2話 魔法陣
三田村さんに魔法陣の使い方を教えるべきか悩んだが、三田村さんは、友達を紹介してくれると言ってきたので、引き受けてしまった。
なんと、三田村さんは、無防備にも俺のアパートの部屋に上がり込んで来た、必死なのであろう。
俺としては、友人の彼女に手を付けるわけにはいかないので、一応その気はないのだが・・。
魔法陣を大きめの紙に書いて、彼女に使用方法の説明をした。
「こうやって、魔法陣に自分の血を垂らして、指定された生贄を配置するだけだよ。」
「分かったわ。じゃあ実際に動かしてみて!」
「はい?ここで?」
「そうよ。私ひとりじゃ不安じゃない。」
何を言っているのかこの子は、俺の家で魔法陣を起動させて異世界に行こうとしてるのか?
残された俺は警察行きじゃないか。
友人の林の件もあるし、それこそ失踪事件の犯人にされかねない。
それに、この子に異世界に行かれてしまったら”友達を紹介してくれる”件が有耶無耶ではないか。
「えーと、方法を教えるので、自宅で試してみて。あと、友達の紹介をして欲しいんだけど?」
「何言ってるのよ。この方法が嘘だったら、紹介しないわよ。」
「いや、それじゃ三田村さんが本当に異世界に行ってしまったら、俺に友達紹介してくれるのは誰かな?」
「そ、そうね。それじゃ友達の連絡先あげるから自分で電話してよ。」
「・・・・。」
理屈が無茶苦茶である。知らない人が連絡しても、普通若い女性は電話に出ない。
後でフォローしてもらおうとも、紹介元である三田村さんが異世界転移で居ない。
そもそも、三田村さんには周りが見えていない。今は話も通らないだろう。
俺は、リスク(警察行き)とリターン(友達だち紹介)を天秤にかけ決めた。
「友達紹介はいいので、あなたは自宅で試してみて下さい。それじゃ今日はお引き取りを。」
と丁寧に言ったんだが、ひどく睨みつけられた。
「あなた!友達が失踪したのになんとも思わないの?冷たい人ね!しかも、か弱い女性に一人で異世界に行けなんて、なんて人!」
いや、なんか俺悪い人のような言われ方だけど。魔法陣の使用は止めるように十分説得したのに、使用した林が悪いのだし、この三田村さんとは昨日会ったばかりで、義理も何も無いんだけど。
「とにかく、これ以上は協力できません。帰って下さい。」
と言ったのが、三田村さんの切れるきっ掛けとなった。
三田村さんは包丁を取り出して自分の首に当て
「魔法陣を動かして、私を彼のいる異世界へ連れて行きなさい。さもないと死ぬわよ!」
「な!」
俺は硬直した。自分に向けられた刃物なら、武術の経験があるので対応も考えらえるのだが、この場合いい案が思いつかない。
とりあえず、説得してみることにしたが、
「早く魔法陣を動かして!」
と一点ばりであった。
首には、血がにじんでいた。
ヤンデレって言うんだろうか。
あれこれ試みたが、成すすべが無く魔法陣を起動。
魔法陣が光ったと思ったら、急に暗くなり、上下左右の感覚が消失した。
次に気づいたとき、真っ白い天井がある床に、俺と三田村さんは寝そべっていた。