表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第一話 マーマレードの魔女

論文執筆中の高ニ男子が魔女っ娘とマーマレードを作るコメディです。

笑って頂けますと幸いです!

研究の楽しみは思わぬ発見をすることにある。

 そう先生は言った。

「いいですか木枯くん。論文は足で書けと教えたはずです」

 そんな不可能なことを仰られても。俺は弘法大師じゃないんだぞ。

「可能な限り一次情報源まで遡り、きちんと元の史料を読んで内容を確認するのです。でなければよい論文は書けませんよ」


 畜生め、高校生に論文を書かせるなや。

 自称進学校のくだらぬ見栄から高二の学生に論文もどきを書かせる夏の特別授業。正直言って迷惑きわまりない。ただ受験指導だけをしてくれればよいものを! 「考える力」なんて求めてませーん! ていうか考えれば考えるほどこの授業そのものが不要である。


 このふざけた特別授業だが、俺が選んだテーマはマーマレード。

 なんでこのテーマを選んだかって?

 それが、よく分からない。

 どうしても研究したいと思えるテーマが見つからず、戦国武将とか量子論とかそういう人気のテーマは外してニッチな分野を攻める戦略で行くことにした。

 地味だが奥の深い、それでいて教師好みのいい感じにニッチなテーマを探す一人ブレストをやっているうちに、マーマレードというテーマを思いついた。


 ・・・・・・今にして思うとあのときの俺はどうかしていた。


 マーマレードなんて単なる思いつきだったが、切羽詰まった状態だとなぜかそれが素晴らしい研究テーマに思えてしまうんだな、これが。

 マーマレードから見る世界の歴史みたいな感じで、大航海時代とオレンジの品種改良の歴史を踏まえつつ・・・・・・なんて壮大な大論文を書こうというおかしな幻想に取り憑かれ。

 それが死に到る道だと気付いたときには時既に遅し。


「なかなか面白そうなテーマではないですか! いいですね、是非やってみなさい」


 先生が乗り気になってしまった!

 そんなわけで俺こと木枯東風は論文を足で書く羽目に陥ったのだ。14世紀半ばの中英語の文献なんて知らんがな! なんでyou areじゃなくてthou artなの? 教科書に載ってないよ?


 まあ確かに少し面白いかな、とは思ったさ。活用が昔は違った。どうでもいい豆知識だけど「思わぬ発見」という奴か。

 実験ミスからペニシリンを発見したという・・・・・・俺はテーマの選択ミスから英語の活用が昔は違ったと言うことを発見しました。ちゃんちゃん。


 ここは県外の図書館の地下書庫。

 夏の課題論文のためにわざわざ県外の図書館に足を運ぶけなげさよ。高速バスの領収書は取ってあるから後であの教師に請求してやる。


 薄暗い書庫内、林立するステンレス製の本棚の間を蟻のように這いずり回り、スマホにメモした史料リストを辿ってゆく。


 あくせく調べ回ってようやく一次史料とおぼしき中世のお節介な修道士さんが書いた日記にたどり着いた。そいつは何を思ったか自分が住む町のあらゆる料理を記録しておこうとしたらしい。その中にマーマレードの製法も載っているらしいのだ。神に仕える身なのだから料理の記録なんてせんでよろしい! あんたのせいでこっちは余計に読む文献が増えたのだぞ!


 ずしりと重い黒塗りの本を開くと出ましたよ中英語の文章!

 何とか内容を読めるようになったのだが(すごい成長じゃない?)、こいつの文章はとびきり読みづらい。どうも方言混じりで妙に一文一文が長いのだ。しかも変にラテン語使いたがるし!


 修道士の文章がヤバすぎる。これも思わぬ発見というやつかね?


 ぱたんと本を置いてため息をつく。

 面倒くさいったらないよこれは。


 伸びをするとポキポキと背骨の鳴る音がした。

 さて、先ほどの本を解読しますかー。


 あれ?

 積ん読状態の文献の山のてっぺんに置いていた修道士の本がない。


 辺りを見回すと、いた。

 机の斜め向かいの席に、例の本を読みふける小柄な少女。


 人が苦労して見つけ出した文献をパクった不埒な輩。こんなのを読もうとする奴にろくなのはいないことは明らかだが、開いた本の上からぴょこぴょことコオロギか何かの触覚じみた髪の毛が見える。

 オレンジ色の髪とセーラー服・・・・・・といっても今時の女子高生が着るようなのではなくスコットランド風の本来のセーラー服。いわゆる伝統衣装の方! 

 これをケルトの妖精的な、透き通るような美女が着ていたら一目惚れだったが、生憎、小さな、そしてどことなくアホっぽい少女が着ていたのだ。


 これで山高帽まで被っていたら完全にアレなので異端審問にかけるべきだが、さすがにそれほど過激ではなく、赤と茶色のチェックのベレー帽であった。


 民話で悪魔にさらわれる町娘が少し足りなくなって現世に生まれ変わったらこうなるのか。はたまたオレンジ農家のPRキャラか? だとしたらあざとい。

 背の丈は小さく、起伏もない(残念ながら!)。それで髪がオレンジだから何となく色素の抜けたマッチ棒に見える。分かったぞ、たぶんこいつは古い家の仏壇で元号をまたいで放置された哀れなマッチ棒の精霊か何かだ! 使われなかった恨みを抱いてこんな所に化けて出たのだ! にしては可愛らしい小動物のような印象だが。


「黄金のマーマレード・・・・・・」

 彼女の呟く声が聞こえた。

 マーマレードだと? 人がそのために身をやつしているテーマを・・・・・・


「あー・・・・・・お嬢ちゃん? お嬢ちゃんにその本はちと難しいと思うなー。ほら、お兄さんに渡してくれる?」

 こんな奴に中英語の文献が読めるはずはない。英語偏差値60の俺でもヒイヒイなんだぞ。

 だが、この気の利かないマッチ棒めは

「ボクが先に見つけたんだよ!」

 とぬかしてたたたた・・・・・・と駆けだした!


「お・・・・・・おのれ! 論文が書けなくなるだろうが!」

 知的文化遺産の価値も分からぬ頭の軽いベニクラゲめが、人の苦労して見つけた暇人修道士の駄作を奪いおって!


 小癪なマッチ棒は、その小柄な体躯には少々大きすぎる本を抱えて走り・・・・・・バランスを崩してコケた。顔面から言ったぞ、かわいそうに! まあ、人の論文執筆を邪魔するからだ。


「・・・・・・こら小娘。その本は貴様ごときの読める代物ではない。さっさとこっちに渡せ」


「ふうーん・・・・・・」

 少女は鼻を手で押さえつつ、こちらを涙目で睨み付ける。


「さっきからどうもキミはボクのことを馬鹿にしてるみたいだけど・・・・・・ボクが誰かを知ってのこと? それとも単に無知すぎて自分が何をしてるか分からないだけ?」


 ゆらりと立ち上がる彼女の髪の毛が一瞬、橙色の光を発したように見えたが。


「ボクの名前はネイピア・ネースター。セシル・ネースターとダーニャ・ネースターの娘にしてその後継。父祖の名はレイフ・ネースター、そして一族より受けた二つ名は」


――マーマレードの魔女!


 彼女はそう名乗った。

 魔女と来たか。ふっふーん、そうなの。想像力が豊かね、きっとご本の読み過ぎなのね? でもねお嬢ちゃん、ご本に書いてあることは作り話のこともあるのよ?


「はっはっはっは! マーマレードの魔女だと!? そんな子どものおままごとに付き合うほどお兄さんは暇じゃねえんだよ! とっととその駄作をよこしな! こちとら締め切りが迫ってるんでなア!」


「ふうーん・・・・・・じゃあ」

 ネイピアは軽く人差し指をこちらに向けると。


――ナルハヴァルの光!


 俺の頬をレーザーのような光が掠めていった。

 今のは・・・・・・何だ!?


「ま・・・・・・まさか、本物の魔女!?」

「ふふふ。だから言ったでしょ?」

 ニイ、と不敵な笑みを浮かべるネイピア。

「一応、キミの名前も聞いといてあげるね。魔術師というのはね、決闘の作法を大事にするんだよ」

 け、決闘だと!?

 レーザー放てる奴と決闘!?

「お、俺の名は木枯東風こがれとうふう。二つ名は豆腐メンタル・・・・・・」

 ひどい二つ名だな。


「お、お嬢様は、お可愛らしい二つ名なのに、ずいぶんと攻撃力が高い魔法をご存じですのね・・・・・・?」

「うん。ボクってば、意外と火遊びが好きなんだあ・・・・・・」

 ネイピア・ネースター。二つ名はマーマレードの魔女。


「わ、私ごときと決闘をなさっても、ご一門の誉れとはならないのではなくて・・・・・・?」

「お互い作法に則って名乗ったでしょ? 名誉か死か、決闘の結末はいずれか一方だよ?」

 ヤバい。正直言ってヤバい。

 まさか相手が本物の魔女とは思わなかった。

 力の差は歴然。どうする・・・・・・!?


「ボクはね、ネースター家の跡継ぎとして、黄金のマーマレードを作らなくちゃいけないの! キミの論文なんかよりはるかに重大な問題でしょ!」

 んだとコラ・・・・・・いえ、仰るとおりでございます。


「それに、英語くらいボクには造作もなく読めちゃうんだから!」

 な・・・・・・それも魔法で!? いやそうか、こいつはたぶんネイティブ・・・・・・

「ゴーゴル翻訳!」

 そっちかい。

「ず・・・・・・ずるっ! それは無しだろ!」

「あっははははは! 魔法と科学、両方を使いこなせるボクに怖いものなんてないんだから!」

「てめ・・・・・・」

 プログラムもメモリのことも分かってないのに自分はコンピュータを極めたとか思ってる奴っているよね。あと、こいつって日本人だったのか?


「頼むぜえ、ゴーゴル先生!」

 ネイピアはターンとドヤ顔でエンターを押す!



――マーマレードの作り方は、皮を剥いだピポローを絞る。絞られた汁、これは私の胆汁です。それよりも砂糖を加える、なぜなら砂糖はアヒルだからです。カエサルは言った、我思うゆえに我あり、というのもここが私のピレネー・・・・・・



「あ、あれ・・・・・・?」


 おや。

 ネイピアの表情が固まる。

 そしてその瞬間、俺は生き残るための秘策を思いついた。戦闘で勝てなくても、ネイピアにとって俺が利用価値があることを示せばよいのだ。

 ネイピアはマーマレードを作らなければならないと言っていた。そして文献を調べていたということは、現時点で黄金のマーマレードの製法を知らないのだ。だったら何とかなるぞ。


「ふふふ。気付いたようだな」

 普通の英語だったら俺だって読める。それにゴーゴル翻訳を使うってことくらい思いつくさ。だが問題はそこではない。

「その修道士が書いた文献はな、中英語つって古い英語で書かれてるんだよ。文法も単語の意味も現代とは違う。しかもそのクソ修道士は方言まじりの不完全な文法で書きやがった! 機械翻訳で何とかなる代物じゃねえんだよ! ちゃんと英文法や論理、歴史的背景が分かっててようやく意味を推測できるかできないかって本なんだ!」

 それもこれも修道士が下手な英語で書いたせいだ! 方言で書くのはまだいいけど中途半端に知識人ぶって妙なラテン語混ぜないでくれる!? 読みにくいだけなんだけど! あと仮定法ばっか使うのまじでやめろ。それと、古典から引用したいならちゃんと引用して欲しい。間違った引用ばかりで混乱が生じる。


「お前にゃ読めねえだろ。残念だなあ、俺はここ最近勉強して少しは中英語も分かってきたところなんだが・・・・・・」

 俺はちらりとネイピアの方を見る。彼女は唇を噛んでぷるぷると震えている。


「決闘の結末は名誉か死か・・・・・・か。古いねえ、そういう固い考え方じゃ人生やってけねえぜお嬢ちゃん」

 作法がどうとか知らんが、こいつが融通の利かないタイプでないことを祈る。俺の利用価値を売り込んで何とか打開策を・・・・・・

「け、決闘を始めたからには・・・・・・」

 ネイピアは絞るような低い声を出す。

「名誉か死か・・・・・・」

 こらバカ、お前真面目か!? 自分にとってトクな方はどっちか考えろ!

「名誉なんか知るか・・・・・・!」

 あれ? なんかセリフ変わったぞこいつ。


「と、東風・・・・・・いえ、木枯先生・・・・・・」

 急に俺の呼び方が変わった!

「ボク、この本読めないよ! これじゃマーマレード作れないよおおお!」

 うわああああああんと泣き叫ぶネイピア。何が魔術師の誉れだ、節操無しか!?


「け、決闘はやめるから! 引き分けにしてあげるからアア! マーマレードの作り方教えてよおおおお!」

 引き分け? 俺の大勝利じゃなくて?

「なんか言った?」

 俺の鬢をレーザーが掠める。ようしいいだろう。引き分けだ。



「何でもネットに頼れば何とかなると舐めてかかるからだ。一次史料まで遡るなんてなかなかやらないもんなー」

 まあ、最初ネットの情報だけで論文書いて先生に怒られたのは私ですが。


「じゃあ、東風は読めるの?」

 ギク。

「・・・・・・いやね、色々推測はしてるんだけども」

「推測なら誰だってできるよ。東風は読めるの?」

「・・・・・・」

 修道士の料理本を前に固まる俺。

「東風だって読めないんじゃん! バーカバーカ!」


「お・・・・・・俺は論文書いてるんだぞ! お前よりかは読めらア!」


「ボ・・・・・・ボクが興味があるのはマーマレードの製法だけだもん。東風の論文なんて微塵もこれっぽっちも興味ないんだから! どうせ思いつきのテーマでしょ!? 興味関心なんてなくて成績のために書いてるだけなんでしょ!」

 言いやがったな。本当のことを言いやがったな!


「へえ・・・・・・いいのかなそんなこと言って。俺はお前を助けてやることができるんだけどなあー」

「ふん。東風は魔法なんて使えないし文献も読めない役立たずでしょ! 口先だけで誤魔化そうたってダメだもん。やっぱり、キミなんてプヨプヨ鳴くカエルに変えてあげる!」

 プヨプヨ鳴くカエル。逆になってみたい気もするが。


「バカめが。俺はな、こんな修道士の文献なんざ読めなくたってうまいマーマレードくらい作れるんだよ」

 まあ嘘だけど。でもこちらには秘策がある。


「信じないってんならそれでもいい。でもな・・・・・・」


 マーマレードの魔女よ、ついてこい!

 俺たちは図書室を後にして、スーパーに向かった。


「大量のミカン!」

 マーマレードの材料となるミカン。10個400円の大特価。

 ここは俺のおごりだ。感謝しろよ、マッチ棒!


 公園に移動して、と。

 ネイピアは俺の後ろを雛鳥のようにとことこと付いてきました。レーザーを飛ばさず静かにしてれば可愛いですむんだけどな-。


「見てろ、ネイピア。貴様にマーマレード作りの何たるかを教えてやる」

 ゴクリ。

「俺はこのミカンの山から甘い奴だけを選ぶことができる・・・・・・!」

 コツは、手でにぎにぎしたときに、少し指が食い込む程度に柔らかい奴を選ぶこと。小さい頃、よく預けられた祖母宅に大量のミカンがあって、それを食べているうちに身につけた特技だ。俺にとっては簡単なんだけど、他の人には難しいらしく、よく驚かれるのだ。


「ほれ。これは甘いぞ。これも・・・・・・これもいいね」

 ネイピアは疑うような眼差しで俺の慣れた手つきを見ている。だがその表情に少し不安が混ざっているのは、どうもはったりではなさそうだとの印象を受けたからであろう。実際、これははったりではないぞ!

「で、こっちは酸っぱい。ネイピア、お前にくれてやろう」

「なんで!? 甘いの渡してよ!」

 ベニクラゲの抗議はものともせず。

「さあ、選び終わったぞ。こちらの山が甘く、こっちが酸っぱい。が、酸っぱいのは二つだけ。この袋は当たりだな!」

 まあ、甘いのが多そうな袋を見た目で選んだんだけどね。コツは表面の光沢というか鮮やかな色味。

 ともあれ、ご賞味あれ。

 ぱく。

「く・・・・・・」

 ネイピアの顔色が曇る。俺の実力を知ったようだ。

「まあ、こんなのは序の口よ。お前はあの文献でヒイヒイ言っていたようだが甘いな。本などに頼ってはいかん、マーマレードとは足で作るものよ」

「足で作るって・・・・・・どういうこと?」

 さあ。先生が言った言葉を使ってみたかっただけだ。

「甘いミカンを選ぶ技術を身につけるだけで10年くらい修行せねばならん」

「そ、そんなに・・・・・・!?」

 嘘ですけど。小さい頃勝手に身につけた技術だし。


「ほれほれ。俺なら、お前がマーマレードを作るのを手伝ってやれるんだけどな? いやー、俺くらいミカンを選ぶのがうまい奴ってそんなにいないと思うぜー?」

「うぐ・・・・・・」


「わ・・・・・・分かったよ。カエルにするのはまた今度にしてあげる・・・・・・」


 ふう、助かった! 魔法が使える奴には勝ち目なんてないからな! こっちには能力なんてないし!


「と、東風・・・・・・? 甘いミカンを選ぶ方法、教えてくれる・・・・・・?」

 ほう。なかなか素直ではないか。

 そういう弟子には教えてやらんでもない。


「コツはねえ、こう片手で持って少し揉んでみて・・・・・・」

 まあ、マッチ棒ごときがこの技を身につけるのは無理だろうがな。


 10分後。

「簡単じゃん・・・・・・」

 あ、あれ? なんかもうコツを掴んでらっしゃる? にぎにぎ、甘い酸っぱい、右左。あれあれ、俺がして見せたのと同じことしてるぞー?


「そ、それは俺の教え方がよかったから・・・・・・」

「何が10年の修行だよ」

 そんなジト目向けないでよ。


「だいたい、マーマレードって日本のミカンじゃなくてオレンジで作るんだし!」

 うぐっ! 痛いところ突くな。


「もう怒った! キミみたいな嘘つきのホラ吹き、白いブロッコリーに変えてあげる!」

「それはカリフラワーでは?」

「違いますうー! カリフラワーとブロッコリーは別種でーす! バーカバーカ!」

 く・・・・・・言ってることは正しいが腹立つな。



「マーマレードの魔女を怒らせたこと、後悔させたげる! 花粉症より辛い呪いを掛けてあげるんだから!」


――ナルハヴァルの祝い!


「ぎゃああああああっ!!!」


 やられてしまった! 俺はここでくたばるのか・・・・・・!

 しかし何ごともない。

 くしゃみ一つしない。

 何となく身体がむずむずして、ピッと人差し指を向けてみると。


 先ほどの光が出た!


「ナルハヴァルの光!?」

「そんな、どうして・・・・・・」


「ま、まさか・・・・・・ボクが発動した魔法は」


 サルでも分かる楽しい魔法!

 祝い(祝福)について。

 祝福とは、自分の魔力を他者に分け与える一連の魔術です。掌にクルミを優しく握るイメージで魔力を集中させ・・・・・・



「お前、まさか・・・・・・」


「呪いと祝いを間違えたな!? 漢字が似てるからだろ!」


 ナルハヴァルの祝福。

 これを受けた者はナルハヴァルの力を使えるようになるらしい。たとえ本人に魔法が使えなくても!


「ハハハハハハ! ありがとよ! テメーの祝福を受け取ったぜ!」

 祝福を受けた者はその魔法が使えるらしい。ちょうどソフトウェアのようなものだ。祝福とは複製に似たものなのだろう。


「わああああん! 返して! ボクの祝福だよ! ナルハヴァルううう!」

 ネイピアが泣きながら腕を引っ張ってくるがどうしようもない。だって、俺も返し方わかんねえもん。

 これで魔法が使えないという不利も消えた!


「マーマレード作りだったか? お前が俺に弟子入りするってんならちったあ手伝ってやらんでもない・・・・・・」

「く・・・・・・」

 ミカンの選び方についてはまだこっちが上。加えて魔法までゲット。


「どうする? 俺は祝福を受けたから魔法が使えるし、てめーにゃもう勝ち目なんざねえんだよ」

 そう。

 このアホが間違って俺によこした祝福。これさえあれば俺も魔法が使えるのだ。


「さあ我が眷属ナルハヴァルよ。あのベニクラゲめを屠って参れ・・・・・・」


「ナルハヴァルの光!」

 ジュッ!

 指の先端に鋭い痛みが走って・・・・・・!


「あちゃちゃちゃちゃちゃ!」


「ぷ・・・・・・くふっ! あーっはっはっはは!」

 ネイピアの高笑い。腹立つな!

「ばかばかバーカ! 祝福はね、与えられたからってそんな簡単に使いこなせるものじゃないんだよー!」

 赤く腫れた人差し指を手で押さえてうずくまる俺を、マーマレードの魔女が爆笑する。

「ボクみたいに使いこなすにはね、最低でも20年の修行が必要なんだから!」


「嘘だな」

「・・・・・・」

「てめー、どう見ても未成年だろ! どうやって20年の修行を積んだんだ、言って見ろ!」

「そ、それは・・・・・・時間が濃縮された部屋で・・・・・・」

「ほっほー! だったらそこに入りゃあ俺もすぐに使いこなせるって訳だな!?」

「い、いや、そこに入るのに30年の修行が」

「じゃあてめーはどうやってその30年の修行を積んだんだ! どう見てもまだ18歳以下だろうが!」

 だいたいネイピアからは修行を積んだ者に特有の威厳というか雰囲気が感じられない。

 ネイピアは目元に涙をためると

「うるさあああーい! とにかく東風に祝福は使えないんだから! ボクの下で修行しなきゃ使えないもん!」

 本当か? 怪しいなー・・・・・・


「東風なんて祝福を間違って使って自爆すればいいんだ! 用法間違えるとタイが入ってないタイ焼きになっちゃうんだから!」

 それは普通のタイ焼きでは? と思ったが、確かにそうだ。得体の知れない魔法を使うのは危険だ。


「どう? 東風がボクに魔法戦を挑むってんなら好きにすれば? まあ、ヤケドしちゃうかもだけど!」

「く・・・・・・」

 こいつの言うとおりだ。祝福を受けたからと言ってすぐに魔法が使えるとも限らない。とはいえせっかく使えるようになった魔法を失いたくはないし、こいつに弟子入りなんて絶対嫌だ!

「じゃあ・・・・・・こうしよう」


「俺はお前にマーマレードの作り方を教えてやる。その代わり、ナルハヴァルの祝福の使いかたを教えてくれ」

 なんかひどい交換条件だな。マーマレードと魔法ですか。

 まあ、断られたら大けが覚悟で魔法戦じゃい。このベニクラゲと刺したがえるまでよ!

「うーん・・・・・・」

 顎に手を当てて考えるネイピア。こいつが沈思黙考する様子はなぜかサマにならない。どことなく子どもが背伸びしている感覚がつきまとう。

「いいよ!」


「いいの!?」

 提案しといてなんだけど、ジャムの製法と魔法の使い方って釣り合わねえぞ?


「別にいいよ! だってナルハヴァルの魔法ってただの目くらましだもん!」

「なっ・・・・・・」

 あの光はレーザーとか悪を払う聖なる光とかじゃなかったのか!?


「てめエエエエ! 騙しやがったな!? 何が用法間違えるとタイ焼きになる、だ!」

「それじゃあ東風よろしくね! 目くらましの術を教えたげるからマーマレードの作り方教えてね!」

「ちょ・・・・・・待て! もう少しいい魔法ないんか? 中英語も教えるからあと一つくらい祝福よこせエエ!」


 かくして俺とネイピアはともに学びあい教えあう学友となったのであった!


マーマレードの魔女、いかがでしたでしょうか?

こんな感じでコメディを続けて行きたいなあ、と思っております。


ご意見ご感想など頂けますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ