第7話「捕縛、あるいは抱擁」
体が動かない。
蛇に睨まれた蛙のように、私はその場に縫い止められていた。
恐怖? いや、違う。
私の体の奥底にあるオメガとしての本能が、彼を受け入れようとして歓喜しているのだ。
抑制剤の効果をねじ伏せるほどの、圧倒的な「運命」の力。
自作の薬への自信が、ガラガラと崩れ去っていく。
ラディウス殿下が、ゆっくりと近づいてくる。
彼は私の前にひざまずき、泥に汚れた私の頬に、革手袋に包まれた手をそっと添えた。
その手つきは、壊れ物を扱うように優しい。
しかし、その瞳の奥には、決して逃がさないという昏い情熱が渦巻いている。
「なぜ逃げる? エリアン」
問いかけは柔らかかったが、答えを拒絶するような圧力があった。
「私がどれほど探したか、君にはわからないだろうな。夜も眠れず、食事も喉を通らず……君の香りだけを求めてさまよっていた」
彼は顔を近づける。
鼻先が触れ合う距離。
彼の吐息が、私の肌を焼くようだ。
「……殿下、離して……私は、あなたとは……」
やっとのことで絞り出した声は、情けないほど震えていた。
拒絶の言葉を紡ごうとするのに、体は熱を帯び、彼に触れられることを渇望している。
矛盾。混乱。
私の理性は限界だった。
「離さない」
彼は私の言葉を遮り、強く抱きしめた。
肋骨がきしむほどの強さ。けれど、そこには確かな温もりがあった。
「もう二度と、私の目の届かないところへは行かせない。君が運命を拒むなら、私はその運命ごと君を縛り上げるまでだ」
彼の唇が、私の首筋に這う。
そこは、オメガにとっての急所――「項」のすぐ近くだ。
噛まれる。マーキングされる。
そう思って身を縮めたが、彼はただ深く、私の匂いを吸い込んだだけだった。
まるで、失われた酸素を補給するように。
「……いい匂いだ。私の雪の白百合」
そのささやきと共に、私の意識は急激に遠のいていった。
極度の緊張と、本能的な安堵、そしてフェロモンの影響により、私は彼の腕の中で抗う力を失い、深い闇へと沈んでいった。




