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奇妙な雛祭り

作者: うなぎ358


 我が家では毎年二月中旬になると、お雛様を飾る。ご先祖様から代々受け継がれてきた子達だ。所々の着物が繕ってあったり少し日焼けもしているけど、七段飾りで見応えがたっぷりで、大切に扱われてきたと分かる素晴らしいものだ。


 今年も祖母と一緒に飾る。息子の晴は、最初こそ楽しそうに飾り付けをしていたが、早々に飽きて今はスマホゲームに夢中。


「ばぁば、これも飾っていい?」


 すべてのお雛様を飾り終え、記念に写真を撮ろうとスマホをかまえると、晴が祖母の手を握って何やら頼み込んでいる。


「おや、可愛いね。晴の人形かい?」

「うん! 小学校の帰りに貰ったんだ」


 祖母は腰を下ろして、晴の右手に抱えられていた人形を手に取ると「そうだね。どこに飾ろうかの……」と、つぶやきながら雛壇をぐるりとまわる。


「一番、てっぺんがいい!」


 と、その時、晴の小さく細い指が最上段を指差す。


「うん。うん。そうだね。高いところがいいわね」

「ばぁば、真ん中! 真ん中にしてよ!」

「分かったわ」


 いやいや、おかしいでしょ!? って、内心ツッコミを入れながら、私は見守った。祖母は椅子を持ってきて、男雛と女雛を少しずらすと、真ん中に人形を座らせた。


「ねぇ。違和感が凄いんだけど……」


 思わず声をかけたが、二人は楽しそうに笑うだけで、その人形を下ろすつもりはないようだ。


「えぇー! かっこいいじゃん!」

「硬いこと言わないの。それにしまりがあっていいと思うわよ」


 仕方なく完成した雛壇を写真におさめた。


 最上段は、左側から男雛、中央に金髪縦ロールの赤いドレスの人形、右側に女雛の順に並んでいる。その下段は普段通りだ。


「やっぱり変じゃない?」


 と言う、私の言葉はスルーされた。まさに聞こえないフリだ。


 次の日、さらに違和感は増す。


「晴ー! これ片付けて」

 

 私の呼び声に、晴がドタバタと走ってきて、雛飾りのある部屋に入ってきた。


「なに?」

「この人形達、どこから持ってきたの? お雛様が窮屈そうよ?」

「オレじゃないよ?」


 二段目の両側を指差す私に、首を振りながら違うと言う。もしかしたら面白がった祖母が、どこかで購入してきたのかもしれない。


 左にアフロ頭の人形、右にモヒカン頭の人形が、Tシャツとジーパン姿で、片手を上げてポーズをとっている。


 腰も細く足も長いし、なかなかスタイルがいい。


 って、そうじゃなくて!


「これ以上、増やさないように言わなくちゃね」


 デイサービスから帰ってきた祖母に、人形の事を話すと「私じゃないわ」と、カラカラ笑って自室に行ってしまった。


「もう、一体、誰が持ってきてるのよ〜」


 海外出張中の夫には絶対無理。写真をメールで送ったら爆笑スタンプの返信がきていた。


「笑い事じゃないんだけどね」


 次の日も更に人形は増え、日に日に一体か二体ずつ増えていく。ぬいぐるみの時もあれば、日本人形の時もあるし、アニメのフィギュアの時もある。


「バラエティー豊かすぎるし、もう部屋に入りきらないんだけど……」


 誰が増やしているのか分からないから、たしかに不気味ではある。


 なので今日、三月三日、犯人を捕まえるべく、野球バットを両手に握りしめ、雛飾りの部屋の襖を少し開けて、隙間から中の様子を伺う。


 そして祖母と晴が眠った深夜三時三十三分。


 太鼓と大鼓と小鼓がテンポよく鳴りはじめ、調子のいい笛まで加わって、さらに澄んだ歌声が聞こえはじめた。


「メインイベントは、トリの降臨よ!」


 見覚えのある金髪縦ロールの人形が、空に向かって両手を広げる。


 バサバサバサバサバサバサ!!


 特徴的な茶色のトサカが三本ある、ぷっくりもふもふのトリが何もない空間から、突然現れた。


 途端に歓声が上がり、金髪縦ロールの人形がトリを抱きしめ頬擦りした。


 思わず私も触ってみたいと思ってしまった。


 ゆっくりと襖を開けていくと、五人囃子が立ち上がり楽器を演奏して、男雛と女雛から口を大きく開けて美しい声で歌い、この部屋に集まった様々な人形達は楽しそうにダンスを踊っていた。


「ふふふ! 見つかっちゃったわね!」

「……!!」


 私がみていることに気がついた、金髪縦ロールの人形が、軽やかにステップを踏みながら赤いドレスをひるがえし艶やかに微笑む。


「この子達があまりにも美しくて可愛いから仲間に入りたかったんですわ」


 トリを頭に乗せてから、今度は男雛と女雛を抱きしめる。


 言葉を失ったまま呆然としてる私に向かって、金髪縦ロールの人形はウインクをして消えていった。同時にこの部屋に集まった様々な人形達も一緒に消えていった。


 不思議な事に祖母も晴も、人形の事はまったく覚えていないようだった。写真すら消えてしまっていたけど、私の記憶にだけは残っている。


 だからもしも来年、また来てくれたなら、何かおもてなしをしてみようか? なんて考えてしまった。


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