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千の月のもとで

ストーム村の草原を、風が唸り声を出しながら吹き抜けていた。


エリリアの空には、千もの月が夜を照らしていた。


美しい光景だった。


そして、危険な光景でもあった。


エリリアに住む者なら、誰もが同じ真実を知っていた。


もし月が砕け散れば、都市全体が破壊される可能性がある。


アブラオンがその教訓を知ったのは、わずか五歳のときだった。


今でも、あの悲鳴を覚えている。


宇宙嵐が吹き荒れ、空が震えていた。小さな月の一つが砕け散り、月の岩石の破片が大地へと降り注いだ。


父は母を強く抱きしめ、最後に一度だけ振り返った。


「逃げろ、アブラオン!」


そして、空が落ちてきた。


その記憶が消えることはなかった。


年月が過ぎた。


村は再建された。


人々は再び日常を取り戻した。


しかし、アブラオンだけは、あの日から本当の意味で立ち直ることができなかった。


十七歳になった今、彼は淡く輝く月根の生える草原に立ち、それらを慎重に地面から引き抜いていた。


月根は青白い光を放ち、その輝きが彼の手の中で揺らめいていた。


「傷つけてはいけないよ」


祖母はいつもそう言っていた。


「傷ついた根は魔獣を引き寄せるからね」


アブラオンは、背負った籠にもう一本の月根を入れた。


額から汗が流れ落ちる。


彼の戦闘力は65。


平均以上。


だが、不十分だった。


決して、十分ではない。


普通の村人なら、それだけでも誇りに思っただろう。


しかし、アブラオンは違った。


彼は額の汗を拭い、遠くの山々を見つめた。


強力な戦士なら、一撃で岩を砕くことができる。


伝説に登場する英雄の中には、月そのものにさえ干渉できる者がいるという。


では、自分はどうだ?


レベル65。


何年も鍛錬を続けてきたというのに。


その事実が、彼の心を苛立たせた。


ようやく籠がいっぱいになると、彼は帰路についた。


木々の向こうに、小さな小屋が見えてきた。


煙突からは、細い煙が立ち上っている。


帰る場所。


だが、小屋に入る前に、アブラオンは進む方向を変えた。


小屋の裏手へと回る。


そこには、小さな空き地があった。


長年の鍛錬によって、その場所の草は踏み固められていた。


彼の修練場だ。


古い木にもたれかかるように、父の剣が置かれていた。


アブラオンはそれを手に取った。


刀身は錆に覆われていた。


古びている。


使い込まれている。


どこにでもある、普通の剣だった。


それでも、彼は毎日この剣を手にしていた。


深く息を吸う。


そして、剣を振るった。


一度。


二度。


十度。


二十度。


鈍い風切り音とともに、刃が空気を切り裂く。


腕が焼けるように痛んだ。


顎から汗が滴り落ちる。


それでも、彼は続けた。


もう一度。


何度でも。


何度でも。


彼は物語に登場する英雄たちを思い描いた。


伝説の剣士、サトル。


国家全体を守り抜いた戦士たち。


彼らもまた、かつては弱かったはずだ。


少なくとも......。


アブラオンは、そう信じたかった。


最後の一撃を放つ。


剣は振り下ろされる途中で止まった。


筋肉が震えている。


錆びた剣は、いつも以上に重く感じられた。


「......まだ足りない」


ため息をつき、武器を下ろすと、彼は小屋へと戻った。


懐かしいスープの香りが、彼を迎えた。


祖母のエララは窓辺に座り、震える手で漁網を編んでいた。


「遅かったね」


彼女が言った。


「月根があまり生えていなかったんだ。だから、森の奥まで行かなきゃならなかった」


エララは顔を上げた。


「無事なら、それでいいんだよ」


彼女の顔に、小さな笑みが浮かんだ。


「ただ、あまり心配させないでおくれ」


「分かったよ」


彼女は頷き、再び網を編み始めた。


アブラオンは籠をテーブルに置いた。


しばらくの間、小屋は静かだった。


温かく。


心地よく。


そのとき――


ドカンッ!


突然、扉が勢いよく開いた。


「アブラオン!」


一人の少年が飛び込んできた。


エリアス。


十二歳。


ぼさぼさの髪。


輝く瞳。


有り余るほどの活力。


少年は自分の足につまずきそうになりながら、駆け寄ってきた。


「信じられないものを見たんだ!」


アブラオンは片眉を上げた。


「今度は何だ?」


「月兎を見たんだ!」


「ああ、またか」


「本当だって!」


「また追いかけたんだろ?」


「......たぶん」


「エリアス」


「分かったよ、追いかけた!」


エララはため息をついた。


アブラオンは思わず笑みを浮かべた。


こんなことは、ほとんど毎週のように起きていた。


ある日は月兎。


次の日は光り輝く狐。


その次は、見たこともない奇妙な鳥。


エリアスは、なぜかどこへ行っても騒動を巻き起こすのだった。


「今回はもう少しで捕まえられたんだ!」エリアスは誇らしげに言った。


「毎回そう言ってるだろ」


「次こそ絶対に捕まえるから!」


アブラオンは笑った。


その瞬間だけは、すべてがいつもどおりに思えた。


安全で。


平穏で。


まるで、この世界が彼らに手を出すことなどできないかのように。


*


その夜、三人は一緒に夕食をとった。


スープは質素なものだった。


月根。


野菜。


少しの魚。


特別な料理ではない。


それでも、十分だった。


食事を終えると、エリアスは外へ駆け出し、エララはゆっくりと食器を洗い始めた。


アブラオンも手伝おうと立ち上がった。


だが、作業を始める前に、エララが口を開いた。


「お前は、ますます父さんに似てきたね」


アブラオンは動きを止めた。


思いがけない言葉だった。


「本当に?」


彼女は頷いた。


「特に、何かを心配しているときなんかはね」


沈黙が流れた。


アブラオンは視線を落とした。


彼は両親について、ほとんど話さなかった。


忘れてしまったからではない。


あまりにも鮮明に覚えているからだ。


止めようとしても、記憶が次々と蘇ってくる。


暖かな夏の午後。


父は、小屋の裏にある同じ空き地に立っていた。


あの頃、古い剣は今よりもずっと新しかった。


幼いアブラオンには、まともに持ち上げることさえできなかった。


剣を振るうたびにバランスを崩した。


一歩踏み出すたびに、土の上へ転んだ。


それでも、父は決して笑わなかった。


ただ、彼が立ち上がるのを手伝ってくれた。


「剣は、その重さだけで重くなるわけじゃない」


父はよくそう言っていた。


「剣を握る者が背負う責任によって、重くなるんだ」


幼いアブラオンには、その言葉の意味が分からなかった。


彼は、強さこそがすべてだと思っていた。


父はそう考えていなかった。


そして、別の記憶が浮かび上がる。


月明かりの下、小屋の外に座る母の姿。


優しい声が、夜の静けさの中に響いていた。


母は空を指さしながら、千の月について物語を聞かせてくれた。


英雄たちの物語。


勇気についての物語。


希望についての物語。


「月は、いつか災害を引き起こすだけの存在じゃないのよ」


母はかつて、そう言った。


「壊れやすいものだって輝ける。その証でもあるの」


あの頃のアブラオンは、母がいつまでもそばにいてくれると信じていた。


父も、ずっとそばにいてくれると思っていた。


しかし、嵐は二人とも奪い去ってしまった。


そして、ときどき……。


まるで昨日の出来事であるかのように、あの日の記憶が蘇るのだった。


エララは悲しげに微笑んだ。


「お前のお父さんは、いつもみんなの悩みを一人で背負っていたよ」


アブラオンは床を見つめた。


「それで、父さんは何を得たの?」


エララは彼の肩に手を置いた。


「お父さんなら、今のお前を誇りに思うだろうね」


アブラオンは何も答えなかった。


その言葉を信じていいのか、自分でも分からなかったからだ。


*


その夜遅く、兄弟は小屋の外に座っていた。


エリリアの空は、果てしなく広がっていた。


ほかの多くの世界とは違い、エリリアに月は一つしかないわけではなかった。


千もの月が存在していた。


銀色の小さな点にしか見えないものもあれば、山よりも大きなものもある。


青い月。


赤い月。


黄金の月。


白い月。


それらは天を彩る、美しい光だった。


しかし、その一つ一つが危険を秘めていた。


子供たちは月に憧れながら育つ。


大人たちは月を恐れながら生きる。


無数の月が空を埋め尽くしていた。


エリアスは上空を指さした。


「本当に英雄っていると思う?」


アブラオンは、エリアスの視線を追った。


「分からない」


「じゃあ、サトルは?」


伝説の剣士。


無限そのものを斬り裂いた男。


アブラオンは、傍らに置かれた父の古い剣を見つめた。


刀身は錆に覆われている。


古びている。


ありふれた剣だ。


特別なものなど何もない。


まるで、自分自身のようだった。


「......いるかもしれないな」


エリアスは笑った。


「いつか兄ちゃんは、そいつより強くなるよ」


アブラオンは笑い声を上げた。


「そんなの無理だよ」


「無理じゃない!」


「いや、無理だ」


「違う!」


「そうだ」


「違う!」


「そうだ」


「違う!」


「そうだ!」


「違う!」


「そうだ!」


「違う!」


そんな言い合いは、二人が笑い出すまで続いた。


やがて、エリアスのまぶたが重くなり始めた。


話す声も、次第にゆっくりになっていく。


そして数分後、彼は眠りに落ちた。


*


アブラオンは眠らずにいた。


月を見つめながら。


考えながら。


記憶をたどりながら。


彼の笑顔は、ゆっくりと消えていった。


視線が古い剣へと落ちる。


鍛錬によって硬くなった自分の手へ。


長年の修行で刻まれた傷跡へ。


レベル65。


これだけの年月を費やしてきたのに。


たったの65。


苦い感情が胸の奥に広がった。


なぜだ?


なぜ、両親は死ななければならなかった?


なぜ、月は人々の命を奪い続ける?


なぜ、自分は今もこんなに弱い?


夜は何も答えてくれなかった。


そこにあるのは、静寂だけ。


そして、遥か雲の上では――


遠く離れた月の一つが震えた。


たった一度だけ。


小さな振動。


ほとんど目には見えないほどの揺らぎ。


しかし、その様子には何か異様なものがあった。


アブラオンは、その月を見つめた。


奇妙な感覚が胸の奥に忍び込んでくる。


まるで、空そのものが息を潜めているかのようだった。


月は再び静止した。


何も起こらなかった。


爆発もない。


亀裂もない。


破片が落ちてくることもない。


それでも、不安は消えなかった。


遥か遠くで――


何かが始まっていた。


そして、アブラオンも、ストーム村の誰一人として、自分たちの人生が永遠に変わろうとしていることを知らなかった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


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