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理性院カシギは女運がいい  作者: 紙城境介
オーバー・ジ・エンドロール ~魔王を殺害した勇者の世界よりも重い罪~
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軍師カツメイの考察


 八メートル四方の部屋は一人で思考に耽るには些か広すぎる。けれど今の状況では仕方のないことだ。

 僕はソファーに深く腰をうずめた。


 封鎖された魔王城。石化した死体に二本目の聖剣、そして勇者。

 考えなければならないことは幾らでもある。けれど今は、それら直近の問題を頭から追い出した。


 しばらく前から、僕は不可思議な違和感に襲われている。

 色んなことに疑問を覚えるようになったのだ。それまでは『そういうもの』だと思ってきたものに対し、『なぜそうなのか?』という疑問が絶え間なく湧き続けるのである。


 今となっては、なぜこれまで何の疑問も持たなかったのかということ自体に疑問を覚える。

 過去と現在とでのダブルスタンダード。その軋轢が、ギチギチと音を立てて僕を蝕むのだ。


――― たとえ、彼らが何を隠していたとしても ―――


 理性院カシギとの会話の最後、ぽろりと漏らしてしまったことを思い出す。


 あの時は、彼ら、と濁してしまったが。

 具体的に言えば、あれはシャーミルさんのことだ。


 シャーミルさんと、魔王様、そしてグイネラ様。

 この三人は、まず間違いなく僕達に何かを隠している。僕は軍師だ、謀略の類には縁がある。隠し事の気配には敏感なのだ。


 隠し事と言っても、僕達に害を為すものではない……そう思う。

 むしろ逆だ。彼らは僕達を慮ってそれを話さないのだと思う。


 けれど、僕にはもう耐えられない。

 早くこの疑問の嵐に解答を与えなければ、僕という存在が瓦解してしまう。


 きっとそれは、大きな秘密だ。

 この世界全体に関わるような、大きな秘密に違いない。


 その答えに至るために、僕は内々に調査を進めてきた。

 まず、神子シャーミルの来歴。

 彼女は魔界のとある山村の出身だ。その村は代々の神子を生み、育て、魔王のもとに届けることだけを使命としている。

 シャーミルさんも同じように、その村から旅立って、世界を行脚した後に魔王様のもとへと辿り着いたようだ。


 そもそも、神子とは何なのだろう?

 神がもたらす神託を代弁する存在。それは重々承知だが、そもそも神託の内容が意味不明だ。


 僕達魔族の戦い方を明確に規定し、まるで勇者に利しているように思える。

 だがそれならそれで、僕達を直接倒してしまえばいい。なぜそうしない? なぜわざわざ勇者を冒険させ、育たせ、戦わせる?


 それにダメージ計算式や勇者の成長率など、世界の仕組みを直接覗いてきたかのような情報の数々にも不気味さを覚える。

 神だというのなら確かにそのくらいわかるのかもしれないが……そもそも、世界の仕組みなどというものが僕達に理解できる形で存在していること自体が薄気味悪い。


 これではまるで、僕達が生き、暮らしているこの世界が、ごく簡単に出来上がっているようじゃないか。


 僕が個人的に進めてきた調査には他にも様々なものがある。

 主なものは各地に残された古代の石碑や古文書の収集だ。同時に勇者についても調べを進めていて、聖剣を奉ずる聖地にも監視役を置いている。


 そうした調査の結果、この世界の歴史には共通点があることがわかった。

 そのすべてが、勇者と魔族の戦いに深く関わるものなのだ。


 まったく関係のない伝説、伝承は一つとしてない。他はまったくの空白だ。

 それはもちろん僕が見落としているだけという可能性もあるのだが―――さて、これは一体何を意味するのだろう?


 何百回と繰り返した疑問を頭の中に浮かばせて―――


「―――待て」


 唐突に。

 とある仮説が、頭の中で形を取った。


 僕は居ても立ってもいられず立ち上がる。

 部屋の中を忙しなく歩き回りながら、今の閃きを様々な情報と照らし合わせて精査する。



 しばらく前から唐突に生じた違和感。

 シャーミルさんや魔王様、グイネラ様の隠し事の気配。

 明確に規定された勇者の冒険。

 偏った歴史。

 圧倒的な力で殺された魔王様。

 そして、複数本の聖剣。



 ……間違いない。

 すべての情報と合致する。


 なんてことだ。

 なんて恐ろしいことだ。




 つまり、この世界は――――――――――――




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