番外編「ミカエルの受難」
「ねえ、僕の出番は!? ここだよ!?」
王宮の片隅で、ピンクブロンドの少年ミカエルは叫んでいた。
彼は途方に暮れていた。
田舎から出てきて、神託によって「聖なるオメガ」として王宮に招かれたはずだった。
イケメン王太子ラディウスに愛され、いじわるなライバルを蹴落とし、幸せになる……はずだったのに。
「あのエリアンとかいう人、全然いじめてくれないし! いきなり消えるし!」
そもそも、ラディウス殿下はミカエルのことなど視界にすら入れていなかった。
舞踏会の日、隣に立っていただけで「誰だ君は?」と言わんばかりの冷たい目を向けられたのを、ミカエルは根に持っている。
「チェッ、なんだよ運命の番って。匂いだけで決めるなんて野蛮すぎない?」
ミカエルはふてくされて、厨房からくすねてきたパンをかじった。
そこへ、通りがかりの近衛騎士が声をかけた。
「おい君、ここで何をしている? 迷子か?」
振り返ると、そこには黒髪の精悍な騎士が立っていた。
彼はミカエルの口についたパンくずを見て、呆れたように、でも優しく笑った。
その笑顔を見た瞬間、ミカエルの鼻がひくついた。
あ、いい匂い。
焼きたてのパンのような、陽だまりのような、温かい匂い。
「……ねえ、お兄さん。名前なんていうの?」
「俺か? 俺はガレイン。第三部隊の副隊長だ」
ミカエルはニヤリと笑った。
王太子なんて、もうどうでもいい。
こっちの方が断然タイプだし、何より性格が良さそうだ。
「僕、ミカエル! ねえガレイン、王都の案内してよ!」
物語の主役の座は降りたけれど、僕の人生の主役は僕だ。
転んでもただでは起きない、元・正ヒロインのたくましい恋の冒険が、今ここから始まろうとしていた。




