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万能剣士は月夜に現れる  作者: 桐村 三歩
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誓いの言葉

 また同じ夢を見ている。

 もう何度も繰り返される光景に、もはや焦ることはない。

 それが目の前に広がった瞬間『ああ、またか』とため息をつくだけなのだ。


 まだ小さいわたしは、一生懸命にお花畑を走っている。

『うふふ』とか『あはは』とか言う声が聞こえそうだが、そんなことはない。

 光に霞んだお花畑の風景は一見して美しく幸せな光景に思えるが、前に進もうとするわたしの意思に反して、ちっとも変化がない。

 優雅な雰囲気とは裏腹に、わたしの心はささくれ立っていく。


 どうして何も変わらないの。

 どうして前に進めないの。


 それはわかり易いほどに普段のわたしの生活を表していて。

 ずっとこのままだったらどうしよう。

 その焦りはジレンマなどというものではなく、ある種の恐怖となってわたしを覆っていく。


 怖くなったらどうしたら良いのか。


 じっと縮こまる?

 ひたすらに泣く?


 違う。わたしは逃げるんだ。

 恐怖からは逃げるしかない。


 でも後ろに向かって走ることだけが逃げるのではない。

 前に向かって走るのも逃げることだ。

 どっちだって良い。

 恐怖に飲み込まれるわけにはいかないのだから。


 逃げることは良いことだって教えてくれた人がいる。

 本当に逃げ切るためには強くならなければいけないと剣を教えてくれた。

 弱さを自覚し、真の恐怖と対峙し、必死に逃げる術を考える。それを極めれば『強くなれる』とその人は言った。


 ぼんやりと視界が変わってきた。

 脳が覚醒していく。

 いつもの夢はここで終わる。


 ふと、あの男の子のことが頭に浮かんだ。

 何だかオロオロしていながらも、必死に走り回ってわたしたちを救った子。

 その献身的な行動は皆に勇気と力を与えてくれた。

 でも驚いたのはその後だ。

 わたしの横について、魔獣と戦った。

 剣を振るう者同士が近づいて共闘するのは危険が伴う。その刃が相方を傷つけることがあるからだ。

 けれども、あの子は違った。絶妙の呼吸でわたしの横にいた。

 わたしは途中から彼のことをほとんど気にせずに剣を振るった。無視したわけではなく背中を預けたということだ。

 剣の指南書に出てくるようなことだ。そんなことが本当にできるとは思わなかった。


 寝返りを打つと青い光が室内に差し込んできた。

 お屋敷の中で最も早起きの人々が動き出すころかなと思った。

 今日も1日が始まる。

 わたしは今日を昨日と同じ日にはしないと心に念じた。

 夜明けは近い。

 わたしは空に手をかざして誓いの言葉を頭に浮かべた。

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