6歩目:とりあえず、三人揃ったので編成考えてみた。
えくすきゅーずみー?どなたかあたしの状況どうにかしてくれませんか?ゲーオタ女子高生、杭瀬未央、ただいま相変わらず『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』の世界で、冒険者見習いやってます。仲間二人目ゲットしたんですが、全然望んでない相手でした。こんちくしょう!
いやだって、何でこうも普通に、現実世界の知人がゲーム世界にログインしてるんでしょうかね?しかも、このゲームやったことない人間が!こーちゃんがいるのは、あたしと同じくダン学やりこんでるユーザーなので、もう諦めておこうとか思ったんですけど。清音がいるのは、個人的に納得できない。というか、いらない。この腐女子と一緒にダンジョン探索したくない。
あ、一応、あたしと清音は友達ですよ。高校で知り合った友人ですけど。同じ漫研に所属してるし、ジャンルは違えどお互いゲーオタなので、気にせず話が出来るという点では、大変便利な友人ですよ。ただね、清音はどっぷりと腐海に沈み込んでる腐女子なので。あたしがオススメする良作RPG全てで、勝手にBL萌え発揮して生きてる人なんで。そういうネタが絡むと面倒くさいのよくわかってるんです。
「未央たん、百面相してるとこ悪ィんだけど、聞いて良いか?」
「…何、清音」
「あのワイルド×イケメンの二人の情報寄越せ」
「誰が渡すか!」
「うむ。つまり、あいつらNPCってことで良いわけだよな?よし、浩介たん、教えろし」
「学園最強パーティーのリーダー兼生徒会長様とその相棒だな」
「こーちゃんんんん!!!!!」
全力で大切なダン学のNPCを護ろうとしたあたしの頑張りを、隣でこーちゃんが裏切りました。なんてひどい。唯一の味方だと思っていたのに、おのれお前はあたしよりも清音を取るのか、こーちゃん!
「みーちゃん、落ち着け。俺は別にダン学を売るつもりはない。けどな」
「何よ」
「俺らが情報与えなかったら、こいつ、NPCに突撃して説明求めるぞ」
「おー、やるなー。だってあの二人超萌えるじゃん」
「それ駄目!絶対駄目!禁止!」
思わず清音の腕を掴んでしまった。でもあたしはへっぽこパラメーターの人間、普通科なので、別に痛みとか無いと思われます。清音も普通の顔してるし。
何で清音を止めたかと言えば、大切な『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』のNPCたちが穢される!というのも理由の一つではあるけれど、もっと大きな理由があります。あるんです。だって、彼らはメインストーリーやらイベントやらに絡んでくるNPCですよ?うっかり会話して、そこからイベント発動したらどうするんですか!目も当てられない!
だって、あたしたち、まだレベル1なんです。入学したての新入生なんです。そんなあたしたちに、いきなりイベントとか放り投げられても、泣くしかないじゃないですかー。だから、清音は捕まえておかないと駄目です。こいつ絶対、イケメンめがけて突撃する。イケメン=NPC=イベント発動フラグ。危険すぎる!
「じゃあ、あの二人の詳しい情報、教えろ」
「それは後にして、とりあえずお互いのパラメーター確認しねぇ?編成兼ねて」
「ほぉ。それは重要か、浩介たん」
「重要だな。俺たちはダンジョンを探索して、少なくともゲーム中盤以降レベルまでは進めないと、目当ての人間に会えないんで」
「その人間に会うメリットは?」
「元の世界に戻る方法を知っている、かもしれない」
「うし、乗った」
あたしを放置して、こーちゃんと清音の間で話がさくさく進んでた。いや、別に良いけど。うん、かまわない。こーちゃんが清音の相手をしてくれるなら。つーか、清音、さっきまで嬉々としてダン学の世界に馴染んでたのに、いきなり真顔になった。どうしたの?
「お気に入りのアニメの続きが気になる。先週すっごい萌えな山場だった」
あ、うん。わかった。あたしたちがエンクエ目当てに頑張ろうとしてるのと一緒だった。清音は基本的にゲーオタだけど、漫画もアニメも好きだもんね。というか、彼女が好きなのは萌える男子の絡みがある作品か。そのくせ、公式がやり過ぎてると食指が動かないとか我が儘言ってたけど。根っからの妄想体質なんだろうなー。
そんな清音の真顔に色々と思うあたしを尻目に、こーちゃんは電子手帳型の生徒手帳を取り出して、清音のデータを見ている。あ、そうか。パーティー編成したから、仲間のデータ手帳で見れるんだ。しかし、この手帳便利だなー。電子手帳タイプだけど、めくったら装備品とかアイテムとかも確認できるしね。
清音は悪魔で、学科は……、死霊使いか。ネクロマンサーとか、普通に厨二病的な職業だと思うんだけど、もうこの際気にしないでおこう。だって清音だもん。白魔術師とかじゃなかっただけマシだ。とりあえず、あたしは普通科で魔法ほとんど使えないに等しいし(正確には、覚えられるけど、人間+普通科じゃMPがそんなに成長しないので、実践的では無い)、こーちゃんはどう見ても前衛職業だし、魔法系ゲットってことで喜んでおこう。
こーちゃんは戦士かー。獣人(獅子)で戦士とか、こーちゃん鉄板ポジションだな。アレか。こーちゃんのことだから、下級職で必要なスキル集めてから転科して、前衛最強のアタッカーとか目指してる感じ。たぶんそうじゃないかと思うんだけど。こーちゃん、基本的に前衛後衛で完全に役割分担する感じのパーティー編成が好きだったもんな。
ちなみにあたしは、万能型をよりどりみどりで揃えて、とりあえず全滅一歩手前のたった一人という状況になっても、何とか安全にダンジョンから脱出出来そうなメンバー編成を行います。回復魔法は一通り覚えさせるよ。状態異常回復とっても大事だよ!
「そういや、このスキルの意味わかんねーんだけど、これってそういう仕様?」
「「スキル?」」
「そう、スキル《厨二魔法》ってーの」
「「何だそれ!!!」」
聞いたことも見たことも無いスキル名に、あたしとこーちゃんが二人して叫んだ。清音は首をかしげている。まぁ、彼女はダン学やったことないから、首ひねってても仕方ないけど。それでも、さすがにそのスキル名はおかしいと思ってるよね?思ってるよね、清音ぇえええええ?!
「これ面白いけどな。ちょっとやってみるか?」
「野々宮、周りに被害が出る感じの魔法は勘弁しろ」
「大丈夫だ。心配すんな。《深淵に眠りし無限の闇よ。現世に顕現し、我が前に紡がれよ。覆え、全ての光を。――絶縁の暗闇!》」
イイ笑顔になった清音が、どう考えても厨二病にしか聞こえない呪文を唱えだした。こーちゃんと二人で成り行きを見守るしか無いあたし達の前で、清音の掌に闇が現れる。そしてそれは、唐突に付近の光源を覆い尽くし、いきなり廊下が真っ暗になった。
こらーーーー!全然問題無くない!周囲に被害出てる!皆さんすっごいびっくりしてらっしゃる!!!
「清音!!!」
「大丈夫。次がある。《空より降り注ぎし眩き光よ。永遠を紡ぐ優しき御手よ。闇を払い、光を与えよ。――光神の祝福!》」
「あ、戻った」
「結構面白いだろー、未央たーん」
「面白いわけあるかー!」
再び厨二病な呪文を清音が唱えたら、今度は闇が綺麗さっぱり無くなって、光が戻ってきました。いやいやいや、何ですかコレ。こんなんあたし知りませんけど。『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』の世界に、そんな意味不明な魔法もスキルも、存在しません!
こーちゃんも、戻ったとかのんきなことを言ってないの!この馬鹿、とっ捕まえておいて正解だった…。この世界に放置したら、どんな混乱を生み出すかわからない…。
「でもまぁ、これで一つ納得したことがある」
「何、こーちゃん」
「俺のコレも、野々宮と同様の、妙なスキルだってことが」
「うん?」
「スキル《経験値2倍》《履修速度2倍》ってのがついてた」
「死ね、このチート!!!!」
思わずこーちゃんを全力で殴ったけど、別にちっとも痛くないと思います。わかってます。むしろ殴ったあたしの手の方が痛い。清音は面白がって生徒手帳で色々情報調べてるみたいだけど、あたしはそれどころじゃない。こーちゃんの裏切り者。裏切り者。裏切り者ぉおおおおおお!!!
何で?これ、あたしだけへっぽこっていう訳じゃ無いですか。清音にもこーちゃんにもチートスキルあるとか、どういうことですか?本来のゲームに存在しないスキルがあるって、それだけでこいつらチートの仲間入りじゃないですかぁあああああ!
「浩介たんのスキルは、さしずめエリートだな」
「あぁ、エムブレム・サーガシリーズの経験値2倍の名称な」
「そうそう。つまり、浩介たんは一人ガンガン強くなって、俺たちを護ってくれるわけか。よろしくな~」
「いや、仕事しろよ、死霊使い。あとお前もチートスキル持ってるだろ」
「おうよ」
和やかに会話してるな、この裏切り者どもめ。なんでー。なんでー。何であたしにはチートスキル無いのに、この二人にはあるんですかー。ずるいー。ずるいー。これから冒険者ライフしなきゃいけないのに、あたしだけへっぽことか、死ねってことなんですか。苛めですか。神様いるなら、殴らせてください。(真顔)
うぅ。良いですよ。最弱でも頑張るもん。このチート組の阿呆…。
仲間が加わったので色々ステータス画面見たら、未央たんだけ仲間はずれでした。
ごめんねー。でも君はへっぽこである方が楽しいので諦めてください。
というか、主人公チートとか、ゲーム楽しくないじゃないか。ねぇ?