勇者××××の犯行
「…………とどめを…………」
満身創痍の魔王が、かすれがすれにそう告げた。
勇者は唇を引き結び、構えた聖剣を強く握り締める。
これまで、数え切れない月日を戦ってきた。
何度も何度も死にながら、何度も何度も殺しながら―――途方もない年月を戦いに費やしてきた。
すべては、この双肩に背負った世界に、輝かしい未来を齎すため。
勇者は、生まれた時からすべての時間を、そのためだけに費やしたのだ。
……これで本当に世界が救われるのか、実の所はわからない。
だが、魔王を―――この終焉の存在を取り除くことで、世界は新たな変化を迎えるはずだ。
迷いを振り払う。
躊躇いを捨て去る。
勇者は雄叫びを上げながら―――振り上げた聖剣を、魔王の胸に突き立てた。
魔王の身体が末端から石化していく。
あまりに力を込めたために、聖剣を引き抜く余裕はなかった。
そのつもり自体、勇者にはなかった。
この聖剣は、証拠になってしまうだろう。
何せ、勇者はまだ旅立って一週間も経っていないことになっている。なのに、勇者にしか使えない聖剣がここ魔王城にあり、世界最強の存在たる魔王を死に至らしめている……。
生じるはずのない死。
起こるはずのない決戦。
あるはずのない聖剣。
この矛盾が、この世界の秘密を解き明かす可能性は充分にある。
だが、構うまい。
たとえこの罪が明るみになったとしても―――勇者は、己が役目を果たしたのだから。
ようやく、果たせたのだから。
こうして、世界はエンドロールを回し始めた。