第10話「すれ違いの告白」
熱が下がり、意識が鮮明に戻ったのは、それから三日後のことだった。
窓の外からは、鳥のさえずりが聞こえる。
ベッドの脇には、椅子に座ったまままどろむラディウス殿下の姿があった。
私が身じろぎすると、彼は弾かれたように目を覚ました。
「エリアン! ……よかった、やっと熱が引いたか」
安堵のあまり、彼は私を抱きしめようとして、はたと動きを止めた。
私が怖がると思ったのだろうか。
そのためらいが、以前の彼にはなかった人間臭さを感じさせた。
「……殿下。ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なものか。君が無事で本当によかった」
彼は私の手を両手で包み込み、祈るように額を押し当てる。
その温もりが、冷え切っていた私の心を少しずつ溶かしていく。
「エリアン、教えてくれ。君はなぜ、あそこまでして逃げようとした? 私がそんなに恐ろしいか?」
真剣な問いかけだった。
私は迷った。
転生の事実を話すわけにはいかない。
けれど、この期に及んで嘘をつくのも、彼に対して不誠実な気がした。
「……私は、怖かったのです」
ポツリと、言葉が漏れた。
「ミカエル様をいじめた私を、あなたが断罪し、破滅させると信じていました。鉱山で一生を終えるくらいなら、逃げ出して自由になりたかった」
ラディウス殿下は、怪訝そうに眉をひそめた。
「ミカエル? ああ、あの少年か。彼のことなど、君がいなくなってからは一度も思い出さなかったな」
「……え?」
「断罪? 確かに君の振る舞いは目に余るものがあった。だから少し懲らしめて、反省させてから改めて求婚し直そうと思っていたんだ」
彼の言葉に、私は口をあんぐりと開けた。
求婚し直す?
断罪イベントじゃなかったのか?
「だが、君は逃げた。私の予想を遥かに超える鮮やかさで。その時、確信したんだ。君こそが私の唯一だと。従順なだけの人形などいらない。私を振り回すほどの知性と度胸を持つ君だからこそ、私は執着したんだ」
なんてことだ。
シナリオはとっくに壊れていた。
私が必死に回避しようとしていた破滅フラグは、彼にとっては「愛の試練」のようなものだったらしい。
すれ違いもいいところだ。
思わず力が抜けて、私は苦笑を漏らした。
「……馬鹿みたいだ。私の一人相撲だったんですね」
「なら、これからは二人で踊ろう。君が逃げられないよう、私がリードしてあげるから」
彼はいたずらっぽく微笑み、今度こそ遠慮なく私を抱きしめた。
その腕の中で、私はもう逃げる気力が失せている自分に気づいていた。




