第十一話 決断(中編)
チュンチュン、チュンチュン
「ん~、もう朝か・・・」
昨日と違い今日は寝坊はせず、普段どうりの起床ができた。
「ふあぁ~~、洗面所行くか。」
と寝ぼけ眼でベッドから出て、洗面所にトボトボ歩いていった。
ジャーーー、←水を出す音
バシャ、バシャ、バシャ、←顔を洗う音
フキフキ、←顔を拭く音
カラン、ニュル、←歯ブラシを取り歯磨き粉をつけた音
ゴシゴシ、ゴシゴシ、←歯を磨く音
ガラガラ~、ペッ!←口をゆすぐ音
キュッ、キュッ、←水を止める音
(朝飯どうするかな~、・・・面倒だから昨日の残り物で良いや。)
と思いながら洗面所を出て、DKに朝食の準備をしに行った。
■□■□■
(いやー、良い天気だな)
学校に行く道を、のんきに歩いていく。
向かう先はまず紫苑の家、その次は秀司の家だ。
二人の家は都合よく俺が学校に行く道の途中にあり、紫苑の家は徒歩3分、秀司の家は徒歩8分だ。
ちなみに学校には徒歩15分で着く一番近い学校にした。
(っともう着いたか。やっぱいつ見てもでけぇ家だな)
紫苑の家は合気道の名家なので昔風の大きな家に住んでいる。
そして家の隣には道場もあり、ここら辺では1,2を争うほど大きな土地だ。
とりあえず俺は門をくぐり、玄関のチャイムを押す。
ピーンポーン
『どちら様ですか?』
と、チャイムのしたの声が出るアレから使用人の声が
「錬ですけど、紫苑は?」
『ああ、錬君ですね。少々お待ちください。』
軽く俺失礼だけど、どっちも慣れてるから特に問題は無い。
ガラッ
「いってきまーす!」
紫苑が玄関から紫苑が出てきた。
「おはよー。」
「おはよっす。」
「ハハ、今日は寝坊しなかったんだね。」
「そう何度も寝坊なんかするかよ。」
「それもそっか。」
「じゃあ、学校に行くついでに秀司の家に行くか。」
■□■□■
しばらく歩くと秀司の家に着いた。
秀司の家は・・・まあ普通だ。
(紫苑の家を見た後だからそう思うんだろうけどな)
俺はチャイムを押す。
チャッチャラー
(相変わらず面白いチャイム音だな・・・)
そう思っていると家の中から
「ちょっと待っててくれぇー!」
と言う声がした。大方髪型や服装のチェックでもしているのだろう。
このときの秀司は長いので先に行くのが俺と紫苑の方針だったりする。
「先に行くか。」
「そうだねー。」
■□■□■
俺と紫苑は秀司を置いていって、今通学路を通っている。
「それにしても何であいつはあんなに身なりをきにするのかね~。」
「う~ん・・・今時の男の子も皆こうなんじゃないかな?」
「俺にはわからん。」
「錬は気にしなさ過ぎなんじゃないの?」
「失敬なっ。しっかり歯磨きや洗顔はやっているぞ。」
「そんなの常識だよ・・・」
と紫苑は苦笑いをした。
(今時の野郎共は皆そんなもんなのかな?)
と考えにふけっていると
「おーい!」
秀司の声がした。
「な、なんで置いて行くんだよぉっ。」
肩で息をしながら聞いてきた。
「「お前(秀司)が遅いから悪い(悪いんだよ)。」」
俺と紫苑でハモッて返答した。
「そ、そうだけど少しくらい待ってたって良いじゃん・・・」
「「待っている時間が無駄だ(勿体無い)から」」
またもや俺と紫苑でハモッて返答した。
「そ、そこまで言うか?」
「「だって事実だから。」」
そんな他愛もないことを話しつつ学校に登校した。
■□■□■
三人とも同じクラスなので教室へそのまま直行し、ホームルームが始まるまで話していた。
するとチャイムがなって担任が入ってきてホームルームが始まり、その次に退屈な授業もも始まった。
俺は基本的に授業は、寝てるか後ろの席の秀司と話してりして終わる。
紫苑は意外と真面目なのでしっかりと授業を受けている。
そして今日もその流れは変わらない。
そのまま午前中の授業が終わり昼休みに。
昼休みになると半分の生徒が購買や食堂に行くので割りと教室は空く。
そして俺たちはいつもどうり、
俺と秀司の近くの席に紫苑が座り食事を摂る。
紫苑は来て早々
「二人とも今日も真面目に授業受けてなかったでしょー!」
と怒られてしまった。
「だってめんどいしぃ。」
「眠くなる。」
「そんなんだとテストで赤点とって夏休み補習になるよっ。」
そんなことでビビることがない俺たち。
「勉強は出来るから大丈夫♪」
「お前たちにテスト前に教えてもらうから問題ない。」
なんたって紫苑は優等生だし、秀司は勉強出来るからテスト前に教えてもらえば何とかなるのだ。
そんなことを言う俺たちを見て紫苑は肩をすくめてため息をついて
「もう、いっか。」
と言い弁当を食べ始めた。俺と秀司も自分の分の弁当を食べ始めた。
いつも通り弁当を食べながら話す。
(そういえば・・・)
「そういやお前ら昨日の試験どうだった?」
聞いてはいけなかったのか、二人は急にうつむきだした。
「ふ、二人とも落ちたのか?」
すると秀司は首を横に振った。
「おれっちは受かったけど紫苑ちゃんが・・・」
「そ、そうか・・・」
三人の中に沈黙が訪れる。こんな時に気の利いた言葉が言えない自分が情けない。
(えーっと!、えーっと!)
「そ、そういえばなんで二人は特活部に入ろうと思ったんだ?」
なんとか場の空気を変えたい俺。
「おれっちは自分の力試しになるし、紫苑ちゃんも入るって言うから・・・」
「し、紫苑は?・・・」
「私は、自分の力が少しでも人の役に立つなら良いなって思って入ろうと思ったの・・・。せっかく人の役に立てる力があるなら、それで誰かを支えたりしたかった・・・。」
その時俺は紫苑の人を思いやる気持ちの強さに驚いたが、それよりも怒りの方が強かった。
こんな人の為を思っている奴を落とした特活部と、何も出来ない自分への怒り。
「錬はどうするの?」
「何が?」
「特活部に勧誘されてたよね。入るの?」
入らない。っと素直に言えなかった。落ちた奴の目の前でそんなことを言いたくなかった。
言い換えれば、行きたかった高校に落ちた人の前でその高校からの勧誘を断るようなものだ。
そんなことを俺は出来なかった。だから
「まだ考え中。」
としか言えなかった。すると紫苑は
「無理しなくて良いよ。」
「!?」
俺の気遣いなんて紫苑にはばれていた。紫苑をさらにつらくさせてしまった。
「無理なんてしてねーよ。」
としか言い返せなかった。紫苑はそれを聞くと少し苦笑いをした。
本当に自分は情けないと思った。