エピローグ「雪解けの庭で」
数年の月日が流れた。
王宮の奥にある私的な庭園は、春の兆しに満ちている。
残雪の間から顔を出した新芽が、陽光を浴びて輝いていた。
私はベンチに座り、ひざの上で眠る小さな命を見つめていた。
ふわふわの銀髪に、ラディウス譲りの赤い瞳を持つ男の子。
私たちの息子、レオンだ。
「よく眠っているな」
背後からラディウスが近づいてきて、ショールを私の肩にかけてくれた。
国王としての激務の合間、こうして家族で過ごす時間が、彼にとっての唯一の安らぎらしい。
彼は私の隣に腰を下ろし、レオンの頬を指先でつついた。
「将来は私に似て優秀なアルファになるだろうか」
「私に似て、逃げ足が速くなるかもしれませんよ」
「それは困るな。追いかける苦労は、父親だけで十分だ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
平和だ。
かつて、断罪の恐怖に怯え、必死で薬を作っていた日々が嘘のように。
でも、あの必死な逃亡劇があったからこそ、私たちは互いの大切さを骨身にしみて理解できたのだと思う。
「エリアン」
彼が私の名を呼び、キスを落とす。
それは情熱的なものではなく、日だまりのような穏やかな愛撫だった。
「愛しているよ。これまでも、これからも」
「ええ、私もです。ラディウス」
風が吹き、庭の木々がざわめく。
どこからか、春の匂いが運ばれてきた。
もう凍えるような冬は終わった。
雪解けの水が大地を潤すように、私たちの愛は静かに、けれど確実に、未来へと流れていく。
私は息子を抱き直し、愛しい夫の肩に頭を預けた。
もう、どこへも逃げる必要はない。
ここにある幸せこそが、私のすべてなのだから。




