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3歩目:ゲームの世界に知人がいた件について。

 はろーえぶりわん。はうあーゆー?あたしはちっとも元気じゃないし、ちっとも大丈夫じゃ無いです。こんにちは、ゲーオタ女子高生、杭瀬未央くいせみおちゃんです。

 いやもう、本当にねぇ?何でこうなってんの?こうなっちゃってんの?現実って何?真実って何?世の中世知辛いとか、そういう次元じゃないと思うんですけど、どういうことですかね?!

 

「大丈夫か、みーちゃん?顔が百面相だぞ」

「うっさい、黙れ!」


 目の前で不思議そうにきょとんとしてる獅子男を、今の自分の全力で殴ってやったとも。だがしかし、人間で普通科(しかも振り分けポイントがほとんど無かっただろう並以下スペック)のあたしが殴ったところで、獣人(しかも獅子)で、おそらくポイント全部体力系に振っただろうこの男に効果は無いです。わかっているけど、わかっているけど、殴りたい!

 何で、夢だと思ってた世界に、現実世界の知人がいるのか、そこんとこを小一時間ほど問い詰めたい。相手の襟首ひっつかんで、がくがく揺さぶって、「なんでアンタがここにいるのよぉおおお!」という、漫画的お約束な感じのツッコミを入れつつ、問い詰めたい。

 この世界はゲーム『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』であり、あたしは何でかそこにチュートリアルから紛れ込まされているわけで。んでもって、これを夢だと決めつけたかったけど、寝て起きても元の世界に戻れなかったので、どうやって元の世界に戻ろうかと一生懸命考えていた。その情報を得るためにやってきた図書室で、まさかのこいつとエンカウント。


 だから、何故、現実世界の知人が、ゲーム世界にいるのよ!!!


 何怒ってるんだ?なんてのんきなことを言ってるこーちゃんを、とりあえずぶん殴った。もう一回。何回でも殴ってやりたいけど、あんまりやるとこっちの手が痛むことに気がつきました。ストレスだけがたまるようです。こんちくしょう。何であたしはこんな普通以下の仕様なんですか。泣けと。泣くぞ。

 …落ち着こう。とりあえず、落ち着いて考えてみよう。何で三浦浩介みうらこうすけ氏がこの世界にいるのか。それはおそらく、あたしと同じように、よくわからないうちに放り込まれてた、ということだと思う。そもそも、原因とかわかってたら対処してるだろうし。

 そこで、一つこみ上げる感情があるのです。

 あたしの目の前に立っているのは、三浦浩介ことこーちゃん。あたしと同じゲーオタの男子高校生。何故か今は、この世界の仕様に合わせてか、獅子の獣人になってます。ついでに赤毛。鬣とか見事だねぇ。あと、獅子って獣人の中でもパワー型だけあって、威圧感ぱないわー。

 それは良いんですが、何であんたは装備ばっちり整えてらっしゃるんですかねぇ、こーちゃんや。どう見ても、手持ちの資金でできる限りの装備品を購買部で整えてきた帰り、みたいに見えるんですけど。何でそんな、このトンデモ状態を普通に楽しんでるように見えるのか、教えてくらさい。


「こーちゃん、装備ばっちり整えてるように見えるけど」

「おう。購買部は装備品高いけど、初期武器よりはマシだしな」

「いや、なんで装備品整えてんの」

「うん?何言ってんだ。ダン学だぞ?装備品整えなきゃ、チュートリアルクエストで全滅フラグじゃねーか」

「いやそうだけど!そうなんだけど!!!」


 言ってることは正しいけど、あんたのやってることは何一つ正しくない!このわけわからない世界に放り込まれて、元の世界に戻る手段すらあやふやな中で!何でアンタは、レッツ冒険者ライフみたいなことをやってるのか!戻る気あるのか、こらー!


「そういや、みーちゃん装備は?」

「初期装備のままですよ!悪かったな!」

「お前が?何で?難易度わかってるだろ?…あ、アレか。先にパーティーメンバー集めてたのか?俺は装備品買いに行ってたせいで、まだ仲間見つかってないんだよなー」

「……」


 …駄目だ。こいつ早く何とかしないと。

 もう本当、さっさとどうにかしてあげないと、この男この世界で冒険者ライフエンジョイしちゃうよ。元の世界に戻れないという危機感が存在しないよ。何を考えてるんだ。バカか。バカなのか。学校の成績、悔しいけどあたしより良かったはずだろう、こーちゃん!

 思わず頭を抱えてうずくまった。そうしたら、心配してくれたのか、こーちゃんがしゃがみ込んであたしの頭をぽすぽすしてくれた。ありがとう。優しいのは嬉しいけど、ここで落ち込んでるのは明らかにアンタのせいだ。わかってないだろう、唐変木!

 何でのんきに装備品整えて、しかもそれやってないあたしの行動を、「パーティーメンバーを探してた」と認識するの。違う!普通に考えて、このおかしな世界から、現実世界にログアウトするための手段を探してたの!それだけ!


「みーちゃん、仲間は?空きがあるなら、俺も混ぜて」

「うるさい。黙れ。あたしはぼっちだ」

「は?何で?」

「うっさーい!あたしはね、アンタと違って、元の世界に戻るための手段を探してたの!普通に冒険者ライフエンジョイしようとしてるアンタと一緒にすんじゃないわよ!!!」


 怒鳴りつけたあたしに、こーちゃんはきょとんとしていた。何その顔。何であっけにとられた顔してるの。何考えてるの。バカなの?バカだったの?


「…戻る方法なんてあるのか?」


 ……。

 …………。

 ………………っ!


「真顔で聞くなぁああああああ!!!!」


 ぷちっと頭のどこかで何かが切れた音が聞こえた気がした次の瞬間、あたしは無意識に回し蹴りをこーちゃんに向けて放っていた。驚きながらもそれを受け止める獣人こーちゃん。くっそー!くっそー!平然と受け止められるのも悔しいけど、真顔でそんなこと聞いてくるこいつの頭に腹が立つぅぅうううう!

 戻る方法があるのか無いのかなんて、今のあたしにわかるわけないじゃない!それでも、それでもあたしは元の世界に戻りたいの!現実世界にログアウトしたいの!普通に考えて、ゲームの世界に閉じ込められてラッキー状態にはならないの!!!


「戻れるか戻れないかじゃなくて、戻らないといけないの!あたしには、来月発売のエンドレス・クエストⅩをプレイするって言う使命があるんだからね!」

「…エンドレス・クエストⅩ…」

「忘れてたの?数年ぶりに出るエンクエシリーズだって大騒ぎしてたくせに」

「…………いだろ」

「はい?」


 ぼそりとつぶやいたこーちゃんが、低い声でうめくように続けた言葉は、聞こえなかった。今度はこーちゃんがうずくまってる。発言の続きが気になって、ぺしと頭を叩いてみたら、こーちゃんは顔を上げて真顔であたしを見ていた。あ、目がマジだ。


「この俺が、エンクエ最新作の存在を忘れるわけがないだろうが!エンクエシリーズをフルコンプし、今か今かと続きを待ち望み!体験版もプレイして、既に限界までにレベルを稼ぎ、アイテムも集め!当然ながら初回予約限定版を予約開始日当日に申し込んだこの俺が、エンクエⅩの存在を忘れるとでも思ってたのか、みーちゃん!」


 ほぼノンブレスで言い切ったこーちゃんを褒めるべきだろうか。それとも、こいつが自分と同じレベルのゲーオタだったことを悲しむべきだろうか。喜ぶべきだろうか。たぶん、普通の人だったらここでドン引きして、ないわー状態になるんだと思う。だがしかし、ごめんなさい。あたしもゲーオタです。こーちゃんの気持ちはよくわかります。あたしたち二人は、エンドレス・クエスト派なんですよ。エターナル・ファンタジー派じゃないんですよ。

 

「そこまでわかってるなら、あたしが何で躍起になってるかわかるでしょ?」

「…わかった。だが俺は、このよくわからん状況で戻れるとは思えず、それならせめて、ダン学の世界を楽しんだ方がマシかなーと思ったんだ」

「諦めるの早すぎでしょ!こーちゃんのエンクエへの愛はその程度だったの!?」

「そんなわけがない!だが、たった一人でこの状況で…。正直情報が無さ過ぎるぞ、みーちゃん」


 半ば以上本気で叫んだあたしに、割とマトモなツッコミが返ってきた。よし、こーちゃんちょっと正気に戻ったな。エンクエ絡むと人格崩壊起こすレベルでおかしくなるからねー。そういうこーちゃんも嫌いじゃ無いけど、真面目にお話ししようとするときには不便だ。

 さて、と。

 こーちゃんが正気に戻ったところで、あたしが元の世界にログアウトしたがってることが通じたところで、あたしたちが手詰まりである状況に変化は存在しない。正直、こーちゃんの言うとおり、情報が足りない。足りなさすぎる。そもそも、なんであたしたちはこの世界に放り込まれてるのか、それすらわからないし。


「そこの一年生たちー?図書室で大声出すのやめてちょうだいね?」

「はわ!?」

「す、すみません」

「本当にわかったー?次やったら、お姉さん威嚇射撃しちゃうよ?」

「「イエス、マム!!」」


 ひょこっと顔をのぞかせた眼鏡の猫耳メイド、エルーニャ先輩に、二人そろって敬礼した。ふふふと笑って去って行くが、普通に発言が怖かった。さすが、学園最強パーティーの一角。メイド服に隠した銃がちらりと見えてたところも普通に怖い。威嚇射撃やめてください。図書室で叫ぶのは駄目で、発砲するのは良いんですか。おかしいです、先輩。

 

「みーちゃんや」

「何かな、こーちゃんや」

「とりあえず、元の世界に戻る方法探すためにも、ダンジョン探索しねー?」

「…は?」


 間抜けな声を上げたあたしに、こーちゃんは真顔で続けた。


「この世界で一番知識持ってる人間、中盤以降しか行けない場所にいるだろ」

「…あ、忘れてた。てか、知ってるかな、そいつ」

「わからん。が、仮にも『永久の賢人』とまで呼ばれてる隠者だからな。他に手がかりが無い以上、頼ってみるのも手だろ」


 確かに。確かにねー。『永久の賢人』さん、もとい隠者・ランベルト。『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』のNPCであり、世界の真理を全て知るとまで言われる、最強の賢者。むしろ生き字引。プレイヤー的にはヘルプ情報を教えてくれる人であると同時に、物語の本筋に思いっきり影響する情報まで教えてくれる、超便利な情報担当者です。年齢不詳のエルフである彼は、大陸の中央にある封じられた森の庵に引きこもってるので、会いに行くのも一苦労です。間違ってもレベル1じゃ行けない。

 というかそもそも、ダンジョンの通行許可をもらうためにはクエストをクリアしてイベントを進めないといけないわけです。通行手形をいただくために、あたしたちはどうやら、真面目に冒険者ライフをしなければならないようですね。


「こーちゃん」

「おう」

「とりあえず、購買部。あたしも手持ち金で装備品整える。あと、仲間探そう」

「了解。あと四人、だな」

「うん」


 当面の目標は立った。ならば、行動あるのみ。あたしはチート属性皆無でたぶん最弱の状態だろうけど。こーちゃんのステータスがどうなってるのかは知らないけど、他のメンツをそれなりので固めればきっと大丈夫だ。問題は、あたしたちが現実世界にログアウトしたがってるっていう事情を、説明できないことだけど。まぁ、『永久の賢人』に会いたいって目的だけ伝えたら大丈夫でしょう。たぶん。


「魔法系欲しいよな~。出来れば巨乳美少女で」

「盾持ち欲しいよねー。ワイルドイケメンで」

「「……」」

「前衛と後衛でばっちりそろえような、みーちゃん」

「種族もよりどりみどりでいこうか、こーちゃん」


 こうなったら、この世界を楽しむのも一つの手段ですよね!え?異論は認めない。

ゲーオタ二人が手を組みました。ついでに、この二人は『突撃☆ダンジョン学園ふぁいなる♪』をやりこんでいるので、予備知識はばっちりですね。

次回、彼らはパーティーメンバーを探してさすらうことになりそうです。

お目当ての巨乳美少女とワイルドイケメンが仲間になるかは、神のみぞ知る、であります。

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