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聖女の私を追放したせいでこの国は滅ぶ——かと思いきや、まさか敵国最高戦力も追放されていたとは……。

作者: 特になし

三回目の聖女ものです。追放ものに挑戦しました。

「……というわけで、私、国を追放されちゃったんです」

「ほえー、大変だったんだな」


 私の話に、酒場の店主は、感慨深そうに頷いた。


 だけど、そんな時、

「えっ、あなたも追放されたんですか?」

と、ちょうど隣の席についた人物が話しかけてきた。


「実は俺も、たった今国外追放されて、この街に捨てられたところなんですよ!」


「うわ、凄い偶然ですね」

と、私。


「ちなみに、原因を伺っても?」

と、客。



 あれは数日前のこと。


「貴様との婚約を破棄し、国外追放を言い渡す!」


 婚約者の王子が、私にそう告げる。隣には、私の後輩聖女が立っている。


「え……本当にいいんですか? 私がいないと、この国結構やばいと思うんですけど……」


 焦った私の様子に、何を勘違いしたんだろう、

「ふん、今更慌ててももう遅い。さっさと連れていけ!」

と、王子は勝ち誇った笑みを浮かべる。


 途端、私は背後から兵士に捕らえられ、そのまま護送車に連れ込まれてしまった。


 こうなった原因を、道中で私は考えた。そもそも、お互い愛情があったわけじゃない。筆頭聖女として国民の支持が厚い私と結婚することで、国民の王室への反感を和らげるという、完全なる政略結婚。だけど、聖騎士団の中でも派閥争いがあって、別派閥の後輩聖女が王子に取り入って、政権に近づこうとして、私が邪魔になって……って、ああ、もうめんどくさい! 頭がぐるぐるしてきた!


 だけど、一つだけ確かなことがある。そういうめんどくさいことと、私はもう無縁だってこと! 


 と思ったところで、私は護送車から放り出された。中立都市セザール。ここから私の追放生活がスタートする。



「……ということがありました」


 私は店主に話したことを、そのまま隣の客に告げた。


「うわー、それはお疲れ様です。俺の方も少し似てるかもしれません。出世レースでの足の引っ張り合いで、冤罪をかけられてしまって、見事に追放されてしまいましたよ」

と、客は言う。


「どこも世知辛いですね」

「まったくですよ。でも、まさか聖女をされていたなんて、驚きました。実は俺も聖騎士だったんです」


「あ、そうなんですか? 私はガルシア国で働いてたんですけど」

「俺はソラリア国です」


 へえー、ソラリア国か。ちょうど、うちの国ガルシアといがみ合っていた対戦国。でも、今はもう関係ないな。お互い、追放された同士だし。


 それにしても、この人聖騎士だったんだ……って、あれ、ちょっと待って。ソラリアの聖騎士? それに、この声……。どっかで聞いたことあると思ったけど、まさか——。


「あ……」

「あ……」


 隣を向くと、見知った顔が私を見つめ返している。


「アヴィオール!」

「リーゼロッテ!」


 私たちは同時に叫んだ。噓でしょ? まさかかつての敵と、こんなところで出くわすなんて……。いや、それよりも——


「くびになったんですか、アヴィオール……さん」


 聖騎士アヴィオールは、圧倒的な強さを誇る、間違いなくソラリアの最高戦力だった。彼がいるからこそ、ソラリアは戦えていたと言ってもいい。何考えてるんだ、ソラリア国? どうしてよりにもよってこの人を追放しちゃったわけ?


「あなたこそ追放されていたんですか、リーゼロッテ……さん」

と、アヴィオールも目を丸くする。


「てっきり、私がいなくなった後は、あなたにガルシアは滅ぼされるんだろうなー、と思ってたんですけど」

「いや、俺もあなたがソラリアを滅ぼすと思ってました」


 あれ? あれあれ? 


「ということは、もしかして国は滅びない?」

「まあ、ぶっちゃけたところ、俺たちなしで、滅ぼすだけの戦力があるとは、正直思えませんよね」


「じゃあ、追放ざまぁは起こらないんですか?」

「おそらく」


 追放ざまぁ。組織を支えている人物を、邪魔者として追放したら、そのせいで組織が破綻して、自業自得だね、ざまぁ! というもの。


 アヴィオールはちょっと考えた後、

「あっ、そうだ。ここは俺たちで手を組んで、一緒に両国共滅ぼすってのはどうですか?」

と、思いついたように口にする。


 うーん。追放されたので、国に復讐しちゃいます系か。それもまあ、ざまぁ的には、ありっちゃありなのかもだけど……。


「いや、それはめんどくさいな」

「ですよねー。俺も冗談で言ったので、リーゼロッテさんの意見に大賛成です」


 アヴィオールはへらっと笑う。


「え、アヴィオールさん、それでいいんですか? 聖騎士アヴィオールといえば、一発殴られたら、百発殴り返す男でしょうが」

と、私。


「それはただのイメージですよ。実際の俺は、殴られたら、すぐ逃げたくなるタイプです。というか、そんな風に殴ってくるような奴、一緒にいたくないですよ。あー、体育会系の職場、まじで肌に合わなかった……」


 どうやら、私の好敵手はかなりやる気のない人物だったらしい。


「リーゼロッテさんこそ、平民から筆頭聖女、果てには未来の王妃の地位まで上り詰めた、野心家リーゼロッテじゃありませんか? このままやられっぱなしでいいんですか?」

と、アヴィオール。


「成り行きで立身出世したせいで、野心家キャラだと思われてるんですけど、私は正直そういうのどうでもいいんですよ。ていうか、もう人間関係とか疲れた……」

って、私も人のことは言えないな……。


「ぶっちゃけ、追放されてラッキーだった説までありますよ、私」

「あ、それ、俺も思ってました」


「じゃあ、ここは一緒に祝いませんか? 追放記念日ということで」

「いいですねえー、追放記念日」


「追放に乾杯!」

「乾杯!」


 結局、私たちは朝まで飲み明かした。


「リーゼロッテさんは、この後どうするんですか?」


 店を出たタイミングで、アヴィオールが尋ねてくる。


「私、スローライフがしたいんですよ。だから、とりあえず、冒険者になろうと思って。そして、しばらくは気ままに諸国をめぐります」

「本当に偶然ですね。俺も同じこと思ってたんです」


「ほら、この店の隣にギルドがあるじゃないですか。そこに行こうとしてて、だけど、その前に一杯やっちゃおうかな、とこの店に入ったんです」

「うわ、そこまで同じですか……」


「私たち、随分と気が合うんですね。もはやちょっと怖いですよ」

「でも、昔から結構気が合ってたのかも。ほら、偶然鉢合わせることも多かったし」


「あー、そうですねー、って、戦場でやないかい!」

「だとしても、もはや遭遇しすぎて、この人俺のこと好きなのかなって思ってました」


「あはは、何ふざけたこと言うんですか」

「まあ、それは冗談だとしても、俺はリーゼロッテさんのこと、好きですけどね」


「え……好きなんですか」

「いや、それは……。だって、話してて楽しかったし……」


 なんだかちょっと変な雰囲気になって、私たちは同時に顔を逸らす。


「ままま、まあ、まさかアヴィオールさんと? こんなに意気投合するなんて? 思いませんでしたよ?」

「そそそ、そうですね。俺たち、なんやかんやいい組み合わせだって、そう言いたかったんですよ」


 その後、気まずい沈黙が訪れた。


「じゃ、じゃあ、私こっちなんで……」

「俺はこっちなんで……」


 その場で別れようと、一歩踏み出した途端、私たちはごつんとぶつかる。そうだ……。私たち、行き先も冒険者ギルドで一緒なんだ……。私は頭を抱える。


「この後、至る所であなたと鉢合わせる未来が、今、頭に浮かんできたんですけど」

「奇遇ですね。俺もです」


 こうなったら、もう——


「いっそのこと、一緒に冒険者やりませんか?」

「いっそのこと、一緒に冒険者やりませんか?」


 あ、また被った……。それがなんだかおかしくて、私たちは一緒になって笑い転げた。


 そして、私はアヴィオールと共に旅に出た。


 のんびり国々を回って、たまに護衛や討伐の依頼を受ける日々。あっという間に時間は過ぎ、気付けば国を追放されてから一年が過ぎていた。


「そういえば、リーゼロッテさん。俺たちの国、最近滅んだっぽいです。両方」


 ある日、一緒に朝食を食べている時、アヴィオールがさらっと口にした。


「え! まさか、戦争で相討ちになったんですか!?」

「いや、両方自滅です。内部から崩壊しました」


「自滅……。いったいどうして?」

「考えてみてくださいよ。あの国がまともだったら、俺たちを追放なんてしませんよ。俺たちを追放した後も、どんどん追放やら粛清やらで内輪揉めをしてる間に、革命が起きて、あっけなく崩壊したそうです」


 崩壊……。私を追放した王子と後輩聖女は、いったいどうなったんだろう。いや……これは聞かない方がいいな。なんだか、ハードな展開が待ってる気がする。


「それで、今まで粛清されていた人間が集まって、現在は新政府が樹立されたとか。どうやら彼らは、俺たちを頭に据えるために探してるみたいなんです。ほら、悪逆の前政権に追放された英雄が戻る、ってなったら、新政府のイメージ戦略的に完璧な展開ですから。どうします? 国に戻って、新政府のトップに立ちますか?」


 うーん。追放されたけど、新政権で返り咲きます系か。それもまあ、ざまぁ的には、ありっちゃありだけど……。


「いや、めんどくさいな」

「ですよねー。リーゼロッテさんに大賛成です」


 私は今の生活が一番楽しい。それに、それぞれがガルシア、ソラリアに戻ることになったら、もうアヴィオールとは……。


「なんたって、俺は、リーゼロッテさんと一緒にいられなくなるのは嫌ですからね。何があっても、ソラリアには帰らないつもりです」

と、アヴィオールはパンをちぎりながら言う。


 なんだ、また同じこと考えてたのか。呆れるはずなのに、なぜか口元が緩んでしまった。


「安心してください。あなたの追手は私が追い払いますよ」

「あはは、リーゼロッテさん相手だったら、ソラリアの連中は怖がって手出しできませんね」


 そう笑った後、

「俺も、あなたのこと、絶対に渡しませんから。ガルシアにも、そして他の何にも」

と、アヴィオールは言う。


 この一年間、一回も昔の国のことを思い出すことはなかった。それくらい、毎日が楽しかったから。そして、これから先、思い出すこともないんだろう。もしかすると、これが一番のざまぁなのかも、と、やや頬を赤らめたアヴィオールを眺めながら、私は思った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。まだまだ勉強中ですので、アドバイスなどいただけると嬉しいです。

追記を失礼します。1月30日に、呪われ公子様に、「呪われてるんだったら、仕方ありませんね!」と返し続けた結果 、を投稿しました。まだあまり読んでいただけていないので、よろしければ、こちらも読んでいただけると幸いです!

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― 新着の感想 ―
それぞれの新政府で旗頭に立って両国和平の道を築く道があったかもしれませんね。 まあしないだろうけど。 面倒だから。
まさに「幸せになることが一番の復讐」ですね!
戦場で戦っていたと思えない、2人のほのぼののんびりな感じに癒されました。
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