっぱりなんですけど、この世界に来てから、相手の戦闘能力っぽいのが何気なく判定出来るようになった。身のこなしで強そうとか、そういうの。何でかな?
「ゲーオタの勘じゃねーか?」
「あぁ、なるほど。ここゲームの中だもんね」
「それより、どうする?みーちゃん。あの子に声かける?」
「かけたい。正直、前衛欲しいもん」
「よし、じゃあ、行ってこい」
「あたしかよ!」
ぺしん!と思わず隣のこーちゃんの頭を殴った。そこは二人一緒に行くパターンでしょうが!まったく、こーちゃんは本当に困ったヤツだな。待機体勢に入ったこーちゃんの耳を引っ張って、ピンクのツインテールという約束な髪型をしている竜娘ちゃんに近寄る。
あたしたちに気づいたら竜娘ちゃんは、不思議そうに首をかしげた。さて、なんと言って声をかけようか。いきなり仲間になってください、だと不審人物かな?まずは名乗るところからはじ…。
「杭瀬ちゃん?だよね?何でこんなトコにいるの?」
「「…は?」」
思わず、こーちゃんと二人で間抜けな声を上げました。待て、ちょっと待て。待ってください、お願いします。あたしこのパターン知ってる。さすがに四回目になると、もういい加減色々と先の展開が読めるんですけど、どうしたら良いですか?!
「やっほーい!いやー、知り合いに出会えて良かったー。この世界面白いんだけど、知り合い居ないと何がどうとかわからないから困ってたんだよね」
「…みーちゃん、俺、こいつ誰かわかった。この、ロリ巨乳のツインテール娘が誰か」
「…こーちゃん、あたしもわかってる。わかってるけど、認めるの辛い」
「ちょっとー、杭瀬ちゃんどうしたの-?こーちゃんってことは、そっち、三浦くんかなー?」
「「ちょっとお前黙ってろ」」
「うわぉ。その息ぴったり具合、やっぱり杭瀬ちゃんと三浦くんだ」
楽しそうな竜娘改め、安藤朱梨に、あたしとこーちゃんは冷めた視線を向けた。もう嫌だ。なんだコレ。なんだコレ。何でこんなことになるの。またしても知人か!またしても、知人がログインしてたのか!しかももの凄いエンジョイしてる!!!
確かに、確かに朱梨なら、問題なく前衛をエンジョイしていると思う。彼女は、漫研仲間のゲーオタ(格ゲーおよびアクションRPG好き)女子高生です。以前話した、格ゲーの技をリアルで出来るかチャレンジした、運動部並みの能力値を持ったゲーオタです。…うん?誰が、それをやらかした主犯格が、男子だと言いましたか?女子ですよ。女子でやるんですよ。スカートの下に体操服の短パン穿いて、やらかすんですよ、この子!
「…とりあえず、安藤。俺らと一緒に来い。野々宮と坂口もいるから」
「え?そうなの?行く行く。一人でダンジョン歩くの飽きたんだよねー」
「「…一人で歩けるんだ」」
無邪気な笑顔で言い放った朱梨に対して、こーちゃんと二人で心の底からツッコミを入れてしまった。うん、わかった。この子もきっと、チートスキル持ってる。でないと、一人でダンジョン歩くとか、しかも飽きたとか言うほど歩けるとか、ありえないから。
神様、お願いなので、せめてマトモな知人を召喚してくれませんかねぇ?
念願の前衛、それも巨乳美少女が仲間になりましたが、知人です。またしても知人です。
ここまで来たらこの話のネタとかコンセプトとかバレバレではありますが、そういうことです。
変な仲間しか増えないですけど、書いてる作者はひたすら楽しんでます。マル。