7歩目:増えなくて良い人種が増えました。
どうも皆様お元気ですか?ゲーオタ女子高生、杭瀬未央です。『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』の世界に放り込まれ、あたしは冒険者見習いライフをエンジョイ、…してません。
ちくしょー!何であたし以外の友人にはチート属性があるんですか!何であいつらだけチートスキル持ってるんですか!あたし一人だけへっぽこパラメーターで、チート補正も存在しないとか、あたしとても可哀想だと思うんですけど!あたしたちをここへ放り込んだ《何か》さん、いつか必ずお礼参りに伺いますので、首を洗って待っていやがれください。
「みーちゃん、日本語が崩壊しかけてるぞ」
「心配ないぞ、浩介たん。未央たんは常日頃から、興奮すると日本語が崩壊する系女子だった」
「野々宮、お前しれっとヒドイことを言ってやるなよ。いくらみーちゃんが暴走してるからって」
「こーちゃん!こーちゃんもちっともあたしの味方してないからね!あと、清音、お前は絶対後で殴るから覚悟しとけ」
「未央たん、俺には愛情表現が過激だなー、ヲイ」
「何言ってんだ。俺には問答無用で拳飛んでくるぞ、みーちゃんは」
「それは愛だ、浩介たん」
「そうか」
「んなわけあるかー!!!」
思わず叫んで、目の前の獣人(獅子)と悪魔娘の頭を殴りました。全力で殴ってみました。でもあたしの力で殴ったところで、二人には痛くもかゆくも内容です。えぇ、知っていましたとも。あたしはあの二人に比べて、一人へっぽこなんですから。うぐぐ。わかっててもちょっと腹が立つ。
「まぁ、とりあえず、廊下で騒ぐと迷惑だから移動しようぜ、未央たん」
「お前が言うか!?」
「いきなり《厨二魔法》とやらで、停電させたり復活させたお前が言うなよ」
「ははははは。未央たんも浩介たんも、細かいことにこだわるんじゃねぇよ」
「「そこはこだわれ」」
いきなり常識人みたいなことを言い出した清音に、こーちゃんと二人でツッコミを入れた。いやだって、そうじゃないか。どう考えたって、一番非常識なのは清音だ。チートスキル《厨二魔法》とやらで、いきなり停電させるわ、復活させるわ、どう考えたって清音が一番おかしいのに。このマイペース腐女子め。
でもまぁ、清音の言い分にも一理あるので、こーちゃんも含めて三人で移動します。あたしたちがここまで大騒ぎしたので、NPCの先輩コンビに見つかったのではないかと冷や冷やしましたが、見つからずにすみました。というか、彼らは既に図書室に向かったようです。パーティーメンバーと合流するのか、掲示板を確認するのかは知りませんが、NPCとエンカウントせずにすんで助かりました。マル!
とりあえず、向かう先は学生寮です。そう、この学園は全寮制なのであります。しかも個室。素晴らしいですね。ついでに、この自室は、タダ宿なのですよ。あぁ、貧乏なへっぽこ駆け出し冒険者にとっては、とてもありがたいことですね。
「あら?未央ちゃんじゃないの?」
学生寮で、笑顔で微笑む妖精(男)とエンカウントさえしなければ!
いやいやいや、ちょっと待って?線の細い感じの美形だけど、一応ズボン穿いてるし、男子生徒ですよね?男子ですよね?なんでその口調ですかね?あと、何でまたしてもあたしの名前を呼んでるんですか?あたしは目印か何かですか。というか、あなた誰ですか!
あたしに、オネェとかオカマの知り合いなどいな…!…………いや、待とう。いたかもしれない。現実世界の知人が二人もログインしていることを考えて、三度目の正直が起こったところで、それほど驚くことでは無いのかもしれないです。
そう、いる。あたしの知人、それも、あたしの背後で首をひねっている二人と同じ条件を満たす知人が、いますとも。オネェでもオカマでもない人種ではありますが、口調が明らかにオネェ口調という人種が、一人。いや、それよりもっと面倒な性質があるんですが、それはこの際置いといて。
「…嫌な予感的中してたらなんだけど、もしかして、坂口真琴君だったりするのかな?」
「えぇ、その通りよ。良かったわぁ。気づいたらこんな世界でしょ?知り合いがいないと心細くて。未央ちゃんに会えて本当に嬉しいわ」
「…こーちゃん、あたし泣きたい」
「そうか、みーちゃん。安心しろ。俺もちょっと泣きたくなった。ろくでもない知人ばかり召喚されてる」
「うん」
嬉しそうに微笑むオネェ言葉の妖精少年、真琴君を見ながら、あたしはぼやいた。こーちゃんも同意してくれた。あたしたちはこの『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』の世界が大好きだ。ダン学というゲームが大好きだ。そこに放り込まれたことには色々と思うところがあるけれど、それでも、このゲームへの愛はとてもとても深いのだ。
それなのに、清音に引き続き、真琴君まで召喚されているという事実。神様なのかよくわからない《何か》に対して、異議を申し立てたい気分です。それはもう、全力で。
「ほうほう?真琴たんかー。かわゆいのぉ、おぬし」
「え?貴方誰かしら?悪魔さん?」
「ふふふ。俺は野々宮清音だよ、真琴たん。こっちの世界でも可愛いねぇ。願わくば、真琴たんの魅力を引き出せるような、ワイルドイケメンとツーショットよろしく頼む」
「清音ちゃんだったの?確かに、髪型とか眼鏡とかそのままねぇ。でも悪魔って、貴方本当に相変わらずだわ…。あと、私をそっちに巻き込まないでちょうだいね?」
「むむむ。惜しいのぉ。線の細い美形は美味しいというのに。まぁ、身内に迷惑かけると以下略だから、謹んでやらぁ」
「ありがとう」
清音と真琴君はとても楽しそうに笑ってる。あぁ、この二人、方向性が圧倒的なまでに異なってても、本質が本当に同じだよ。似たもの同士だ。言ったら速攻否定されるけど、似たもの同士なんです。
真琴君は、百合好き男子です。
女系一族で育って、お姉さんの漫画とか読んでて、小さい頃は服装までお下がりだったらしい真琴君。彼は漫研の仲間です。ついでに、ゲーオタ(乙女ゲー)男子です。そしてそのまま、何故か走る方向が百合になったようです。百合って何?えぇ、彼は清音と反対に、女同士の恋愛に至高の萌えを感じる人種です。美少女とか美女とかが並んでいるとときめくそうです。無機物擬人化も、もちろん彼のスペックに入っています。
…あぁ、頭が痛いです。安○先生、あたしは平穏が欲しいのです。望んではいけないのでしょうか?
「みーちゃん、黄昏れてるところ悪いが、とりあえず、坂口も回収するぞ」
「…うん。しとこう。彼も放置したらNPCが危険だとあたしは判断します」
「俺もだ。…特に、リメインには近づけたらまずくないか?(小声)」
「…あぁ、うん確かに。真琴君の好みのストライクだね、リメインちゃん(小声)」
盛り上がる二人を放置して、あたしとこーちゃんは作戦会議。清音はイケメン全てから遠ざけるべきだけど、真琴君もまた、美少女や美女から遠ざけるべき人種です。特に、その中でもこの作品のNPCのヒロインであるリメインちゃんは、要注意。何しろ、真琴君が大好きなテンプレなヒロインなので。近づけたら、彼女を周りの女生徒とカップリングして、その妄想をオネェ口調で延々と語ってくれるだろうし。そんなのいらないです。
「そうそう、未央ちゃんとそっちは、浩介くんかしら?聞きたいことがあるのよ」
「おう、俺でわかることなら答えるぞ、坂口」
「あのね、このスキルがよくわからないんだけど…。ほら、私、RPGはしないから」
「そうだな。よし、こっちでデータ確認する」
「お願いね」
こーちゃんが生徒手帳を開き、真琴君のデータを確認する。あたしも横からのぞき込んで便乗させてもらう。真琴君は種族は妖精で、性別はやっぱりちゃんと男で(だって確認しておきたい)、学科は賢者だった。賢者は、妖精族の専用上級学科で、死霊魔法と召喚魔法以外の全ての魔法を覚えられるという、魔法系最強ジョブです。当然魔力も高いけど、反面体力が低いという、妖精族の特徴がメーター振り切ってる、完全なる後衛学科ですねー。
そっかー、真琴君、賢者かー。でもまぁ、助かるよねー。清音は死霊使いでチートスキル《厨二魔法》とかいう魔法系だから、回復は期待できないもん。真琴君には、回復とか補助とか頑張ってもらおう。良かった良かった。で、真琴君の言ってた、よくわからないスキルってなんだろ???
神様、《MP消費1/2》と《全属性吸収》って、どういう意味ですか?
チートか!真琴君もやっぱりチートだったのかぁああああああ!ずるい!何そのスキル!魔法系に必須みたいな、MPの消費が半分になるスキルとか、それ持ってるだけで、序盤から終盤まで主戦力じゃないですか!あと、全属性吸収するとか、属性の付いた敵の攻撃(物理、魔法問わず)でダメージ受けるんじゃ無くてHPが回復するってことでしょ!?どれだけチートなの!?
「おー…。魔法系の長所を補うスキルと、弱点を補完するスキルじゃねーの…」
「浩介くん、これ、おかしいの?」
「あぁ、おかしい。俺や野々宮と同じで、お前もチートスキル持ってたってことだな。内容を説明するなら、魔法を使うときに必要なMPが半分ですむってのが一つ目。二つ目は、属性の付いた敵の攻撃は、物理も魔法も全部、お前にとっては回復になるってことだ」
「あら、そんなすごいスキルあるのー?裏技みたいねー」
「確実に裏技だと思うぞ、真琴たん。俺ら三人に付与されてるチートスキルだ」
「三人?あら、じゃあ、未央ちゃんは?」
「「無い」」
こーちゃん!清音!確かに正しいことだけど、あっさり言い切らないでくれるかな!?あたしがすごく惨めになるじゃないの!ひどい。ひどい。この世界がちっともあたしに優しくない。あたしだけが、確実に生死の境を彷徨うのが目に見えてる。いじめ?これはいじめなの!?
「みーちゃん、言いたいことはわかるが、とりあえず部屋で作戦会議するぞー」
「わかってるわよ!」
いいわよ。どうせあたしはへっぽこ最弱ユニットですよ!もういいもん。そこのチート三人に働かせて、あたしは後方で大人しくしてるんだから!チートが戦えば良いんだ!
チートが増えました。未央ちゃんはチートじゃないので頑張ってください。
腐女子に引き続き、百合好き男子が増えました。ははは。変なキャラしか出てこないというか、こんな奴らしかいない漫研が心配です(真顔)
そういや、百合好き男子は百合男子っていう呼称で良いんですかね?よくわからないんですけど。