え?あれをもう一度?〜「生まれ変わっても、また私の皇后になってく・れ・る・よ・な?」〜
「シャルラン、死ぬな。頼むから、私を一人にするな」
私の痩せ細った手を握り、涙をボロボロと溢すのはこのバラン帝国で一番偉い前皇帝ムスタファだった。
病に倒れ、いよいよ今夜が峠となった今、ムスタファは誰一人この部屋に残さず私と二人だけにした。
一代ですべての国を攻め落とし、広大な領土をその圧倒的な武力と智力で治め、隠居した今もなお強大な権力を持つ誰もが恐れる男が、今は臆面もなく泣いていた。
若かりし頃は、艶々だった金の髪も今では白髪になり、顔には深い皺が刻まれたが、それでも神々が最高の技術をもって作り上げたとしか思えない美貌は損なわれていない。
様々な経験が、抜き身の剣のように鋭く苛烈だったムスタファに、男の余裕と深みを与えた。
燃えるような鋭い紅瞳だけは若い頃と変わらない、私の愛する唯一の男。
出会った頃は、こんなに好きになるなんて思いもしなかった。
「いろいろなことが、ありましたね……」
吐息に混ぜるように掠れた声を乗せた。
ムスタファが私の手に愛しげに口づけた。
私はもうすぐ死ぬだろう。
しかし、悔いはなかった。
十五歳で国が滅び、父王から売られるように人質としてムスタファの後宮に入れられた。
私は、末端妃として死に物狂いで生き抜き、気づいたらムスタファの唯一無二の皇后にまで登り詰めた。
子供も息子二人、娘一人を生み、今では孫までいる。
もう、本当に思い残すことのないやり切った人生だった。
「シャルラン……。もし生まれ変わっても、また私の皇后になってくれるか?」
ムスタファが乞うように私に尋ねた。
――え? あれをもう一度?
紅い瞳が真摯に見つめるが、私は視線を彷徨わせた。
七回も殺されかけた波瀾万丈の人生を振り返る。
火事はあと一分逃げるのが遅かったら丸焼けだったし、誘拐されて貞操の危機もあったし、毒薬は血を吐いて苦しかったし、矢で射られた肩は晩年まで寒くなると痛んだし、階段を突き飛ばされてゴロゴロ落ちて全身血まみれになったし、剣で斬られた時は亡くなったお母様がおいでおいでと手招きをしていた。
そういえば海に船から落とされ漂流なんてのもあった……。
もちろん、もし本当に生まれ変わった場合、別にこの人生ではないだろうけど、なんとなく生まれ変わってもムスタファは皇帝をやっていそうな気がする。
そうしたら、またこのコース?
「シャルラン……。もし生まれ変わっても、また私の皇后になってく・れ・る・よ・な?」
心なしか、握られた手に力がこもる。
微妙に語尾が変わってるような……?
「シャルラン?」
ムスタファのことはもちろん愛しているが、それはそれ。
あの怒涛の暗殺陰謀があるのが分かっているとやっぱり、ちょっと、う〜ん……。
ムスタファの絶対逃がさないというような、肉食獣を思わせる紅瞳が怖い。
でもなぁ……。
私は、ムスタファの問いに答えることなく、逃げるように息を引き取った――はずだった。
◆
ざばりと水をかけられて意識が浮上した。
大離宮の庭先で、私は両腕を侍従達に押さえられ、髪も顔も着ているドレスもすべてがずぶ濡れだった。
この国の皇后になって以来、こんな扱い久しくされたことがなかった。
一体何事?と目を瞬いた。
「おお、嫌だ。弱小国のみすぼらしい痩せネズミが後宮に居座るとは、なんと分不相応だこと」
艶やかな淡い金の髪を複雑に結い上げた、エメラルドの瞳のツンとした顔立ちの女性が目の前に立っている。
私は、その懐かしい顔にポカンとしてしまった。
優雅に扇子で口元を隠して嘲笑うその女性は、まさかの死んだはずの第一妃シオンだった。
え? 死後の世界で真っ先に会うのが天敵だったこの女?
バラン帝国の公爵の娘で、皇后の座に一番近いと、長年後宮で絶大な力を持って好き放題していた。
残念ながら、数年後には悪事が発覚、公爵家からも追放されて野垂れ死ぬ運命のお方である。
しかし、今はまだ生前と相変わらず、宝石をこれでもかと着けて目に優しくないド派手なドレスを着ていた。
昔とおんなじ角度で私を見下ろし、感じの悪いことこの上ない。
「第一妃様、そんな痩せネズミなど見たら、第一妃様のお美しいお目が汚れますわ」
ヨイショ、ヨイショ! と聞こえそうなおべっかを言うのは、これまた死んだはずの第五妃のラーランだ。
シオンの取り巻きの一人だった。
よく見ると、シオンの後ろには死んだはずのその他取り巻き達や記憶より若々しい妃達が揃っていた。
これは、もしや走馬灯?
思い出すなら、穏やかな日々からが良かった……。
私はうんざりとその顔ぶれを見回した。
いや、待って。
この時期だとまだ彼が生きている?
「何をしておいでですか?」
そう思った時、涼やかな風を纏うような玲瓏な低い声が響いた。
私を押さえていた第一妃の侍従達は焦ったように手を離して礼を執った。
夜の湖面のような藍色の瞳に、甘さの欠片もない引き結ばれた薄紅の唇。月の光を編んだような銀糸の髪は、後ろで高く結ばれて清廉に揺れる。
よく磨かれた水晶の如き美貌の男性が、凛とその場の空気を掌握した。
私の初恋の人、バラン帝国の若き将軍ルウドだ。
懐かしさに涙が溢れそうになった。
私を庇って剣で刺された彼が、かつての姿そのままに目の前にいた。
走馬灯、バンザイ!
走馬灯、ありがとう!
「ま、まあ、ルウド将軍。なぜ、後宮へ?」
凛々しく見目麗しい彼は、後宮の妃達にも人気だ。
妃達は途端にそわそわと顔を赤らめて、潤んだ瞳でルウドを見つめた。
シオンは気まずげに扇子であおぎながら尋ねた。
「第一妃にご挨拶申し上げます。こちらで不審な者を見かけたと報告がありましたので、巡回にまいりました。で、これはなんの騒ぎでしょう?」
礼儀正しく美しい礼を執り、しかし、その美貌を冷たく研ぎ澄ませて妃達に目をやった。
「シャルラン妃が後宮の掟を守らなかったので、後宮の主人として躾けていただけですわ」
シオンが媚を含んだ声音でルウドに答えた。
この頃は、まだ妃の上位五人に入ってなかったから名前に妃を付けられて呼ばれていたなと懐かしく思った。
皇后になってからは、人生の半分以上を皇后と呼ばれて、ムスタファしか私の名前を呼ぶことはなくなった。
「なるほど。第一妃にお尋ねいたします。いつから第一妃が後宮の主人となったのでしょう? シャルラン妃が掟を破ったのでしたら、その罰は後宮の主人である皇帝陛下が下すのが道理かと思いますが?」
一応、妃が妃を罰するのは御法度となっている。
もちろん、ドロドロの後宮で守られることはなく、上の妃達はやりたい放題だ。
私が皇后になってからは、治外法権だった後宮に第三者機関を作って、きちんと法律に則って公正に機能するようにした。
後宮がゴタゴタすると、ただでさえ忙しいムスタファが休めないからね。
「わ、私は後宮の序列一位の第一妃ですわ。皇帝陛下のお手を煩わせることのないよう、上の者が下を躾けただけのこと」
シオンが眦を吊り上げて高飛車に言い訳するも、ルウドの極寒の視線を前に、段々と眉が下がり声が小さくなった。
そうそう、シオンは弱い立場の者には強く出られるけど、自分より強い者には強く出ることのできない虚勢をがんばって張ってる子だったっけ。
正々堂々嫌がらせを盛大にやらかすシオンは、彼女の失脚後に台頭した裏で陰謀を巡らす一癖も二癖もあった妃らよりよっぽど可愛らしい。
思えば、この頃の嫌がらせは、まだ子供の児戯のようだったなぁとほっこりしてしまった。
「妃に序列はありますが、後宮の妃は等しく皇帝陛下のものでございます。それを、一後宮の妃が勝手にされることは、皇帝陛下もご不快に思われるのではと懸念いたします」
ルウドは丁寧な口調ながら、太い釘をココンとシオンとその場にいる妃達に打ちつけた。
「こ、これは、皇帝陛下を思ってのことですわ! シャルラン妃、今後は慎むようになさい。もう戻っていいわ」
シオンはおまけのように私に人差し指を突きつけると、あたふたと撤退し、妃達も逃げるように自分の宮や部屋に戻って行った。
第五妃以上になると離宮を賜るが、それ以下の妃は第五妃以上の妃に気に入られて離宮に豪華な部屋をもらって傅くか、大離宮の狭い部屋に住むかのどちらかだ。
私は、もちろん大離宮の部屋住まいだった。
「シャルラン、手を」
ルウドが地面に座り込んだままの私に手を差し出した。
ありがたくその手を借りて、私は立ち上がった。
「今度は何をやらかしたのですか?」
ルウドはギュッと眉を顰めて、冷え冷えとした声で尋ねた。
「えっと、どれだろ?」
この頃のことを思い出すと、反射的に目上の妃達に言い返したり、やり返したり、虐げられていた使用人を助けたりとか、いろいろやらかしてたからどれなのかわからない。
私は笑って誤魔化した。
「あなたは、なんでそう考えなしなのです。その頭は飾りでしょうか?」
ルウドに深々とため息を吐かれてしまった。
この頃の私だったら、そんなことを言われたら癇癪玉のように怒っていたろう。
しかし、もう二度と会うことができないと思っていたルウドを前に、欠片も気にならなかった。
もし、ルウドに再び会えたら言いたいと思っていた言葉がたくさんあった。
だと言うのに、いざ本当に目の前にすると喉が詰まって言葉が出ない。
「……ルウド、ありがとう」
やっと口から出た言葉は、ずっとルウドに言いたいと心にあった言葉だった。
守ってくれてありがとう。
助けてくれてありがとう。
見守ってくれてありがとう。
そして、こんな私を愛してくれてありがとう。
私は、胸に抱えていた言葉を伝えることができて、清々と微笑んだ。
「シャルラン、どうしました? 何か悪い物でも食べたのですか?」
ルウドは真顔で失礼なことを言ったが、心なしか耳が赤い。
「シャルラン様〜! ご無事で良かったですぅ。わたし、言われた通りに怪しい男が後宮にいたって、侍衛に伝えました。ルウド将軍が来てくれて良かったですぅ」
泣きながら抱きついてきたのは、私の乳姉妹のリリだ。
誰もバラン帝国についてこようとしなかった中、リリだけが「どこまでもついて行きます」と当たり前のように一緒に来てくれた。
私の大切な家族だ。
リリは、濡れ衣を着せられた私の身代わりになって処刑されてしまった。
会いたくて仕方がなかった、大切な妹のような少女だった。
「リリ!」
私はきつく抱き締めると、ボロボロ涙が溢れた。
会いたかった。
リリを忘れたことなんてなかった。
「え? え? シャルラン様、どうしたんですか? どこか痛みますか?」
オロオロと心配するリリに、ブンブンと首を横に振った。
「リリ、ありがとう。大好きで大切な家族だよ」
私は、リリにも言いたかった言葉を伝えた。
「ふえっ? あ、ありがとうございます。わたしもシャルラン様のこと大好きです」
リリは目を丸くしてびっくりした顔をしたが、私をギュッと抱き返してくれた。
「シャルラン、本当に大丈夫ですか? 早く部屋に戻って休みなさい」
ルウドが心配そうに声をかけた。
「そうです、シャルラン様。びしょ濡れじゃないですか! 早く部屋に戻って着替えましょう」
リリも、ハッとしたように私を心配そうに見た。
優しい二人に、私は心が満たされた。
神様、本当にありがとうございます。死ぬ前に二人に会わせてくださり、心から感謝します。
私はいつお迎えが来てもいいと、心から思った。
「シャルラン、歩けますか?」
尋ねられて、足を捻っていることに気づいた。
死んでいるはずなのに、不思議なことに足がズキズキ痛んだ。
しかし、歩けないことはない。
「大丈夫。歩けるよ」
私は、ヒョコヒョコとびっこを引きながら歩き出した。
「シャルラン様、足を痛めましたか?」
「足首を捻ったのですか?」
二人が慌てたように、私を支えようと手を伸ばした。
しかし気づいたら、二人の手から奪うように私の体は誰かに抱き上げられていた。
嗅ぎ慣れた匂いに、逞しいその胸。力強い腕に私より高い体温。
そこは馴染んだ場所だった。
馴染みすぎていて、自然に腕が動いてその首に抱きついていた。
「皇帝陛下!?」
リリとルウドが慌てて礼を執った。
「あれ? 若いムスタファも走馬灯に出てきた」
長年連れ添った夫には、もう言いたいこともやりたいこともしつくしたから、特に伝えたいことは何もないのだが?
しかし、久しぶりに見る若い頃の夫は眼福かもしれない。
獅子の鬣のような濃い金の髪に、意志の強そうな太い眉。高い鼻梁に厚めの唇。神々が丹精込めて作った彫刻の如く、荒々しくも美しい顔立ち。
苛烈で傲岸不遜な振る舞いですら魅力にしてしまう男は、滴るような色気に溢れ、目にした者すべてを魅了する。
ただ一つ、その燃えるような紅瞳は変わらない私の唯一。
私は彼のもので、彼は私のもの。
きっと、これは神様がくれたご褒美の時間に違いない。
だって、この頃のムスタファは、私のことなんて羽虫にくらいしか思っていなかった。
でも、目の前の彼は、私を溺れるほどの愛で包んだ晩年のムスタファがそのまま若返ったみたいだ。
私は小さく笑って、その整った頬を撫でた。
「ムスタファ、若い。皺がないし、白髪もない。あ、いつもよりおでこが狭い? ってことは、意外に後退してたんだ」
「シャルラン?」
ムスタファがムッとしたように、片眉をピクリと上げた。
そんな不機嫌な表情すら懐かしい。
晩年は、ひたすら甘やかされた日々だった。
「申し訳ございません。つい懐かしくて」
ムスタファを前に、いつもの私の口調と表情に自然と切り替わる。彼の紅い瞳を覗き込んで唇を孤に描き、ゆったりと微笑んだ。
若い体に引きずられるように、ついついその頃の自分の感覚になっていたようだ。
「まあいい。シャルラン、私の宝よ」
ムスタファが嬉しそうにとろりと目を細めた。
小鳥が啄むように顔中にキスをされ、私はくすぐったくてクスクスと笑った。
「ルウド、リリをシャルランの部屋に送ってやれ」
「はっ」
二人の方を見ると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして私達を見ていた。
この頃の私が、ムスタファの皇后となって溺愛されるようになるなんて、誰一人想像しなかったろう。
「リリ、先に戻っていて」
私も、お迎えが来たらすぐにそちらに逝くから。
それまでは、ご褒美のようなこの時間が許す限り、若いムスタファのそばにいたい。
ムスタファは、私を大切そうに抱えたまま大股で歩き始めた。
「こ、皇帝陛下!?」
リアルなことに、侍従長や侍従達もずらずらムスタファの後ろに続き、みんな驚きを隠せない顔をしていた。
侍従長は、年をとって皺くちゃになっても口うるさかったなぁと思った。
皇帝の居所に着くと、すぐにお風呂に入れられ、体に香油を塗られ、次々に磨き上げられていった。
化粧台前に座らされ、その鏡に映る私はまだあどけない。
パサパサの朱色の癖の強い髪に、吊り目がちなギョロリとした大きな琥珀の瞳。
肌艶もいまいちだし、薄い唇は血色も悪い。
それを隠すように、髪は香油で艶を出し、肌には白粉をはたかれ、唇に赤い紅を差された。
まだ、十五歳の私は痩せっぽっちで、薄い夜着姿は寒々しく、化粧をするとちぐはぐな感じがした。
私に成長期がきたのは来年くらいからだ。
後宮に入って栄養を摂るようになって、随分体も娘らしくなっていった。
三年後には、後宮の蘭花と囁かれるように成長した。
そこから、後宮での嫌がらせも加速していったが。
「皇帝陛下、シャルラン妃をお連れしました」
私は女官の後ろで、両腕を胸の前でクロスして膝をつき、ムスタファの言葉を待った。
「シャルラン以外は下がれ」
「畏まりました」
天蓋付きの大きなベッドのある寝室には、私とムスタファだけになった。
「シャルラン」
吐息のように甘やかに囁くテノールの声が、私の名前を呼び、ムスタファは私を抱き上げた。
ベッドに腰掛け、定位置であるムスタファの膝に私を乗せると、猫のように私の首に高い鼻梁を擦り寄せた。
「相変わらず、甘えん坊ですこと」
私は、柔らかな金の髪を撫でた。
「愛している。シャルラン、私の唯一」
ムスタファが、縋るように私の細い体をきつく抱き締めた。
私は慰めるように、その広い背を撫でた。
私を亡くして、ムスタファはちゃんと生きていけるだろうか……。
私達は常にそばにいて、親友であり、戦友であり、恋人であり、家族であり、そして比翼の鳥であった。
「……で? シャルラン、答えを聞かせてくれるか?」
はい?
唐突に問われて、私は目を瞬いた。
「なんのことでしょう?」
私はムスタファから少し身を離して、コテリと小首を傾げた。
「まだ答えていないだろう?」
燃えるような紅瞳が熱を帯びる。
答えていないとは?
今何か質問されていたっけ?
しかし、この乞うような、逃がさないというような、仄暗い熱の籠った紅瞳には見覚えがあるような……?
「――シャルラン……。もし生まれ変わっても、また私の皇后になってくれるか?」
私は、ピシリと固まった。
は? なんで目の前のムスタファが今際の際のあの言葉を?
「シャルラン、嬉しいお知らせだ。どうやら、私達は死んで時が巻き戻ったようだ」
「へ?」
いやいや、私まだあの世に逝ってませんが?
「私もシャルランが亡くなった三日後に死んで、気づいたらさっきだった」
パチパチと私の瞬きが止まらない。
嫌な予感に、なんか冷たい汗が流れる……。
「え? ムスタファは元気だったでしょう?」
「シャルランがいない世界に耐えられなかったようだな」
嗚呼、想像できる。
ごめんよ、みんな……。
きっと、子供達と孫達は混乱して大変だったに違いない。
「シャルラン……。また私の皇后になってく・れ・る・よ・な?」
キラキラといい笑顔でムスタファが尋ねてきた。
え? あれをもう一度?
新しい人生じゃなくて、あの波瀾万丈の人生をもう一度……?
……………………。
私は、慈愛の籠った微笑みを浮かべた。
「それはちょっとご遠慮いたします」
――ムスタファの絶対逃さないという紅瞳と、私の断固拒否という琥珀の瞳が、今、バチッと火花を散らすのだった。
ファイッ!
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