コテツ無双
「……コテツさん、コテツさん? 居眠りなんてなさらずに、このアイテム持っていただけます?」
廃品の山をあさっていた主人が、ようやく呼んでくれた。
こちらとしては、待ちくたびれて香箱座りでうとうとしていただけだ。
もともとネコというものは、よく眠る生き物なのである。
くあああと大あくびをひとつ。ちらりと主人を見やれば、まだアイテムの選別に手間取っている様子だった。
コテツ──本来は《虎徹》と表記する──は、大型猫型妖魔でその大きさを例えるなら、ひと昔前のこの国のモノの表し方では「大型の馬車2台」程もある。
コテツ的に言えば小柄な方だと思うのだが、稀にコテツの腹部辺りの腹毛に顔を埋めた主人が、「うおおおお、デカいモフモフ〜〜」と謎に吠えているのでイマイチ良く分からない。
主人的にはソレを「猫吸い」と呼んでいるが、どうやら幸福感を得る儀式らしい。……理解不能だ。
一応、現在のコテツのご身分は「主人の護衛兼ペット」であるらしい。主人は別にテイマーでもないのだが、与えられるエサの旨さに食いついて着いてきていることはバレてない。
食餌をわざわざ摂らなくても、主人の魔素は凄い美味だ。逃したくない。
あと、アイテム類の持ち運びも担っている。
背負っている大きな袋はアイテム袋で、沢山のアイテムを収納できるし、主人自体もが我が背に乗る。
乗せるのは良いのだが、体毛を撫でさするのは勘弁願いたいのだが。
主人相手に言葉は通じないので、その辺は仕方ない。あちらの言葉は理解できても、主人にネコ語は通じないのである。
コテツの報酬は、その巨体に見合った食餌が妥当であるが、実を言うとその辺の空気に混じる魔素で充分に賄われている。
口から食う食餌は単なる『嗜好品』で、本来のエネルギーは魔素だけで充分だ。
前の主人は魔素を与えるだけで満足していたが、今の主人は十分に嗜好品も与えてくれているので、今回の旅行にも不貞腐れることなく付いてきた。
言葉は通じないが、それなりに敬っているのである。
主人は、いつまでもガラクタの山をひっくり返していた。
どうやら “お宝” とやらを探しているらしい。
しかし、こちらから見ればただの金属屑と木片の集まりである。
「……これも違う、あれも違う。うーん、やっぱり古代魔導機の部品なんて、そう簡単には見つからないですよねぇ」
主人が額の汗を拭いながら、ぶつぶつと独り言をこぼした。
その声の調子が、ほんの少し沈んで聞こえたので、コテツは大きなあくびをひとつしてから、のそのそと立ち上がった。
──こういう時は、励ますのが護衛の役目である。
たとえ、言葉が通じなくとも。
コテツは尾をゆるく揺らしながら主人のそばへ歩み寄り、前足でそっと金属の破片をつついた。
たまたまその下にあった黒い筒状のものが、ころりと転がり出る。
「ん? これ……あれ、反応してる!」
主人が慌ててそれを拾い上げた。
筒の先端がぼんやりと青く光り、微かな魔力の脈動が伝わってくる。
「コテツさん、やりました! これ、動力核ですよ! このサイズ、古代級の魔導兵器のですよ!」
ぴょんと飛び跳ねる主人。その足元の砂埃が鼻に入り、コテツはくしゃみをひとつした。
「ふぇっくしゅっ」
主人がこちらを振り返る。
「……くしゃみ、した?」
首を傾げながらも、目尻には笑みが浮かんでいた。
どうやら、役に立てたらしい。
それが分かっただけで、腹毛の奥がほんのり温かくなる。コテツは、ふふんと鼻を鳴らして、再び香箱座りをした。
そして心の中でつぶやく。
──まったく、面倒な人間だのう。
けれど、悪くない気分だ。
主人は嬉しそうに動力核を抱え、何度もくるくると回して眺めていた。
「これを直せたら、あの浮遊艇の修復も夢じゃないですよね、コテツさん!」
言いながら、勢いよくこちらに顔を向けてくる。コテツは仕方なく尾を一振りして応えた。──返事のつもりだ。
人間は、どうしてこう、すぐ夢を語るのだろう。それも、毎回うっかり信じたくなるような目で。
その時だった。
廃品の山の向こうから、風がひとすじ、通り抜けた。ぴりり、と鼻先を刺すような空気。
魔素の流れが、わずかに濁った。
──何か、いる。
コテツの耳が、かすかに動いた。毛並みの下、魔力が静かに滲む。ただの野良魔獣ではない。
この感じ……腐蝕種か。
「コテツさん? どうかしました?」
主人が不思議そうにこちらを見る。その手には、まだ動力核が握られている。
守るべき対象を確認し、コテツは無言で立ち上がった。地を踏みしめるたびに、瓦礫が軋み、鈍い音を立てる。
その低い振動に、主人が思わず一歩下がった。
「え、ま、待って、もしかして、敵、ですか?」
答える代わりに、コテツは喉の奥で低く唸った。空気が震える。やがて、遠くの影がひとつ、ゆらりと形をとる。
人の形をしているが、顔はなく、全身から黒い煙を吐き出していた。
主人が息を呑む音がした。
「……まさか、魔導廃棄場にまで “怨導体” が出るなんて」
怨導体。
強い魔力を帯びた遺物が、長年にわたって怨念を吸い、形を持った存在。妖魔であるコテツにとっても、忌々しい異形だ。
尾をゆっくりと持ち上げ、腰を低く構える。
地を擦るように、静かな唸りが響く。
──主を傷つける者は、誰であろうと。
コテツの瞳が、月光にも似た銀色の輝きを帯びた。廃品の山に沈む夕光が、その輪郭を照らし出す。
次の瞬間、腐蝕した空気が弾けた。
怨導体が呻くような声をあげた。形を持たぬ顔の奥から、黒煙が吹き出す。その煙が地を這い、金属屑を腐らせ、錆びの匂いが風に乗る。
コテツは片耳を伏せ、低く息を吐いた。敵の気配を探る──三体。目に見えるのは一つだが、周囲の魔素の揺らぎがそれを告げている。
「こ、コテツさん……っ、危ないですよ!」
主人の声が遠くに聞こえる。だが、それに答える暇などない。
次の瞬間、怨導体が飛びかかってきた。黒い霧のような体が、音もなく滑る。
──遅い。
コテツの尾が一閃した。轟、と空気が爆ぜ、突風が吹き荒れる。黒煙が霧散し、怨導体の上半身が霧のように千切れ、空中に消えた。
「ひゃあっ……!?」
主人が尻もちをつく。けれど、すぐに地面の影が波打ち、そこから新たな黒い腕が伸びた。
分裂したのか──やはり、魔導遺物に寄生しているタイプだ。
コテツは喉の奥で短く唸る。背中の毛が逆立ち、魔素の光が体表に走る。銀色の筋が皮膚の下を脈打ち、まるで獣の骨格が光そのものになったかのようだ。
怨導体の群れが一斉に襲いかかる。それを迎え撃つように、コテツの両前脚が地を叩いた。
──ドンッッ。
地面がめくれあがり、瓦礫が宙に跳ねる。舞い上がる塵の中、銀光が閃いた。風の刃が走り、黒煙を裂き、怨導体を粉砕していく。
沈黙。
散った黒煙はやがて薄れて、何も残らなかった。ただ焦げたような魔素の匂いだけが、風の中に漂っている。
「……や、やっぱり強いなあ……」
尻もちのままの主人が、呆然と呟いた。その声に、コテツは振り向きもしない。代わりに、鼻をひとつ鳴らした。
──当然だ。これが己の務め。
AIさんと書いています。




