第13話「運命の更新」
王宮の大聖堂で、結婚式が執り行われた。
ステンドグラスから降り注ぐ光の中、私は純白の礼服に身を包んで立っていた。
隣には、私以上に幸せそうな顔をしたラディウスがいる。
参列者たちの視線は様々だ。
祝福する者、妬む者、困惑する者。
かつての「悪役令息」が王太子妃になるのだから、無理もない。
だが、今の私には彼らの視線など、ただの背景にすぎなかった。
「エリアン、誓ってくれるか」
ラディウスが私の手を取り、指輪をはめる。
その指先が微かに震えているのが愛おしい。
「健やかなる時も、病める時も。例え世界がどう変わろうとも、私の番として傍にいてくれると」
「はい、誓います」
私は迷いなく答えた。
「あなたが私を離さない限り、私はどこへも行きません」
それは、「逃亡者」からの完全なる降伏宣言であり、新たな契約だった。
誓いのキスの瞬間、大聖堂の鐘が鳴り響く。
彼の唇から伝わる熱と、ふわりと広がる雷雨と白百合の混ざり合った香りが、私たちを包み込む。
それはかつて感じた恐怖の象徴ではなく、これからの未来を守る最強の盾の香りだった。
式が終わった後、バルコニーに出ると、眼下には王都の街並みが広がっていた。
かつて、あの路地裏を泥だらけになって走った夜が、遠い昔のように思える。
「逃げ足の速い私の愛しい白百合」
ラディウスが後ろから私を抱きしめ、耳元で囁く。
「もう二度と、追いかけっこはごめんだよ」
「ええ。でも、もしあなたが浮気をしたら、今度はもっと上手に逃げてみせますよ」
「はは、それは無理だ。君以外に反応する機能は、とっくに壊れているからな」
私たちは笑い合い、秋の空を見上げた。
風は涼しく、空はどこまでも高い。
シナリオ通りの結末ではない。
けれど、これは私が自分の足で選び、手に入れた、最高のハッピーエンドだ。
運命は、更新されたのだ。




