第11話「甘い服従、あるいは共犯」
誤解が解けてからの生活は、劇的に変化した。
軟禁状態であることに変わりはないが、その意味合いが変わった。
これは監禁ではなく、過保護すぎる愛の巣ごもりだ。
ラディウス殿下は公務の合間を縫って、というより公務を部屋に持ち込んで、片時も私のそばを離れようとしない。
私が本を読んでいる横で、彼が書類にサインをする。
時折、目が合うと彼が甘く微笑み、フェロモンを飛ばしてくる。
そのたびに私の心臓は早鐘を打ち、体温が上がる。
「殿下、仕事に集中してください」
「君を見ていた方が、国のためになる名案が浮かぶんだ」
「屁理屈ですね」
軽口を叩けるほどに、私たちの関係は修復されていた。
いや、以前よりもずっと深く、濃密なものになっていた。
だが、問題もあった。
私が「元・悪役令息」であるという事実だ。
貴族たちの中には、婚約破棄騒動を起こした私がいまだに王宮に居座っていることを快く思わない者もいる。
ある日、庭園を散歩していた私は、数人の貴族がひそひそ話をしているのを耳にした。
「聞いたか? あのフォレスター家の息子、殿下をたぶらかして王宮に入り込んだらしいぞ」
「とんでもない毒婦……いや、毒男だな」
「すぐに追い出されるさ」
胸が痛む。
彼らの言うことは、あながち間違いではない。
私は一度、彼を裏切り、逃げた人間だ。
その時、背後から冷ややかな声が響いた。
「ほう。私の選んだ相手を『虫』呼ばわりとは、いい度胸だ」
ラディウス殿下だった。
彼がまとっている空気は、私に見せる甘いものではなく、絶対零度の殺気だった。
貴族たちは悲鳴を上げて平伏した。
「エ、エリアン様のことを申し上げたのではございません!」
「言い訳は聞かん。私の愛する者を侮辱することは、私自身への反逆とみなす」
彼は冷酷に言い放ち、衛兵を呼んだ。
その横顔は恐ろしいほど美しく、そして残酷だった。
だが、不思議と恐怖はなかった。
その牙が、私を守るために剥かれていることを知っていたからだ。
「……やりすぎですよ、ラディウス」
二人きりになった後、私は彼をたしなめた。
彼は不満げに鼻を鳴らす。
「足りないくらいだ。君を傷つける者は、世界のすべてを敵に回しても排除する」
その狂気じみた献身。
けれど、それはもう不快な鎖ではなかった。
私は彼に寄り添い、その腕に頭を預けた。
私たちは、共犯者になったのだ。
世界中が敵に回っても、この腕の中だけが私の居場所なのだと、認めざるを得なかった。




