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ペンタゴン  作者: カヤ
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雪山草に馳せた想い 後編

「さて、これからどうしようか」

コリィが話を切り出す。コリィとネルフィの件があったが現実問題、何も解決されていないのだ。

こうしてじっとしているだけでも体温はじわじわと奪われ続けている。

「僕が歩けないからどうしても救助を待つしか方法はないんだけどね」

「いや、遭難したときはヘタに動かないで救助を待つ方が得策だって言うわよ」

防寒具は傷ついていないし、暫くは大丈夫であろう。

「それに他の三人が私達を放っておくはずがないわ」

「そうだね」

仲間のピンチになるとすぐに駆けつけてくれる頼もしい仲間がネルフィとコリィにはいた。ネルフィ達のチームは特に仲間を大事にする。仲間意識の強い者が揃っているのだ。

「私は動けるから辺りを探ってくるわ。そんなに遠くには行かないから」

ネルフィは体にこびり付いた雪を払いながら立ち上がろうとした。


ずるっ


滑った。前のめりに、詳しく言えばコリィの方へ向かって。

「きゃっ!」

いけない。コリィは怪我をしてるんだ。これ以上怪我を増やしたりしたらいよいよ申し訳が立たないどころですまない。

ネルフィは咄嗟に両手を突き出した。そのおかげか、コリィにはぶつからなかった。いや、反動で頭が体にぶつかったがこれはノーカウントでいいだろう。

「いたたた…」

肘かどこかを打ったのだろうか。もともと腰を下ろす態勢だったため、そんなに強く打ってはないようだが。

「大丈夫?……ネルフィ?」

ネルフィは頭をコリィにぶつけたまま固まっていた。身じろぎ一つしていない。

「…」

ネルフィの顔は真っ赤だ。もうこれでもかというくらいに赤で染まっている。

コリィの身体がすぐそこにある。さっきはコリィは気絶していたわけだし不可抗力だしそれをいったらこれもなんだけどとにかく身体が動かない。頭では早く動けって解っているのに身体が自分との思いとは違う行動をしている。早く離れなきゃ、離れたなくない、すぐ退かないと、ずっとこうしていたい、邪魔だろうし、構うもんか、コリィ怪我してるし、知ったことか。様々な思いが交錯し、駆け巡る。今ネルフィはどのくらい矛盾しているだろう。

「ネルフィ、本当に大丈夫なの?」

コリィに呼びかけられ、顔を上げる。すぐ後、しまったと思った。ネルフィの顔は今真っ赤だ。コリィに何を言われるかわかったものでない。

「ネルフィ顔真っ赤だよ、熱でもあるんじゃないの!?」

そうじゃなくて。確かに熱は多少あるだろうけど今はそうじゃなくて。

「そうじゃなくて…」

「そうじゃなくて?」

コリィは不思議がっているようだ。顔を真っ赤にしながらしどろもどろしていたら誰でも不思議がるだろう。

「えっと、その…」

「うわーネルフィがコリィを押し倒してるー」

突然後ろから声が聞こえた。ネルフィはビクッとして振り向いた。

そこには顔をニヤニヤしているティーナと呆れた様子のサクヤと両手で顔を隠しながらもチラチラと覗いているメルスがいた。

「ネルフィ、私達がいないからって欲情するんじゃない」

「あのあのお邪魔でしたよね!私見てませんから!何も見ていませんし、聞いてもいませんから続きをどうぞ!」

「続きなんてしないわよ!!」

ネルフィは立ち上がって抗議した。髪の毛を逆立てながら懸命に弁明した。

「転んでちょっと倒れただけよ!大体コリィなんてタイプじゃないのよ!へろへろでふにゃっとしてなよなよしてへこへこしてそんな弱々しいのは全っ然タイプじゃないのよ私!私は私を護ってくれる強くて優しい人がいいのよ白馬に乗った王子様みたいなね!」

ネルフィが聞いてもいないことをベラベラと語り出した。そのことにネルフィも気付いたのか顔をさらに真っ赤にして俯いてしまった。

「皆ネルフィを虐めないでよ。それと皆、どうやってここに来たの?」

「あ、それは私がやりました~」

メルスがゆっくり挙手した。

「この土地の氷の精霊達の力を借りたんです。精霊達の力を行使してクレバスの底まで氷の階段を作ったんですよ。氷の精霊はおとなしい性格なので簡単に力を借りれました~氷の階段、とっても綺麗ですよ」

へーっと頷くコリィ。皆に押し倒されていたと言われた事に全く気付いてない。

「それより早く帰ろうよ。もう寒いよ…」

「そうだな。もう雪山草は手に入れたからな」

クレバスに落ちなかった三人は二人を助け出す手立てを模索している最中に雪山草を見つけ出していた。雪山草は草とは言うが、実際は白い花弁の花である。雪でできていると見紛う程に花弁が白い雪山草はこの世のものとは思えないほど美しかった。

「あ、僕ちょっと右足怪我しちゃったから誰か肩を貸してくれないかな」

「ん、そうか。なら私の肩を使え」

「ありがと」

サクヤがコリィの肩に手を回す。サクヤは自分と同じくらいの大太刀を軽々と振り回すほどの怪力…もとい力持ちだ。

「ほらネルフィ、帰るよ。ネルフィも寒いでしょ」

「わ、わかってるわよ。引っ張らないでよ」

ティーナがネルフィの腕を引っ張る。

「ネルフィは歩ける?」

「…歩けるわ」

ティーナに手を引かれながらネルフィは立ち上がった。

一行はクレバスの底を歩いた。そして少しずつきらきらと輝く階段が見えてきた。

「うわっ…本当にきれいだね…」

「ありがとうございます」

コリィは感嘆した。階段は壁に沿って掛けられていた。それは天へと続く階段のように思えた。一行は階段を登り始めた。コリィに肩を貸したサクヤを先頭にゆっくりと登りだした。

「あっ…」

ネルフィが驚いたような声をだした。その視線の先には雪山草があった。

「こんな所に咲いてるなんて…」

「なかなか逞しい雪山草だな」

そそり立った岩壁に一輪咲く雪山草。それは孤独であり、美しかった。ネルフィはこの雪山草に特別な何かを感じた。それは電撃のようにネルフィの身体を駆け巡った。雪山草を根元から引き抜いた。

「おい、ネルフィ、雪山草は一輪だけでいいんだぞ」

「判ってる。これは、私用」

雪山草といっても寒冷地でしか育たないということはない。きちんと育成すればきっちり育つ。ネルフィは雪山草をじっと見つめた後、再び階段を登り始めた。


「まあまあ、本当に採ってきてくれたのねえ」

私の前にはベッドで横になっているお婆さんがいる。この人が今回の依頼主だ。

「これも依頼の一つですから」

「こんな老いぼれのためにねぇ。優しいねえネルフィちゃんは」

「い、いえ、そんなことは」

私は頬を赤く染めて俯いた。誰かからお礼を言われるのはむず痒くて仕方ない。だけど決して悪い気分ではない。

「この雪山草にはねぇ、ちょっと思い入れがあってね。どうしても最後に一目見ておきたかったんだよ。ちょっと長くなるかも知れないけど、いいかい?」

私はコクリと頷いた。

「私の旦那がね、プロポーズをしてきた時に渡してくれたのがこの花なんだよ」

お婆さんは懐かしむように目を細めた。その時の表情は暖かく、優しいものであった。

「その時初めて雪山草ってのを見たんだよ。名前くらいは知ってたけどね。こんなに綺麗なものとは思わなかったよ」

お婆さんに渡した雪山草は私が植木鉢に植えた。雪山にいたときは感じなかったが、触るとほんのり冷たい。本当に雪で出来ているかのようだ。

「あの時の感動は忘れたくても忘れられないねぇ。綺麗すぎて、渡してもらって嬉しいすぎて。思わず泣いちゃったわ。あの人の狼狽えっぷりはその後笑っちゃったけどねぇ」

お婆さんはふふと微笑んだ。思わず私も顔を緩めてしまう。私も少なからずあの花を見て、感動した。正確には岩壁に咲き誇っていた雪山草だが。

「ねぇ、ネルフィちゃん。雪山草の花言葉って知ってる?」

花言葉。種々の花にその特質によって象徴的な意味を含ませたことば。

草か花かどちかですら間違う人がいるのにその花言葉を知っている人は数少ないだろう。勿論、調べればすぐに判ることだろうが。私はいいえ、と首を横に振った。

「雪山草の花言葉は《想い》。大事な人へ想いを伝えるという意味よ。」

「想い…」

私は手に持った自分用に植えた雪山草を見た。想い。大事な人への。

「なんていうか…ロマンチックですね」

「でしょう?あの人、見かけによらず、結構なロマンチストだったのよ」

またも笑った。今度は懐古ではなく単純な笑いであった。つられて私も笑ってしまう。

「ところでネルフィちゃん」

「はい?」

「あなたも雪山草を持ってるけど、誰かいるの?」

途端に私は顔が真っ赤になるのが解った。

「い、い、いえ!これはそ、その、綺麗だなーって思ったから摘んできただけでそもそも雪山草の花言葉なんて今知ったばかりなんですから想いなんて伝えたい人なんてだ、だだだだだ誰もいません!」

「あら、私はそこまでは聞いてないわ」

私はこれ以上にないくらいに真っ赤になった。誰かに見られるのが恥ずかしくて思わず植木鉢で顔を隠した。

「うう…ひどいです…」

私ってこんなキャラだっけ?キャラ崩壊も甚だしい中でお婆さんはふふふと笑っていた。

「ごめんなさいね。ネルフィちゃんが可愛くてつい、ね」

「もう…」

植木鉢の横からじっとお婆さんを恨めしい視線を送る。だがお婆さんには効いていないようだ。これが年の功というやつか。

「でも」

お婆さんは目をつむって一呼吸置き、再び語り出した。

「無理に想いを伝える必要はないわ。それは自分の中で確固たるものとなって受け入れることが出来てから。無理に発散しようとすれば壊れてしまうわ。誰かへの想いは強靭であると同時に壊れやすいのよ。さながら氷のようにね。少しずつ、少しずつ。その想いを溶かしていけばいいわ」

お婆さんの言葉は重みがあった。含蓄あるその言葉は私の心に一つ一つ刻印されていった。

「…ありがとうございます」

「いいえ、老いぼれの残り僅かな戯れと思ってくれていいわ」

お婆さんは私の頭を撫でてくれた。その手は温かくて、春のようで、全てを包み込んでくれそうだった。

呼び鈴がなった。お婆さんは私の頭から手を離した。そのことを少しだけ寂しくおもった。

「はい、開いてますよ。お入りください」

ドアがゆっくり開き、小柄な少女の姿が見えた。

「お邪魔します。あ、ネルフィ。皆が一緒に食事しようだって。まだ昼食食べてないから早く食べようよ」

「それはいいけど、ティーナ、コリィは?」

「コリィは無理だよ。サクヤに病院に連れてかれたから。でもコリィが僕のことはいいからご飯食べてきてだって。相変わらず他人のことばっかり気にするよねあの子は」

「そうね…」

私は呟いてお婆さんの方へ向いた。お婆さんは微笑んでいた。

「行っておいで。私のことは気にしないでいいから。まともなお礼ができなくてごめんなさいね」

「いえ、大丈夫です。色々ありがとうございました」

私は頭を下げてお礼を言い、部屋を出ようとした。

「ネルフィちゃん」

私は立ち止まって振り返った。

「頑張ってね。コリィ君にもよろしくね」

お婆さんは微笑みながら手を振ってきた。お婆さんはなにかと微笑む事が多い。あのぐらいの年になると自然とそうなるのだろうか。私も手を振り返し、部屋を後にした。

「コリィによろしく、か」

絶対に気付いてるなあれは。まったく老人っていうのは…

「ん、何か言った?」

「い、いや何も言ってないわ」

そう、とティーナは再び前を向いて歩き出した。

私は手に持った雪山草を眺めた。

《想い》

雪山草に秘められた数多の想い。幾星霜の時人々はこの花に想いを乗せたのだろうか。それは今も変わらず大切な誰かに想いを馳せ、この花を捧げている。

(私の想い、か)

今のこの気持ちが本当のものか判らない。今の自分には確かめる術がない。だから、この気持ちは今は保留しておく。自分の中でこの想いが本物になれば、その時に打ち明ける。

(それに…)

私は前を歩くティーナをちらっと見た。

今はこの仲間達がなにより大事だ。笑いあって、一緒にご飯も食べて、一緒に冒険もして、時には怒ったり、たまには泣いたりもするけど。この仲間達といる時間がとても貴重だ。この関係を壊したくない。今のままでいたい。少なくとも、今は。

私はティーナの横に並んだ。ティーナはこっちを向いて笑った。私も笑った。どちらともしれず笑い出した。

(行こう、皆の元へ!)

強く踏みしめた一歩がいつまでも、どこまでも伸びていく。いつまでも歩いていたい、この時を。永遠になったらいいのにといつも思う。だけどそうはいかない。だからみんなみんな、一瞬のために生きている。時間は止まらないのだから。ずっと進んでいくのだから。一瞬を謳歌するために私達は生きている。私達は一瞬一瞬を大事にしていく。かけがえのない仲間達とともに進んでいく。どこまでも、どこまでもーー

後編です。ネルフィが自分の気持ちを理解し始めました。これからどうなるんでしょうね。全く判りませんね。

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