脳
僕は脳が好きだ。
理科の授業で学んだ人体。
その中で僕は脳に惹かれた。
淡い桃色とひだの造形が僕の美的感覚と性的欲求を刺激する。
教科書の人体の図を見てうっとりとする。
僕の脳が、脳に惚れてしまった。
恋愛脳ではなく、脳恋愛だ。
恍惚とした頭で考える。
脳みそが生で見れたら…触れたら…
そんな衝動が毎日毎日毎日湧いてくる。
そんな思春期のある日のことだった。
「うわぁ…何?…猫?…グロッ!」
下校中そんな声がした。
見てみると、頭蓋骨が割れた猫の死骸があった。
大人や同年代の人が可哀想にと同情してる中、僕だけが別の感情に支配された。
興奮。
僕は猫の脳みその桃色に完全に見とれてしまった。
柔らかな曲線を帯びたそれは美しい。
気づくと僕はそれに手を伸ばしていた。
群衆はわっ…と軽く悲鳴を上げて戦慄していた。
僕はそんなことも気にせずぐちゃぐちゃと猫の脳みそを触る。
五感を支配するピンク。
呼吸が荒くなって、頬が紅潮している。
幸福感にくらくらする。
けれど、周りの冷たい視線が僕を異常者にした。
冷たい目線と反比例して脳が僕を柔らかく包み込んでいた。
うっとりする。
だけど人の声に気が散って集中できない。
僕は脳を優しく掴んで持ち出し、どよめく群衆から逃げ出した。
それから僕は走った。
人が居ない廃墟についた。
静かで脳に集中できそうだ。
僕は脳を隅から隅まで、舐めるように見た。
感動で指が震える。
脳……。
果実のようなつやつやとした輝きに僕は目と心を奪われた。
その震えた指で脳をしっかり掴んで
キスをした。
唇が脳に触れた。
下腹部がなかなか収まらない。
しまいには脳みそで自慰をしてみた。
興奮で悶えながら僕は僕を慰めた。
甘美的で、優雅で夢のようなひとときだった。
僕は数日経ってもそのことが忘れられなかった。
また…また…会えないかな…脳。
ある静かな朝。通学路。
猫の声が聞こえた。
僕はその瞬間、脳に脳を支配された。
僕は気持ちの高ぶりを抑えられなかった。
手こずりながら筆箱の中身からコンパスを取り出し握りしめた。
僕は脳が大好きだ。




