敵がチート過ぎて泣けるwww
悪の組織、クライマックス帝国は、怪人部隊による地球侵略を目論んでいる。
宇宙に漂う悪の帝国は科学の発展や戦争で荒れに荒れ、ついには資源が枯渇してしまったのだ。そして、資源が豊富な地球をターゲットに据えた侵略が、ここ、日本でも行われていた……!
「ふむ。どうして失敗が続いているのだ?」
「ハッ。幹部さま。我々は日本をターゲットにしているのですが、特殊な連中でして……」
「特殊な軍隊といっても、たかが人間だろう?」
「軍隊であれば戦いようがあるのですが……」
俺は悪の組織クライマックス帝国の幹部。
ここは宇宙クライマックスステーション。
直属の部下からの戦況報告を受けていた。
クライマックスという名前には嫌気が差している俺だが、帝国内外では残虐で冷酷無比の容赦なき幹部として有名な男である。けれども部下には優しく、面倒見もよいと評判のナイスガイなのだ。そんな俺は、他国とは明らかに戦況の芳しくない日本担当の部下と、地球への回線を開いて連絡を受けていた。
「わからないな。データによれば、日本の陸軍能力はそこまでではないはずだ」
「ハイ。我々の怪人も、陸軍相手には戦果を上げています」
「そうだろう。そのはずなのだ。他国では成功している作戦が、こと日本においてだけ失敗するなんて異常事態だ。何かアクシデントでもあったのか? 食料は現地調達となっているが、補給が不足しているのならば考えてやらんことも無いぞ」
「ありがとうございます。しかし幹部さま。そのようなアクシデントではございません」
「では何が原因なのだ」
「仮面ランナーという改造人間がいるのです」
「仮面ランナー? なんだそれは」
「はい。改造人間とは、我々の技術と類似した人体強化でございます。また、仮面ランナーとは、その人体強化された改造人間たちが好んで使う、フォームチェンジのことでございます」
「なるほど。しかしどうして日本だけに」
「はい。どうも、日本におかれましては、我々の移住の前に、何らかの改造をめぐった争いがあったようなのです。その時に作られた改造人間たちが改造の恨みなどから報復し、日本を牛耳ろうとした組織を壊滅させたことから市民権を得たようです」
「そういうことか。では、その仮面ランナーたちを無力化すれば侵略が進むということだな」
「はい。しかし我々の怪人どもでは歯が立たず。申し訳ありません。何度も追い込むのですが、奇跡的に復活を遂げたり強くなって報復されたり、とにかく最終的にはこちらが破壊されてしまうのです。また、最近では、何の改造もされていない一般の日本人まで仮面ランナーになるようになりまして……。正直、手が付けれないという状況なのです。本当に申し訳ありませんが、なんらかの手助けをいただけないでしょうか」
部下が頭を下げている。日本支部の怪人ども全てを統括する頼もしき少佐が、である。ヤツは自身の圧倒的パワーを根拠に、プライドの高い男だった。最新鋭のミサイル攻撃をも寄せ付けない防御力はこの男の自慢であったはずだ。しかし、頭を下げている。これは異常事態だ。
補給を送ろうか。いいや、ヤツの様子を見るに、ちょっとした武器や怪人ではどうにも対処できないようだ。歯が立たない、と言ったな。それほどまでに力の差があるということか……。
「わかった。俺が行こう」
「幹部さまが!? ありがたいですが、しかし……」
「ここはすぐにでも対処するべきだ。強い火力は、それよりも強い火力で制するのだ」
「ハッ。それでは、お待ちしております!」
通信終了。
やっかいなことになったな。
しかし俺は、気持ちが高揚していくのを感じていた。久々の戦闘だ。血が沸き、肉が踊る……ッ!
俺は地球へと旅立った。
そして。
一人の仮面ランナーを葬ることに成功した。
黒いヤツだった。クロと名乗るランナーのパワーはすさまじく、一発のパンチで他の怪人たちが爆散し、一発のキックで他の怪人たちが大爆発していた。確かに、これでは歯が立たないだろう。そう思った俺は、真っ先にヤツに勝負を挑んだ。すぐさまクライマックス帝国だと決め付けられたのは釈然としないが、けれども俺の攻撃はヤツに通った。俺の十八番である一撃必殺の銀河パンチ。簡単に、仮面ランナーは宇宙へと放り出されたというわけだ。ふん、憎しみによって作られた存在など、恐るるに足らん。部下たちは狂喜乱舞した。俺は、仕事はしたからな、と地球を後にした。
しばらくすると。
部下から無線が入った。
制圧完了の知らせと思い、にこやかに通信を開始したのが間違いだった。部下はやつれていた。
「幹部さま……」
「どうした、情けない顔をして」
「大変、申し訳ありません」
「なんだ。なにがあったんだ。日本は制圧したのか?」
「いいえ。それが全く」
「お前らは何をしているんだッ! 仮面ランナーは倒しただろうッ! それともなんだ? 別の仮面ランナーも倒してくださいとでも言うのか? あぁ!?」
「ヒィッ!」
「くそっ……。すまない。理由を聞こうじゃないか」
「は、はい! あのですね。非常に申し上げにくいのですが……」
「どうした」
「幹部さまが倒されたと思われる仮面ランナーが、強くなって帰ってきました」
「あぁ!? バカ言うんじゃねぇ。宇宙だぞ? 太陽だぞ? 呼吸や温度を考えれば、そんなわけあるはずがなかろう。たとえ寒さに強くても、あの恒星の熱量に焼かれて死ぬか、大気圏突入時に焼かれて死ぬだろう。見間違いだ、見間違い」
「いいえ。その、まさかでして。太陽の光を浴びて不思議なことが起こったようなのです」
「はぁ!? お前、そんなのどうしろってんだよ!? お前の考えた最強キャラクターなんて妄想はどうだっていいんだよッ! 事実を報告しろ、事実を!」
「ですから、事実なんです」
「……栄養ドリンクでも補給しようか?」
「いいえ。疲れてはいますが、幻覚ではありません」
「クスリに手を出すなとあれほど」
「クスリでもありません。とにかく、至急、援護をお願いします!」
この焦りよう……。どうも、本当らしい。いや、普通に考えて、宇宙に放り出されたらイキモノは死ぬだろう。強くなって戻ってくるとか、パワーのインフレにもほどがある。どれほど力強くなっているのかは知らないが……。そうだな、力試しに、このプライドの高い部下よりも強い、あの犯罪者でも送ってみるか。ビーム攻撃を主体とした、こちら側のチートを……。
俺は上に相談することを決断し、部下をなだめた。
「安心しろ。用事があって、俺がそちらに行くことはできないが、代わりに対策を練ってやる。お前は、支部が発見されぬよう、また、破壊されぬように勤めるのだ」
「ハッ。かしこまりました」
通信終了。
そして俺は新たな回線を開いた。犯罪者を地球へ輸送するというプランの許可を得るためである。審議の末、許可が下りた。さっそく、俺はチートとも思えるほどの力を持つ犯罪者強力怪人を送った。部下は歓喜した。俺は部下の凄まじい喜びように少し引いてしまったが、だからこそ、勝利を確信していた。なんといっても、俺でも手を焼くレベルの怪人なのだから……。
後日。
通信が入った。
土下座した部下が画面に映った瞬間、悟ってしまった。
「……で?」
「はい。それが、その……」
「今度はどんな言い訳だ?」
「ビーム攻撃と物理攻撃が無効化されました」
「どうしろってんだよッ!?」
ハハハ……。
敵がチートすぎて困る……。
俺も部下と一緒に泣いた。