第2球 応援を力に変えて
8月21日。対巨人戦。
7回裏2out満塁。0対3の場面で阪神は代打を告げる。
「代打、志崎」
甲子園球場はこの日最高の歓声を上げた。しかし、志崎は表情1つ変えず、ヒットを打つ事だけに集中していた。
「ふぅ……」
志崎は左打席に立った。俊足を生かすために、野球を始めた小学生の時から右投げ左打ちである。
「来い」
相手ピッチャーは19歳の若手投手。最速152km/hの直球が武器だ。
第1投。志崎は真ん中のスローボールを空振りした。
「ストライーク」
甘い球だが、完全にフォームを崩された志崎。志崎がここまで打てないのは動体視力の問題では無く、タイミングが合わない。それだけだ。
「ストライーク」
2投目も空振り。志崎はスイングスピードは球団トップであるが、とにかく当たらない。当たれば甲子園球場で場外ホームランが可能だと専門家に言われた程。
追い込まれた志崎はバットを短く持った。
そして、歓声と応援歌が志崎に力を与えた。
「打ったああああああ!」
実況者が叫んだ。そう、志崎は打ったのだ。
高校時代、芸術的と絶賛されたバット投げを32年の歳月を経て、この甲子園球場で見せた。
白球はバックスクリーンを越えていき、場外へ。
代打逆転満塁本塁打。志崎の最初で最後のヒットはホームランだったのだ。






