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何度「シミュレーション」を繰り返してきただろう――
ぼんやりと部屋の窓から、空を見上げていた。
濃いオレンジが、ゆっくりと紺色に浸食されていく...。
地平線なんてものはこの狭い町で見る事は出来ないけれど、建物すれすれにゆっくりと一番星の光が淡く輝き始める。
腰高の窓を開け放って私は空を見上げていた。
陽の消え去ったこの場所の気温は、どんどん冷たくなっていく。
頬に触れる風が、その冷たさを違う意味でも私に感じさせる。
座り込んでいるベッドに敷いてあるベッドカバーも、冷たい。
部屋の中も、きっと廊下の方が温かさを感じられるはず。
冷たい。
冷たい。
冷たい...
まるで――、私を引き留めるかのように、体を動かなくする。
思わず口元が歪んだ。
自嘲気味に、溜息を細くつく。
何度シミュレーションしても、同じ結果にたどり着いてしまう。
もし私が、想いを告げたなら。
あの人に、今までずっと温めてきた気持ちを隠さずに伝えたなら。
私を、見てくれる?
私の、存在を変えてくれる?
答えは、否、だ。
何度も何度も想像した。
想いを告げて、答えを待つ。
――けれど。
想いを告げた後に待っているのは、強張った表情。
そして――
”――ごめん”
口にして、目を細めた。
笑もうとして、失敗する。
「ごめん、だよ...ね」
冷たい、冷たい……きっと君から返ってくるだろう答え。
私の想いを、黒いものに変えてしまうたった一言の言葉。
それ以外の結果を、思いつけない。
目を瞑って、肺の中から息を追い出す。
すぐに入り込んでくる冷たい酸素に、つきりと心が痛んだ。
ベッドサイドに置いてあるパソコンデスクの上で、携帯が突然静かな音楽を奏でだす。
その音に、どくりと鼓動が跳ねた。
「……和弘」
その音は、和弘専用なのだから。
和弘と出会ったのは、大学二年の春。
講義が偶々いくつか重なって。
いつの間にか顔見知りから、友人になってた。
それは人見知りしない和弘の性格の所為なのか、さばさばしていると評される私の性格の所以か。
夏にはお互い講義のない日に大学の抜けだして、映画好きの和弘のおすすめを見に行ったり、食べ歩き好きの私のおすすめを食べに行ったり...。
友人の枠を出なかったけれど、それでもそれだけ近づけば気持ちも近づいていくのは必然だった。
その気持ちに気が付いた時、私は「もしかしたら」を期待した。
偶然友人になり気の合う仲間となった私達が、そのまま一緒にいれば気持ちが芽生えるのは必然かもしれないと。
それは――
「初めまして、妹の佳奈です」
――たった一瞬で、崩れ去ったけれど
『颯?』
機械から流れる声は、好きだと告げた相手だ。
もちろん「シミュレーション」の中だけだけど。
呼ばれた名前に一瞬躊躇しながら、いつも通りの声を出す。
「崎谷、どうしたの?」
少し前まで呼んでいた名前を、名字へと変えた。
その変化を、和弘は面白くなさそうなそれでも嬉しそうな複雑な声で受け入れる。
『なんか、颯に名字で呼ばれると変な感じがするな』
いちいちいいよ、そんな事言わなくても。
そうやって...
「佳奈がいい気持ちしないでしょ」
『なんか照れるような、面倒なような』
佳奈との仲を、私に見せつけないで。
「私の妹なんだから、大事にしなかったら煩いわよ。母も姉も父親も」
『勘弁してくれよ、お前くらいは俺の味方にならんのか』
くすりと笑って目を瞑る。
「い・や」